青山拓央 × 吉川浩満が語る「問い」の育て方 『哲学の問い』オンライントークショー配信開始

 哲学者の青山拓央による注目の新書『哲学の問い』(ちくま新書/8月8日刊)の刊行を記念して、文筆家・編集者の吉川浩満とのオンライントークショーが8月30日よりZoomウェビナーにて配信される。(blueprint book storeにて『哲学の問い』を購入された方が視聴可能。アーカイブ視聴は9月15日まで)

 『哲学の問い』はバラエティ豊かな24の問いを通じて〈哲学をするとはどのようなことか〉をつかみ取る入門書。取り上げられる問いは「世界は物質だけでできているという考えは、科学的だと言えるのか」「犯罪者は、非難の対象ではなく治療の対象として扱われるべきか」「何かが本当に存在しているとは、いったいどういう意味なのか」など。前編の二人の若い男女の〈対話〉編、後編のエッセイ形式で分析が進められる〈論述〉編で構成されているが、コロナの時代の恋やチャットGPTについてなど、現代的なトピックも多く含まれているのが特徴だ。 

 トークショーでは『理不尽な進化』『哲学の門前』など多数の著作があり、哲学・科学など諸分野に知見の深い吉川氏を聞き手として迎え、哲学とは一体どういう営みなのかという普遍的な問いに迫った内容となっている。

 例えば、本書は初学者に適した入門書形式で書かれたこともあって、トークの中では青山氏が子どもの頃に哲学に目覚めた瞬間について語られた。一番遡って考えてみれば、なんと幼少期に階段から滑り落ちてしまったという出来事が、哲学に向かわざるをえないと感じた決定的な経験だったという。吉川氏はそこで生まれた問いに対して「非常に面白い」「青山哲学の原風景だ」と感嘆した。

 そして青山氏が学問としての哲学に関心を持った経緯も率直に語られる。それは真面目に授業に出ていなかった大学生時代だったとのこと。単位を落としてばかりで成績が悪いために、人気のない哲学科にやむなく進級したのがきっかけだった。しかしその研究室で廃棄されていた、ある哲学者の本を拾って読んで感銘を受ける。さらに有名哲学者がその哲学科に着任することとなり……。そんな数多くの偶然が重なったエピソードについて、吉川氏は「秘密を聴けてありがたい」と話していた。

 その他にも、独創的な論文(文章)を書くための実践的な方法、学生時代に有名哲学者の授業を受けて驚いたことなど、貴重な話題が盛り沢山となっている。そこで本記事では特別に、対話の冒頭を抜粋・編集してお届けしたい。「哲学の入門書」はこれまであえて書かないでいたという青山氏が、今回の新刊を刊行するにいたった経緯を明らかにした。

哲学というのは問いを育てるもの

吉川:青山さんはたくさん本を出されていますが、いわゆる入門書を一人で書くのは初めてだそうですね。これまで自ら禁じてきたところがあるそうですが、今回、この本をお書きになったきっかけについてお話いただけますか。

青山:哲学の入門書を書くのはかなり難しいことだという認識がありました。大学では、一般の入門向け授業(共通教育)と哲学専攻の学生向けの授業の両方をやります。前者の入門向けの授業は、実はやる側としては必ずしもやさしいわけじゃないんです。これは本も一緒だと思っています。専門書のほうが入門書より書くのが難しくて時間がかかると思われがちですが、そうでもないんですね。

 入門書は全くその分野に知識がない人に魅力を伝えるという独特の難しさがあります。そういう中で、以前、ちくま新書で分析哲学の入門書『分析哲学講義』を出させていただきました。そのように分野が規定されていれば、読者もそのジャンルが知りたくて読んでくださる。読者の方にもある程度その分野への興味や知識があるわけです。それに対して、哲学の入門書というのは、もっとモヤっとしています。だから自分が考えている哲学観を読者にバンと提示することが求められていると思いまして。その意味でなかなか私としては、もうすぐ50歳になる今の年齢まで書くことができなかったんです。大学で長年教えてきた今ならば、書けるかなと思いました。この本は前半が対話編で、後半が論述編で一般的な文章ですが、この形式であれば私なりの哲学入門が書けるんじゃないかと思いました。

