光石研「自分の半生を振り返る機会をいただいた」エッセイ集から見える名優の知られざる日常

続けることによって自分の好きな絵や文章が生まれてくる

本書には光石によって描かれた故郷のイラストも収録されている

──光石さんといえば多趣味な方だというイメージがありますが、かつては俳優業に集中するため、全部をやめた時期があったと本書で明かされています。現在の光石さんの生活において、“趣味”とは何でしょうか?

光石:洋服は好きですが、かといってファッションが趣味かというと、何だか違う。古い車に乗るのが好きだけど、これも趣味かと聞かれたら違う気がする。だからいま、趣味としてのめり込めるものがないんです。絵を描くことは好きで、『リバーサイドボーイズ』にも僕が描いた故郷のイラストが載っています。でも、絵に没頭するほどの時間がなくて……。

──映画やドラマで毎日のように見ていますから、その忙しさは想像できます。

光石:本当にありがたいことです。やっぱり現場が好きですから。ただ、絵を描いたり、文章を書いたりするのは、継続することによって馴染むものです。続けることで、ようやく自分の好きな絵や文章が生まれてくる。だからたまの休みの日にやってみたところで、全然うまくいかないんです。「下手くそ!」ってなっちゃって(苦笑)。

──ほんの一瞬がブランクになると。

光石:ブランクの連続です。なので日々の楽しみといったら、YouTubeを眺めながらお酒を飲むことくらいかな(笑)。あと音楽も大好きですよ。ずっと聴いていたいくらい好き。それで、何とかって名前のサブスクに入ったはいいものの、使い方が分からなくてお目当ての曲にたどり着けないんですよ……。そうなるとやっぱりCD。手で触れられるモノが好きです。

──ランニングにハマっていたエピソードも印象的でした。

光石:最近はごくたまに走るくらいです。コロナ禍で自由に外出できず、そこでモチベーションが下がっちゃって。マラソン大会なども中止になりましたから。ランニングこそ、日常的に続けなければすぐにブランクになっちゃいます。走り続けないと体力も筋力もすぐに落ちる。それで奮起して習慣化しようとすると、また仕事で走る時間を確保できなくなって……。いまでは帰宅するとすぐに「プシュッ(缶ビールを開ける音)」とやっちゃう日々です(苦笑)。でもフルマラソンは本当に感動しますよ。自分の走りに対してではなくて、沿道からの声援に泣かされるんです。

大好きな音楽とお酒が、忙しい日常のなかでの息抜きに

──続けることの重要性は、現場に立ち続ける光石さんご自身が証明されています。多忙な日々を過ごされている光石さんは、どのようにしてオンとオフのバランスを取っているのでしょうか?

光石:撮影終わりに、好きな音楽を聴きながら自分で運転して帰路に着くのがリセットになっているのかもしれません。その後はお酒を飲んで、さらにリセット。けっこうシンプルというか、みなさんと変わらないんじゃないかな。

──俳優業が日常にある光石さんらしいなと思います。

光石:でも、何かしらの作品にずっと関わっていると、現場の夢を見たりするんです。セリフを忘れてしまってどうしよう……みたいな。それで目が覚めちゃったりするので、ストレスフルなんだとは思います。でもありがたいことに、ずっとこれで続けさせていただいていますから、これはしょうがないことなのかなと。

 それから最近はこうして、職種の違う方とお会いする機会が増えてきました。これが大きな刺激になります。息抜きと言ったら失礼ですが、僕としては違う回路が開けますし、何より楽しいんです。

──となると、まだまだこれからが楽しみですね。

光石:本当にそうですね。僕らの仕事は基本的に受け身というか、自分からアクションを起こすことはなかなか難しい。なので、これからもいろんな方から声をかけていただけるように、あちこちで右往左往して、もがいていこうと思います。

“架空のバンド「リバーサイドボーイズ」のワールドツアーTシャツ”をイメージして制作されたトップスを着用

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