なぜ大人に大人気? 台湾発の絵本『ママはおそらのくもみたい』作者に聞く、悲しみを乗り越えるために必要なこと

■人が悲しみを「ともに歩んでいくため」に必要なこと

ハイゴー・ファントン氏

――人が悲しみを乗り越えるときには、どのようなことが必要でしょうか。

ハイゴー・ファントン:悲しみは克服しなくてもいいんじゃないかな。悲しみと一緒に長い時間を過ごしていく。その過程で少しずつ慣れていくのかもしれません。

 自分も何か悲しい出来事があったときには、頑張って早く乗り越えなきゃと思っていました。でも、時間が経ち後から考えてみると、悲しみを乗り越える必要があるのだろうかと感じるんです。悲しみとともに長い時間を歩んでいくこともできると今は思っています。

――本作はぜひ大人にも読んでほしい素敵な絵本でした。お二人は大人にとっての絵本についてどのように考えていますか。

ハイゴー・ファントン:台湾では1990年代頃までは絵本があまり流通しておらず、私は20歳を過ぎてからやっとこの世界に絵本があるということを知りました。

 大人にも絵本を楽しむことができると思います。「絵本なんて簡単なことが書いてあるだけでしょう」と思う人もいるかもしれません。でも、この絵本のように、大人でも理解できないことがたくさん書いてあります。

リン・シャオペイ:まずはもちろん、この絵本の物語を楽しんでほしいという気持ちがありますが、同時に親になった大人たちもちゃんと自分らしくあってほしいなと思うんです。ママはかけっこではいつもカエルくんを追い抜いて一番になります。そこが私たち二人が気に入っているところで、人は親になったとしても、自分らしくいていいんだと思います。

――大人も読者として想定しながら制作していますか。

大人のほうが子どもよりもすべてわかっているわけではないと話すハイゴー・ファントン氏。

ハイゴー・ファントン:特に小さい幼児向けの絵本は、その対象向けに作りますが、それ以外の絵本であれば、対象は限定せずに、大人か子どもかは関係なくみんなに向けて作っています。

 もちろん、子どもは大人と比べると知識は少ないし、難しいことは理解できないかもしれません。でも、この物語の中では、パパよりも先にカエルくんが「ママはおそらのくもみたい」だと気づくんですね。パパはそれを教えられて前を向くことができた。だから、大人のほうが子どもよりも何もかもわかっているということはないんです。

リン・シャオペイ:子どもも大人も、それぞれ感じるものがあるはず、と思って描いています。カエルくんを描くにあたっては、子どもは何を考えているのかなと考えました。でもパパを描く時には、大人はこういう時に何を考えるかなと想像しました。

 カエルくんについては、子どもがお母さんを思う気持ちはどんなものだろうと考えながら描いていました。今の時代はスマートフォンなどで身近な人の写真や動画を記録することができるかもしれません。そういうものを見ながら、この料理はお母さんが好きだったな、などと振り返ることもできます。

子どもと大人、それぞれがどう思うのかを考えて絵を描いたというリン・シャオペイ氏。

 でも、お母さんに抱きしめられる感覚は再現することができません。表紙の絵はカエルくんが雲に包まれています。まるで大好きな毛布に包まれているかのように、お母さんに抱きしめられているようなイメージにしています。子どもはこういう風に感じるんじゃないかと思って、こういう表紙にしました。

 一方、カエルくんのパパのことを考えるときには、悲しみに沈んで深く落ち込んでいる大人のことを考えました。グダッと無気力になってしまって、何もしたくないというイメージで描きました。

カエルくんの気づきで前向きになったパパ

■大切な人との思い出は、将来、必ずあなたの助けになる

――最後に日本の読者に向けてメッセージをもらえませんか。

ハイゴー・ファントン:皆さんにも、カエルくんにとってのママのように、大切な存在がいるはずです。そんな家族、友達、一緒に暮らす動物などとの思い出をたくさん積み重ねてほしいです。もちろんすべてが楽しい思い出ではないかもしれませんが、それが将来、必ずあなたの助けになると思います。

リン・シャオペイ:まずは私たちの作った絵本が雲のように、台湾から日本まで流れてきたことを光栄に思います。この物語が日本の皆さんに伝わって、何かを感じ取ってもらえたならば、それだけで嬉しいですね。

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