『チェンソーマン』デンジの“三度目の恋”は成就する? 『レゼ篇』を再演する第二部の展開
怒涛の快進撃が続いている映画『チェンソーマン レゼ篇』。同作は主人公・デンジとミステリアスな少女・レゼの出会いを描いた物語で、原作コミックスの5巻から6巻にあたる内容が映像化されている。
それではこの『レゼ篇』は、『チェンソーマン』という作品全体においてどのような位置づけのエピソードなのだろうか。本稿では作者・藤本タツキがいま何を描こうとしているのか、そのテーマについて考察していきたい。
『レゼ篇』の位置づけを考える上で重要になるのは、当然ながらヒロイン・レゼの存在だろう。デンジにとって彼女は“初めて対等な目線で恋をした相手”であり、精神的な成長にも少なからず大きな影響を与えている。
それまでデンジの女性との関わり方は、対等な関係とはかけ離れたものだった。パワーには猫を助けてくれたら胸を揉ませてやると言われ、姫野には悪魔を倒せたらキスをしてあげると言われるなど、条件付きで欲望を満たして貰っていただけだ。その一方でマキマに対してはたんなる欲望ではなく恋心を抱いていたものの、これも対等とは言い難い関係性だった。
そんななかで登場したレゼは、デンジにとって初めて“無条件で自分を幸せにしてくれる相手”だったと言えるだろう。学校生活を体験したり、泳ぎ方や戦い方を教わったりと、短いあいだにさまざまなものを与えられている。
もちろんレゼの言動は大部分が演技で、打算的なものだったことが明らかになるが、そこに少なからず本心が秘められていたことも事実。自分の境遇とデンジの境遇を重ね合わせて、共感していた節すらある。そのため2人の関係性は、紛れもなく恋愛に近いものだったのではないだろうか。
しかし現実には2人が結ばれることはなく、悲劇的な結末を迎えることになる。しかもここで重要なのは、デンジはレゼの想いを知る機会が最後までなかったということだ。デンジの目線からすると、レゼは「自分と一緒に逃亡する未来を選んでくれなかった相手」であり、一方的な片思いだったということになってしまった。
すなわち『レゼ篇』で描かれた内容は、「デンジが初めての恋と初めての失恋を経験するまでの話」とまとめることができる。だからこそこのエピソードは、血なまぐさい出来事ばかりの『チェンソーマン』第一部において、例外的な位置づけにあった。
その一方で現在連載中の第二部では、“デンジの恋愛”というテーマがあらためて正面から扱われているように思われる。
もう一度デンジの前に現れた“対等に付き合える相手”
第二部の主人公・三鷹アサはとある出来事をきっかけに、“戦争の悪魔”ヨルと融合することになる少女。チェンソーマンを強くライバル視しているヨルのせいで、激しい戦いの日々に巻き込まれていく。
当初アサはヨルの言いなりで、「デンジを自分の武器に変える」という打算的な意図を持って近づいていた。しかし徐々に2人の距離感は縮まっていき、やがてアサはデンジに対して好意を抱くようになる。
そもそもデンジとアサは、お互いに近い境遇を経験してきたキャラクター。2人とも家庭環境に由来するトラウマを持っており、大切な人を次々と失っていくという壮絶な運命も共通している。だからこそアサはレゼがそうだったように、デンジに対して共感を示し、対等な目線で寄り添うことができるのだった。
レゼと異なるのは、アサが自分の想いをデンジに対して素直にさらけ出していることだ。たとえば「老いの悪魔」に囚われた際には、絶望するデンジを励ますため、自分も同じようなどん底の気持ちになったことがあると打ち明ける。さらに「落下の悪魔」との二度目の戦いでは、「私がデンジを幸せにする」とすら言い放ち、その方法を一緒に考えようとしていた。
他方でデンジも第一部の頃より成長を遂げており、アサの悩みに寄り添おうとする姿勢を見せる。そうして2人はお互いの気持ちを通じ合わせていき、地獄のような世界から抜け出そうとするのだった。
つまり第二部では、『レゼ篇』で失敗に終わったデンジの恋愛が“やりなおし”させられている……という風に受け取ることもできそうだ。だとすると、デンジを自分の支配下に置こうとするヨルは第一部におけるマキマに近い立ち位置ということになるのかもしれない。
デンジは今度こそ恋愛を成就させ、「普通の幸せな生活」を手に入れることができるのだろうか。暴力と愛に満ちた『チェンソーマン』の物語がどのように着地するのか、最後まで見届けたい。