吉川:まさに今、青山さんがおっしゃったように、この本はちょっと面白い構成になっています。前半が若い男女の対話になっていて、後半はいつものご著書のような論述スタイルになっている。このスタイルの違いが青山さんの哲学観のプレゼンテーションになっているんです。その意味で非常に秀逸な構成だと思いました。青山さんは、哲学というのは問いを育てるものだとしています。その育て方には「横に育てる」「縦に育てる」の2種類があると。「横に育てる」を対話の方で、「縦に育てる」を論述の方で実践なさっています。

 育てることにも順番があって、最初は連想や横滑りをしたり、関係ないことを考えたりする。そういう「横に育てる」という段階が必要だと思います。この前半の問いは、私自身が元々興味があった哲学的問題もありましたし、普通の哲学入門書では取り上げられないようなトピックもありました。例えば、心配性で心配をたくさんするのはよくないことなのか、など。こうした問いの選び方が非常にユニークで面白いなと思ったんですが、どういう基準で選ばれたんでしょうか。

青山:一つは変な言い方ですけど、本当に疑問に思ったことを書いてます。ちょっと言い方が不適切かもしれませんが、哲学の問いを集めたタイプの本では、哲学の歴史の中で有名な問いがカタログ的に集まってることが多いんです。それに対してこの本では、私自身が実際の生活の場面で本当に疑問に思ったことを集めています。これってどうなっているんだろう、わかっているようでわからないな。そう思うことをピックアップしました。

 もう一つは本の前書きで書いたんですが、勤務する京都大学の学生たちの問いを参考にしています。授業では学部を問わずいろいろな学生に教えていますが、いろんな文章を読んではディスカッションしているんです。その中で実際に学生たちが生き生きと問いを出して、議論を組み立ててくれたトピックを選びました。

吉川:今のお答えでこの本の魅力の一つが解き明かされたように思います。まだ刊行されたばかりなので、長い時間をかけて読んでいませんが、この1週間くらいでも何回も読みたくなるんですよね。例えば、同じように若い人たちが対話するスタイルの本では、野矢茂樹さんの『哲学の謎』(講談社現代新書)があります。あれも名著で、何回も読みたくなるんですね。(続きは配信でお楽しみに)

※オンライントークショーは、blueprint book storeにて『哲学の問い』をご購入された方を対象に、8月30日(金)よりZoomウェビナーにて配信されます。アーカイブ視聴は9月15日(日)までなので、視聴をご希望の方はお早めにご購入ください。

◆ イベント情報
『哲学の問い』刊行記念トークショー
出演者:青山拓央、吉川浩満
日 時:2024年8月30日(金)19時〜
配信サービス:Zoomウェビナーにて配信
配信期間:2024年8月30日(金)19時〜2024年9月15日(日)23時59分(アーカイブ視聴可)
参加対象者:blueprint book storeにて書籍『哲学の問い』を購入した方→https://blueprintbookstore.com/items/66bae0da27582901aa4ff2a0

■商品情報
『哲学の問い』
著者:青山拓央
発売日:2024年8月8日
価格:968円(税込価格)
出版社:筑摩書房

【目次】 
はじめに

〈対話〉編
1 それ自体として価値あるもの
2 同じ色を見ている?
3 自由のために戦わない自由
4 科学は〈べき〉を語れるか
5 犯罪者をどう取り扱うべきか
6 情報のない会話?
コラム1 哲学をする、問いを育てる
7 経験機械とマルチプレイ
8 実在するってどういうこと?
9 宇宙人の見つけ方
10 自然が数学で書ける理由
11 〈生活神経〉と心配性
12 世界は急に消えるかもしれない
コラム2 哲学の文章を精確に読むために

〈論述〉編
13 コロナの時代の恋
14 同性婚・リベラル・保守
15 妨げられることなしに
16 自由意志を実験する
17 押せないボタン
18 時間の窓と色ガラス
コラム3 哲学書を拾う
19 唯物論とは何か
20 隠された意識
21 チャットGPTは接地する
22 記憶としっぺ返し
23 生まれと育ちにおける運
24 幸福を語る、闘いの場

おわりに

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