山田裕貴が『呪術廻戦』伏黒恵から影響を受けた言葉とは? 異色のフォトブック『怪人』インタビュー
俳優の山田裕貴氏が、単行本『怪人』(東京ニュース通信社)を10月14日に発売した。本書は“役を生きる”をテーマに2019年から約6年間にわたって『TVガイドdan』で連載したものをまとめた一冊で、10月18、19日(土、日)には、大阪と名古屋、東京・渋谷で本作のお渡し会イベントを開催。本記事では、イベント後に行った独占インタビューをお届けする。取材場所に現れた山田氏は、あたたかな笑顔で本作の撮影エピソードや現在の心境などを語ってくれた。
「もっといろいろできる」チームが覚醒した「蟻」の回
――「山田裕貴の怪人百面相」というタイトルで約6年間続いた連載を振り返ってみて、今どんなことを思い出しますか?
山田:文豪や野球選手などいろいろ挑戦してきましたが、中でも一番思い出深くて感動したのは「蟻」の回です。被り物だとアートじゃないし、衣装もメイクもどうすればいいか分からず、最初はスタッフみんなで「どうする?」と話していたんですけど、スタジオに背景用として準備された茶色い紙がたまたまぶら下がっていたので「これをクシャクシャにして入り交じらせたら、土の中みたいに見えるんじゃない?」と僕が紙をクシャクシャし始めたら、カメラマンさんも「それいいかも」となり、照明さんやスタジオのスタッフさんたちの熱も上がってきて、みんなで意見を出し合って現場を作り始めたんです。その時に「あぁ、僕が一番幸せを感じる時間ってこれなんだよな」と実感しました。
――連載では「花屋」や「カメラマン」などにも扮していますが、中でも「蟻」は特異ですよね。
山田:「蟻」はこの連載チームの意識が変わる一つのきっかけになりました。実はその前あたりからネタも尽き始めてきて、この連載を終わらせるならこの辺が潮どきかなと思っていたんです。でも「蟻」をやったことで、もっといろいろなものをやってみようとアイディアが広がっていったし「もう一回頑張ってみるか」という気持ちになり、みんなが覚醒した瞬間でした。
いいものを作るって、予算があるということではなく、現場にいるみんなに火がついて、「なんかいいものができるかも」と面白がり始める時間なんだと思います。最初は「これは難しい、無理だ」と言っていたけど「もっとこういう風にした方がいいんじゃないか?」と色々意見を出し合ってやっていったら、ハイブランドの広告みたいなかっこいいものが撮れました。みんなが情熱を燃やせばこんなにも芸術的な作品ができるんだということを確信したし、考えればいくらでもできるんだということを実感しました。
各モチーフ着想の背景とは?
――「怪人」とは、正体が不明で怪しく気味の悪い人物、または不思議な能力を持つ人物を指す言葉ですが、山田さんは「怪人」にどんなイメージがありますか?
山田:僕にとっては、明石家さんまさんや志村けんさん、ビートたけしさん、大谷翔平選手が怪人です。いい意味での「化け物」であり「どうすればここまでに到達できるんだ!」と思う人たちですね。
――撮影テーマも、職業系から概念的なものへと移り変わり、中には「月」や「雲」など驚くような「怪人」もいましたが、その発想力や想像力の「種」はどこからやってくるのでしょうか?
