【漫画】カラスも葬式を行うの? 生命の営みを描く『きみの絶滅する前に』に心が救われる

――作品の反響や印象的な感想などはありましたか。

後谷戸隆(以下、後谷戸):生きづらさを感じている方が本作を読んで「少し救われた」というような感想を複数いただいており、嬉しく思います。

我孫子楽人(以下、我孫子):まず、友人など周囲の人が大変喜んでくれました。記事を書いてくださった方も何人かいらっしゃって、胸が熱くなりました。

――『きみの絶滅する前に』の着想や制作の原動力は?

後谷戸:まず「子が生まれなかったペンギンのカップルが石を温めることがある」という事実を知ったことがあります。「孵らない卵を温め続ける」ことにやるせなさを感じたこと、だからこそ「そこに意味があってほしい」という衝動はひとつの原動力でした。

――作画と原作はどのようにコミュニケーションをとられていますか?

後谷戸:私がシナリオを書き、我孫子さんがネームにします。それをこちらが修正し、作画していただいています。基本は絵の面、デザイン面は楽人さんにお任せしている感じで。

我孫子:距離的な問題で頻繁にはお会いできませんが、親睦を深めるためにうなぎや餃子を食べに行ったり、寺を拝観した後にカモメの襲撃に遭った思い出があります。後谷戸さんのキャラクターも面白く、意外にも多弁な方なので、なかよぴです。

――なぜカラスを主人公に、お葬式を描いたのでしょうか。

後谷戸:カラスが葬式をするのは、よく知られています。実際のところ、その「葬式のように見える行為」が本当に葬式なのかどうかはカラスに聞かないとわかりません。

 作中でロコが尋ねたように、単に仲間の死体の側に集まって鳴くことで周囲に危険がある、と知らせているだけなのかもしれません。しかし、それをカラスのお葬式だと解釈してはいけないという証拠も現時点ではないようです。

 あらゆる生命の、あらゆる営みは結局のところ無意味になりますが、そうであるならば、あらゆる生命のあらゆる営みは虚無への抵抗と捉えられます。お葬式はその最たる例かもしれない。そんな経緯で描きました。

――作画についてはいかがですか。

我孫子:最終話の回想シーンでは、陰影のつけ方を変えて雪あかりのような演出をしてみたり、カラスの回では風景の奥をぼかして雨でけぶるような描き方をしたりしました。

 キャラデザインは、人間同様の動きが取れるようにデフォルメしています。後谷戸さんは、キャラデザに関してとても放任的な方なので、ほとんどディレクションはなかったです。

後谷戸:完全にお任せしてしまいました。ごめんなさい……。

――憧れ、影響を受けた作品や作家はいますか?

後谷戸:第1話で私が最も好きな短編小説であるハーラン・エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』で大量殺人犯ウィリアム・スタログが死刑を宣告される直前に叫んだ台詞をオマージュしています。

 はるか時間の彼方の存在から狂気を押し付けられ、母親に爆弾を持たせて飛行機を爆破し、満員御礼のスタジアムで人々に向かって銃を乱射した彼がどうして最後の最後に愛を叫ぶことができたのか。それは狂気の発作にすぎず愛などではないのだと切り捨てることは簡単ですが、それでは割り切れなさが残るのです。

我孫子:自分は図書館で『ブラックジャック』を読んでから、手塚治虫先生に強く影響を受けているかと思います。現代作家では和山やま先生、沙村広明先生、虫歯先生など、独自のカラーが強く出ている先生方が好きです。

 映画監督では、クエンティン・タランティーノ監督、アレハンドロ・ホドロフスキー監督など。作品では『羊たちの沈黙』が震えるほど面白かったです。

――作家としての展望、なりたい作家像を教えてください。

我孫子:脳内のイメージしたものをそのまま手で印刷できるような人間コピー機になりたいです。

後谷戸:「言葉と言葉の通常ではない組み合わせを作りたい」ということが、恐らく私が文章を書いている一番大きな動機です。なぜなのかはまだわかりません。でも今の場所から離れた遠くに行きたくて、そのために手っ取り早いのが言葉を使うことなのだからなのかもしれません。そういう作家になりたいと思います。

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