『北斗の拳』新作アニメが“理想の映像化”と言われるワケ 序盤の悪役も忠実に描く“原作完全再現”のすごさ
映画『ちいかわ』やサイエンスSARU版『攻殻機動隊』など、現在ネット上で話題になっているいくつかのコンテンツで見られる論点が「原作そのままの映像化か否か」である。『ちいかわ』は原作者であるナガノ氏が製作にがっつり関わっていることでクオリティを担保していたし、『攻殻機動隊』は士郎正宗の原作コミックのテイストをなるべくそのままアニメ化しようと腐心しているように見える。
「原作そのままか否か」は原作とそれを映像化した作品を見比べればすぐにわかるし、原作ファンならば「よくやってくれた!」と言いたくなるだろう。またその中でアレンジが加えられた箇所があれば、その意図や効果について考察したり語りたくなるのもわかる。作品についてファンがSNSに意見を書いたり論争したりするのが日常的になっている昨今、「原作そのまま」な映像化は大変語りがいのある題材なのだ。
そんな昨今、あまりにも原作そのまますぎる映像化として話題を集めた作品が、ひとつ前のクールに存在した。『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』である。
序盤のマイナー悪役まで網羅!ファン歓喜の忠実な映像化
『北斗の拳』として三度目のテレビアニメ化となった『FIST OF THE NORTH STAR』。『北斗の拳』生誕40周年記念作品であり、これまでのテレビアニメとは違いキャラクターたちをCGで作画した点も新しい。声優陣も旧テレビアニメ版から一新され、主人公・ケンシロウを演じるのは武内駿輔。そして本作最大の特徴が、原作コミックをほぼ完全にそのまま映像化しているという点だ。
よく知られていることではあるが、コミックの『北斗の拳』をそのまま映像化したアニメ作品はこれまで存在しなかった。1984年から2年半にわたって放送された初代アニメの『北斗の拳』、そしてそれに続き放送された『北斗の拳2』には、当時のコミック原作アニメでよく見られた原作の改変や引き伸ばしといった要素が見られ、原作そのままとは言い難いところがある(原作に近いところもたくさんあるが)。80年代の人気絶頂期に製作されたこの二作が映像作品としては最長で、その後に作られた映画やOVAではコミックのその後の物語が描かれたり、原作の流れが再構成されたものになったりした。長大かついくつもの章立てに分かれている原作コミックを映像化するのは、なかなかの難事業なのである。
この難事業にトライしたのが、『FIST OF THE NORTH STAR』だ。本作は「ケ〜ン、来ちゃだめ〜!!」の第一話に始まり、サザンクロスでのKING軍、そしてシンとの激闘が原作のスピード感そのままに描かれる。コミックと見比べればキャラクターの動きの方向や間もほぼ完璧に再現されており、セリフも拾える範囲で全て拾われている。もし手元にコミックがあるならば、ぜひ見比べながら見てほしいところ。一方でアニメならではの良さもしっかり盛り込まれており、ケンシロウの拳の速さや飛び散る血飛沫といった動きのある要素はコミックにはない見どころとなっている。
そして驚いたのは、GOLANやジャッカル一味との戦いといった、序盤の細かい戦闘がしっかりと映像化されていた点である。『北斗の拳』の序盤はまだ「ケンシロウと北斗・南斗の"強敵(とも)"たちとの激闘をストーリーの主軸にし、ラスボスにラオウを置く」という作品の方向性がガッチリと固まっておらず、一般的にはさほど知名度の高くないキャラクターがポロポロ登場する。が、それはあくまで一般的知名度の話であり、コミックのファンからすればマッド軍曹(サージ)もカーネルもジャッカルもフォックスもデビルリバースもかなり印象深い悪役たちだ。そんな印象深い序盤の悪役たちが、ちゃんとコミックと同じセリフを言い、無辜の弱者を相手に目を覆いたくなるような悪行を働いたのち、ケンシロウにぶちのめされてバラバラになる! す、素晴らしい!!