山田:デビューしたての頃、「D-BOYS」という同じ事務所の男性若手俳優のグループがあって、ブロマイドを出していたんです。大体は顔が良く写っている角度やポーズで撮るのですが、僕は内心「つまらないな」と思っていました。それを買ってくださるファンの方もいたので本当にありがたいことなんですけど、当時は「なんでこんなに個性がないことをやっているんだろう?」と思っていたんです。その後、多少工夫できるようになったので「僕の顔は映っていなくていいです」と提案したり、椅子に何人も自分が座っているような写真も発売したりして、それが受けたかどうかは分からないけど、僕は楽しかったんですよ。やっぱり自分が楽しいかどうかが絶対に重要だと思うし、その時の経験が今回の「怪人」につながっていると思います。
せっかく『TVガイドdan』で連載を始めるんだったら、自分の好きなようにやらせてもらおうと「もうちょっとセピア強めで」とか、写真の色味なんて学んだこともないのに(笑)そういう用語を使いながら撮影したりしてすごく楽しくなってきたんです。「やっぱり作品ってこういうことだよな」と思える現場でした。
――「着ぐるみ」の回も、このテーマができるのは山田さんしかいないと思いました。
山田:着ぐるみだと中がどんな人か分からないから、これが山田裕貴かどうかも分からないじゃないですか。それに、着ぐるみだったら何でも言えるんですよ。これは僕の仕事にも通じるところがあるのですが、仮面をかぶっていれば何とでも言えるというか。そういったメッセージを受け取ってもらえたらいいなと思って撮った回でした。そういう思いを大事にして、それを面白がってくれるチームで作ったから、6年間続けてこられたと思っています。
――特に「月」が印象に残っているのですが、「月」になっている時はどんなことを考えていたのですか。
山田:僕も「月」は好きな回です。月は恒星ではなく、地球の周りを回りながら太陽の光を反射して光っているので、僕自身は真顔で真っ正面にいて、照明がいろんな角度から変わっていく写真だけを載せたかったんです。だけど、雑誌を作る人たちにしてみれば、ページにいろいろなショットがないといけないので、それだけを載せるのは編集的に無理難題なんですよね。でも「月は自分では回っていないから僕が回転するのはおかしいし、太陽が当たっている角度で地球から見える月が変わるから、光だけが変わって欲しいので、その写真だけを載せてください」と編集さんに何度か相談して、あの写真を掲載するに至りました。
誰かの力を借りなければいい作品はできないし、岡本太郎さんが言うように「芸術は爆発だ!」なので、それがアートになっていれば何でもありだと思うんです。『TVガイドdan』の僕のページだけ「何これ?」って思われるものをやりたかったし「こういう風にやらせてください!」という僕の思いを汲んでくれたチームだったから、僕もこの連載を本にしようと思えました。
『呪術廻旋』から学んだ解釈の柔軟性
――役者としての表現と、今回のような静止画での表現の違いや可能性をどんなところに感じますか?
山田:「人じゃなくてもいけるじゃん!」と思いました。例えば「クラゲ」の回は、小さい流れるプールみたいなところで撮ったのですが、スタイリストさんが用意してくれた衣装を地上で着てみたら、結構気持ち悪かったんです(笑)。でも、水中だとちゃんとアートに見えたんですよ。きっと本物のクラゲも、地上で見たらまぁまぁ気持ち悪いじゃないですか。そこもちゃんと狙っているので「さすがだな」と思いました。
「雲」もいろんな顔をするよなと思い、笑ったり全然カメラを向いていなかったり、なんなら写真を逆さに配置してみたり。そういうところから着想を得てやっていました。きっと、視覚的に見えている人やものを表現しようとするから縮こまるし、つまらなくなると思うんです。
僕は『呪術廻戦』(芥見下々著)ですごく好きなセリフがあって、登場人物の一人、伏黒恵が「領域展開」という必殺技を出す時に「もっと自由に。広げろ、術式の解釈を!」と言うんです。もっと解釈を広げていろいろなことを想像すれば、自分の領域も広げられるということを『呪術廻戦』から学びました。要は、小さい人間になりたくないんです。例えば、相手の俳優さんがどんな表現をしてきたとしても、それを受け止める力があれば「そういう風にくるなら、僕はこうしよう」といった柔軟性は身についていると思います。
話したことがどう捉えられるのか。伝え方の難しさに悩んだ時期も
――俳優デビューして今年で14周年。様々な役を演じてこられましたが、パブリックイメージと素のご自身とのギャップを感じることはありますか?
