「もちづきさん」「すしカルマ」……人生狂ったヒロイン=「逆ファム・ファタール」漫画人気の理由は?
■なぜ? 人生狂ったヒロインを題材にした漫画が増加中
魔性の魅力によって主人公の人生を狂わせてしまうヒロインのことを、創作の世界では「ファム・ファタール」というが、最近ではこれをひっくり返したような作品が増えつつある。主人公ではなく自分自身の人生が狂っている、いわば“逆ファム・ファタール”とでも呼ぶべきヒロインが目立っているのだ。
たとえば『週刊ヤングマガジン』(講談社)連載の『平成敗残兵☆すみれちゃん』は、その代表的な作品の1つだろう。
ヒロインの東条すみれは、31歳の元アイドルという設定。酒とパチンコに溺れる生活を送っていたところを年下の従兄弟・泉雄星に感化され、人生にもう一花咲かせることを目指していく。
しかしすみれの行動には、しばしば性根のクズさが顔を出す。滞納した家賃の支払いに使うはずだった同人写真集の売り上げをパチンコに注ぎ込んだり、大手サークルとの共同の売上金300万円を着服してバイクを買ったりと、どこまでも欲望に流されてしまうのだ。
さらにその後登場した“すしカルマ”こと颯子という元アイドルも、強烈なインパクトを与えた。彼女は売れない成年向け同人作家となっているが、プライドが高く、心の中ではいつも他人を見下しながら生きている。ひねくれた性格で、まともな恋愛経験もなく、遥かに年下の高校生である雄星に歪んだ欲望をぶつけていく……。なんとも恐ろしい人物だ。
また『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で連載されている『のあ先輩はともだち。』のヒロイン、“のあ先輩”こと早乙女望愛は、極端に社会性が欠けている。
彼女は一見仕事ができるキャリアウーマンに見えるものの、実は感情がとてつもなく“重い”女子。ゲーム会社に勤める後輩・大塚理人に「友達」になってもらうのだが、そこで常識の範囲を逸脱した要求を繰り広げていく。
メッセージの返事が遅いといって泣く、「友達2ヶ月記念日」を忘れたと言って泣く、挙句の果てには恋人ができても自分との関係を優先してほしいと言う……。もはや“モンスター友達”と呼ぶのがふさわしい。
とはいえ「毎日一緒に飲んでほしい」「他の人と会話しないでほしい」と主人公に強く執着する姿は、ある意味“面倒くさい彼女”に近い。庇護欲をくすぐられる人がいても、おかしくはないだろう。
こうして見てみると、すみれも颯子ものあ先輩も、読者がまったく共感できない人物というではない。むしろ誰もが他人事とは思えない“安心感のあるダメ人間”といった印象を受ける。つまるところ読者が「なんてどうしようもない人なんだ」と思いながら不思議と愛しくなってしまうのが、逆ファム・ファタールの魅力なのではないだろうか。