「才能」とはなにかーー沖縄アクターズスクール創設者・マキノ正幸が見出した、安室奈美恵の輝き

安室奈美恵にはモデルがいた

「“16ビート16ビート”って、レッスンでもすごくいわれていたときだった。いまの私には16ビートを刻むのが足りなかったかな(笑)。で、刻んだら、昔にもどれた感じがすごくあったんですよね」(2017年、沖縄ライヴ密着ドキュメント『安室奈美恵  平成の歌姫:日テレ・Hulu』より抜粋)

 16ビートが安室を誕生させたといっても過言ではないが、そんな安室を見つけたマキノは彼女を特待生として入学させた。その際、ある歌姫とのイメージが重なったという。

「僕が初めて安室を見たときに(中略)感じたフィーリングは、実は紀美子を見初めたときの感覚と同じだ。(中略)僕はきっと、安室のなかに紀美子を見ていたのだ」(P.78)

 紀美子とは笠井紀美子のことである。この貴重な証言は自著以外に思いあたらず、拙著『ダンスの時代』(リットーミュージック)で考察させてもらった。それはともかく、ふたりは同棲していたというのだから、安室に突き動かされた直感がマキノの五感を総動員させるほど生々しかったことは想像にかたくない。

 経験者以外はダンスを語ることが許されない風潮がある。だが、ダンスとは無縁だったマキノが、おなじくダンサーではない笠井の残像から安室の輝きを発見したことは、ダンス業界の可能性を広げることにつながったのではないか。信じがたいことに当初、安室の才能を周りに伝えても、マキノに同調する者はいなかったらしい。この話は、ダンスの才能を見抜くのはダンスの才能ではないことを証明している。

 いっぽうで、そのことを自覚していたダンサーもいる。この6月が一周忌だった夏まゆみ(モー娘。他の振り付け担当)も、言葉の力を作家並みに信じていた。精神論だけでは片づけられない“なにか”があるにちがいない。

 才能とはなにか。『才能』を読んだところで一流のダンサーになれる保証はない。だが、読んで力が湧いてきたとき、身体が入れ替わったように軽くなっている。踊ることも才能も思い悩むほど遠い場所にはない。マキノが教えてくれたことは、きっとそういうことだとおもう。

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