山田:よく「沈黙は金」って言うけど、以前は「もう話したくないな」と思うこともありました。僕がインタビューや記者会見で話したことが、違った意図で切り取られることがあって「なんでちゃんと伝えてもらえないんだろう」とか「話の意図が理解できていないなら、もっとちゃんと質問してほしいな」と思うことがよくあったんです。
実は今日の記者会見でも「自分のキャパを増やすためにも、作品の準備する時間が欲しい」ということを言ったのですが、ネットニュースには「休暇が欲しい」というところが大々的に取り上げられていて「それは言わなきゃよかったな」と反省していたところです。
――同じ言葉でも、どう捉えられるかは相手次第なところもあるので、伝え方が難しいですよね。
山田:そうなんですよね。でも、自分の思いはあるし、それを伝えなければいけないし、伝えたいという気持ちもあります。それに、記事を書いている人たちのせいだけでなく、伝える方もちゃんとしなきゃいけない義務があると思うので、そこが難しいです。昔はそれを気にして「なんでああいう風に言っちゃったんだろう」とか「そういった意味で言ったわけじゃないです」と訂正したい気持ちになることもありましたが、今は「もう放っておけばいいや」と思える余裕は出てきましたね。
あとは、ズルいかもしれないけど、僕が話したことも「本当かどうかは分からないです」と言ってしまえばどれだけでもねつ造できるということを、映画『ベートーヴェン捏造』で学びました(笑)。
今はまだ骨組みの途中
――2025年は、主演映画3作に『怪人』の発売など、特別な一年だったかと思います。俳優さんの中には「20代は○○期」と、ある程度の人生設計を立てている人もいますが、山田さんはご自身の現在地をどのように捉えていらっしゃいますか?
山田:以前、自分のSNSで「20代は土台を固めて、30歳から40歳までに骨組みを組んで」といったことを書いたことがあるのですが、35歳の今はまだ骨組みの途中です。自分自身が確信できる圧倒的成功体験もまだだと思っているし、例えば「山田裕貴の代表作といえば何ですか?」と聞いて挙げてもらえる作品はまだないと思うので、いつか街中で「あの作品の山田裕貴は本当に良かったよね」といった会話が聞こえてくるようになるのがひとつの目標です。
現在地は特になくて、どこにでも行きますね。逆に言うと、明日になったら気が変わっているかもしれないから、例えば「ハリウッドの作品が決まりました」となったら「次は世界に照準を合わせます」と言っているかもしれないです。こういう場も含めて、今僕が思っていることを伝えてはいるけど、もしかしたら明日は違うことを思っているかもしれないので、それは本当にごめんなさいですね。流れに身を任せているので、ここから先どこに行くかも分かっていないし、壁も作らないし、自分の領域や限界を決めていないんです。昔は「こうじゃなきゃダメだ」って思いすぎていたけど、30代半ばになり「まぁ、いいか」という余裕が出てきました。感情や気分も含め、縦横無尽に移動させられる感覚があるので、今はフラットでいい状態です。
■プロフィール
山田裕貴(やまだ ゆうき)
1990年生まれ、愛知県出身。近年の主な出演作は、大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合ほか)、ドラマ「君が心をくれたから」(フジテレビ系)、映画「キングダム 大将軍の帰還」(’24)など。ラジオ「山田裕貴のオールナイトニッポン」(ニッポン放送)は毎週月曜深夜に放送中。今年は、映画「木の上の軍隊」、「ベートーヴェン捏造」、「爆弾」と主演作が続くほか、待機作に26年春放送のTBS系スペシャルドラマ「ちるらん 新撰組鎮魂歌」が控える。
オフィシャルサイト:https://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000042/
Instagram:https://www.instagram.com/00_yuki_y/
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■書籍情報
山田裕貴『怪人』
出版社:東京ニュース通信社
発売日:2025年10月14日
定価:3,300円(本体3,000円 税10%)
◆書誌詳細ページ https://zasshi.tv/products/53999/
「怪人」公式X:https://x.com/yy_kaijin