『進撃の巨人』は“大人”も活躍する物語だった……ひっそりと世界を救った影のヒーローとは

※本稿は『進撃の巨人』の最終話までの内容を含みます。ネタバレにご注意ください。

 『進撃の巨人』の主役といえば、同時期に訓練兵団を卒業した「104期生」の少年少女たちが真っ先に思い浮かぶ。彼らの活躍によって、未曽有の危機に陥った世界が救われたことは今さら言うまでもないだろう。

  しかし実はその影では、何人もの大人たちが世界を救うために奮闘していた。ひっそりと活躍した“影のヒーロー”がいなければ、物語はもっと最悪の結末を迎えていたかもしれない……。

  作中で最初に登場した偉大な大人としては、ドット・ピクシスを挙げられる。彼は「駐屯兵団」の司令官でありながら、変人として知られており、ほかの大人にはない柔軟な考え方を示してきた。それを象徴するのが、トロスト区攻防戦での出来事だ。

  巨人の襲来によってパニックが広がるなか、エレンが巨人化の力を持っていることが露呈。「駐屯兵団」の隊長であるヴェールマンは、リスクを排除するためにエレンの処刑を決断し、アルミンの決死の説得にも一切耳を貸そうとしない。

  しかしそこに駆け付けたピクシスは「相変わらず図体の割には小鹿のように繊細な男じゃ」と言いながらヴェールマンを制止し、エレンたちと対話することを選ぶ。さらに「エレンの力でトロスト区の壁に空いた穴をふさぐ」という夢物語のような作戦を採用し、すぐさま実行に移すのだった。エレンの戦略的価値が知れ渡ったのは、この作戦あってのことだ。もしピクシスがいなければ、『進撃の巨人』の物語はここで終わっていたかもしれない。

  ちなみにアニメ版では、ピクシスは巨人襲来の直前まで貴族の城でチェスの相手を命じられていた。しかし超大型巨人の出現というニュースを聞くなり、引き留めようとする貴族を意に介さず、戦地に向かっており、より一層優秀さが強調されている。

  また、トロスト区攻防戦では多くの犠牲者が生まれたが、「兵士を失った」と表現することを拒み、自分の命令によって命が失われたことを強調。そこで放った「人類が生きながらえるためならわしは、殺戮者と呼ばれることもいとわん」というセリフは、作中屈指の名言だろう。

  ピクシスがキーマンとなったのは序盤だけでなく、王政編においても重要な役を演じていた。同エピソードでは、エルヴィンが王政に対するクーデターを画策し、周囲の人間を巻き込んでいったが、当初ピクシスは計画に乗り気ではなかった。人類の未来にとって、王政を維持する方が望ましい可能性も捨てきれなかったからだ。

  しかしウソの情報を流し、王政の関係者たちを試すことで、権力が腐敗しきっていることを理解。その場でクーデターへの協力を決断するのだった。他人の考えに流されるのではなく、自分の頭で真実を見極めようとする姿は、ピクシスの聡明さを象徴している。

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