宮沢賢治、没後90周年  手塚治虫、松本零士、宮崎駿……偉大な漫画家やアニメーターはなぜ”賢治”から影響を受けるのか

 2023年9月21日は、童話作家の宮沢賢治の没後90周年という節目の年である。賢治は現在の岩手県花巻市に1896年に生まれ、『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』など数々の傑作を残した。岩手県の自然風土や法華経信仰に根差した世界観は、その後の多くの作家に影響を与えている。

 特に今年は、映画『銀河鉄道の父』が公開されたり、関連書籍や音楽、アニメなどが登場。それぞれが話題となっていて、賢治作品に興味を持つ人が増えている状況だ。賢治は100年以上も前に生まれたのにも関わらず、世代を超えてなぜ愛されるのか。特に世界中から注目を集めている日本のポップカルチャーに与えた影響は計り知れないものがある。

  中でも漫画の神様・手塚治虫も賢治の世界観に魅了された一人だ。賢治の童話『やまなし』をベースにした、タイトルがそのままの『やまなし』という短編作品がある。1985年に描かれた作品で、ページを上下二段に分けてそれぞれ別の物語が展開されるという、変わった構成の漫画である。賢治の童話をもとにしたお芝居の様子と、戦時中を舞台に『やまなし』の舞台を上演しようとする親子の話が描かれる。

  手塚は戦争体験をたびたび語っているし、何度も漫画にしている。自伝的な漫画『紙の砦』はセンター試験の問題に使われたことでも有名だ。手塚は戦時中を題材にした作品は特別な思いを抱いて描くことが多く、この『やまなし』もそんな手塚の反戦への思いが表れた作品だ。と同時に、引用元となった賢治の『やまなし』もきっとお気に入りの作品だったに違いない。

  手塚は「『銀河鉄道の夜』を読む」というエッセイも残している。このエッセイでは、移動中の飛行機の中で『銀河鉄道の夜』のことをふと思い出し、主人公のジョバンニの気分に浸りながら夜空の星を見続けたと綴っている。鉱物や昆虫など自然の造形物に魅了されている点でも手塚と賢治は共通点が多く、共感し合う部分はあったのかもしれない。

  今年亡くなった松本零士も、言わずもがな、賢治の影響を大きく受けている。『銀河鉄道999』は賢治の『銀河鉄道の夜』から着想を得たとされる。読売新聞の報道によれば、2012年に松本は花巻で公演を行っているが、その際も「宮沢賢治のふるさとの花巻だから」と快諾したという。

  スタジオジブリのアニメーターの高畑勲は、1982年に賢治の小説をアニメ化した『セロ弾きのゴーシュ』を手掛けている。また、宮﨑駿も賢治の世界観から強い影響を受けた。『千と千尋の神隠し』の終盤で、千尋がカオナシと一緒に電車に乗っている場面は『銀河鉄道の夜』から着想を得ているといわれる。『となりのトトロ』で、バス停でサツキとメイがトトロに遭遇する場面は『どんぐりと山猫』からヒントを得ているといわれる。

  また、賢治の作品は短編が多く、ジャンルも多岐に渡っているため、新人漫画家がアイディアのヒントを得たり、物語の組み立て方を学ぶ上でも大いに役立つといわれる。この先50年、100年も、賢治の作品から影響された漫画、アニメーションは次々に誕生しそうである。 

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