初期『北斗の拳』に凝縮された、圧倒的カタルシスとスピード感
正直なところ、自分は『北斗の拳』の面白さは序盤、ジャギ戦あたりまでに濃縮されていると思っている。この時期の『北斗の拳』のストーリーは、基本的に「ケンシロウの前に新しい悪役が出現→ものすごい悪事を働いて読者のヘイトを集める→ケンシロウ激怒→弱者には強く出てきた悪役も北斗神拳正統継承者には歯が立たず、そのまま処刑」という流れでできている。登場した新たな悪役たちが凄惨な悪事を働き、読者はそれに対してケンシロウと同じタイミングで同じように怒り、そしてその怒りが北斗神拳によって炸裂。悪役が無惨に死に、正義は勝ち、しかしまたしても無辜の民の血は流れ、読者はカタルシスを感じつつも、世紀末の非情さを知るのである。血と暴力に彩られたこの繰り返しが『北斗の拳』独特のグルーヴ感を生み出し、この作品を時代を代表する人気作に押し上げたのだと思う。
巻数を重ねるにつれて物語の焦点は南斗の男たちの人間関係やラオウの動向、そして南斗最後の将の正体とそれをめぐる戦いへと集中していく。そしてその過程で回想シーンが大量に挟まれるようになり、物語のテンポ感は少しづつ落ちていった。そうなって以降も充分面白い作品なのは間違いない。が、初期『北斗の拳』のグルーヴ感は、ここまでの人気連載になるとは誰も思っていなかったがゆえにアイデアを惜しみなく使い捨てられたからこそ生み出されたものであり、『北斗の拳』が一大タイトルとなった今では二度と再現不可能なものである。終盤、カイオウとの戦いののち、ケンシロウ自身が「兄」的なポジションになってからの物語もけっこう好きではあるのだが、やはりノーブレーキで突っ走る初期の『北斗の拳』の味わいには及ばないと思う。
その初期『北斗の拳』の速度、あの刹那的なスピード感が、『FIST OF THE NORTH STAR』ではまさにアニメとなって再現されている……! 悪役たちはとにかく悪く、ケンシロウは圧倒的に強く、そしてストーリーはシンプルでわかりやすく、面白い。これが『北斗の拳』の強さか……と、改めて思い知らされた。また、毎週放送される点は週刊漫画誌を一週ずつ読んでいく感覚に近いところもあり、当時の読者のヒリヒリするような興奮を追体験できたようだった。「今改めて放送される『北斗の拳』のアニメ」として、あまりにも正しすぎる作品だったと思う。
どこまで描くのか?ラオウ戦のその先「修羅の国編」への期待
気になるのは、このスピード感を映像作品としてどこまで保つことができるのかという点だ。『FIST OF THE NORTH STAR』は現在ジャギが登場したところまでで止まっており、続きは2027年に放送されることがアナウンスされている。ジャギ編からしばらくは初期のスピード感を保っており、ジャギにしてもかなりあっさりと退場するので、『FIST OF THE NORTH STAR』でもそのあたりは原作準拠で進んでいくことだろう。
だが、サウザー編あたりからは作品のスピード感が変化し、ちょっと話が進むごとに回想シーンが挟まるようになる。原作コミックが大人気作になり、このあたりからはアイデアをこれまでのような速度で使うわけにはいかなくなったことが如実にわかるのだが、素直に映像化してしまうと明確にテンポが落ちるはず。ここをどう処理するかは、今後に注目したいところだ。
また、原作のどのあたりまでを映像化するのかも気になるところ。もちろん一番人気があるのはラオウ戦あたりまでだろうが、正直「修羅の国編を今映像化したらどうなるのか」という点には自分も興味がある。また修羅の国編が終わった後に登場する悪役である、コウケツやボルゲが動いているところもぜひ見たい。長大な原作を全て走り切るのか、それともラオウとの決着で打ち止めとするのか、一旦放送がストップしている今も気になって仕方がない。
前述のように2027年の放送再開が予定されており、その際にはまた話題になるはず。1クールのみなら追いつくのもそれほど苦ではないはずなので、未見の方にはぜひ一度見ていただきたい作品だ。なにより何度も書いているように原作そのままの『北斗の拳』映像化であり、コミックの味わいが色濃く反映されている作品である。なぜこの作品が40年前にここまで人気になり、今でも熱心な読者が多数存在しているのか。原作未読でも十分理解できる、理想的な映像化が『FIST OF THE NORTH STAR』なのである。