『ONE PIECE』の世界にいる“普通の人物”を描くーースピンオフ『ONE PIECE FAN LETTER』の魅力とは？
2024年にテレビアニメ『ONE PIECE』25周年記念作品として放送され、大きな反響を呼んだ『ONE PIECE FAN LETTER』。2025年6月にガイド本『ONE PIECE magazine 別冊 Focus on “ONE PIECE FAN LETTER”』が発売され、本作品が再び注目を集めている。
「『ONE PIECE』を“追い求めない”人々」を描く本作品には小説の原作が存在しており、小説には小説にしかない魅力がある。
本記事では『ONE PIECE FAN LETTER』や小説『ONE PIECE novel 麦わらストーリーズ』の魅力について、ワンピース研究家の神木健児氏に話を聞いた。
「漫画を原作としたストーリーではないアニメエピソードのなかでは、個人的に『ONE PIECE FAN LETTER』がこれまでで1番好きでした。放送が発表されたときは、原作ストーリーの箸休めのような雰囲気になるかなと思っていたのが正直なところです。しかし蓋を開けてみると全然その枠を超えていて、『ONE PIECE』を再開発してくれたと言っても過言ではない面白さだったと感じています。
原作完結によってアニメが終了しても、『ONE PIECE』ほどの作品であればスピンオフを随時制作してくださると思います。ただ、内容は人気キャラのその後とか側面とか、メインキャラに焦点を当てたモノになると考えるのが自然でしょう。でも『ONE PIECE FAN LETTER』が良すぎたので、幅が非常に広がったというか。『世界にいる人の数だけできるじゃん！』と思いました。純粋に楽しんでいるファン目線ですけど、本当に『ここまで良いモノを作ってくれてありがとうございます！』とびっくりしましたね」
『ONE PIECE FAN LETTER』は、『ONE PIECE』が好きであればあるほど面白い作品だと神木氏は続ける。
「やっぱり『ONE PIECE』を違う側面から楽しめるのが、『ONE PIECE FAN LETTER』の大きな魅力だと思います。焦点を当てているのは麦わらの一味と直接関係がある訳ではない人物で、メインの少女にさえキャラクター名はありません。『ONE PIECE』の世界にいる“普通の人物”を描くことを目的にしているため、名前もつけない徹底ぶりにこだわりがうかがえますよね。それでも物語は原作に沿っており、シャボンディ諸島やマリンフォードでも、『もっと奥にカメラを向けたら少女がいたんだろうな』とか『もっと寄ったらリトルオーズJr.の下敷きになった海兵のドラマがあったんだな』とか、スピンオフを楽しみながら『ONE PIECE』本筋の解像度もグッと上がる作品だったと思います。すべて知ってるシーンでありながら、カメラ位置を少し変えるだけで色々な物語があると再認識できたのがすごく面白かったです。さらにすごいのが、『ONE PIECE FAN LETTER』は物語を一から作ったアニメではないことですよね」
原作小説『ONE PIECE novel 麦わらストーリーズ』でのみ楽しめる物語もあるという。
「『ONE PIECE FAN LETTER』は、2017年に発売された『ONE PIECE novel 麦わらストーリーズ』を原作としている作品です。1冊に9つのストーリーが収録されていて、『ONE PIECE FAN LETTER』はそのうちの1つのストーリーを中心に、6つか7つのストーリーを盛り込みながら約30分にまとめています。重要な部分を背景が見える形で自然に入れて、ストーリーを魅力的にまとめているのが本当にたまらなかったですね。
アニメとノベルでは違う部分もあって、例えばアニメでのメインキャラは“ナミが好きな少女”でしたが、ノベルでは“ナミが好きな少年”なんです。省かれたポイントも多いので、『ONE PIECE FAN LETTER』が好きだった方は『ONE PIECE novel 麦わらストーリーズ』もきっと楽しめると思います。アニメではポイントで描かれていた酒場の3人組の話なんかも、ノベルでは1つの物語としてしっかりと描かれています。
一度読んだ方も、『このシーンアニメに反映されてたんだ！』という発見があると思うので読み返すのもおすすめです。もちろん、アニメではまったく描かれなかったストーリーもあります。文字が大きめで1冊を9つのストーリーで分けているので、1つ1つの物語はサラッと読めるのも魅力。『ONE PIECE FAN LETTER』の衝撃と魅力にもう1度浸りたいときは、ぜひ『ONE PIECE novel 麦わらストーリーズ』を手に取ってみてください」
