実写ドラマ化決定のグルメ漫画『天狗の台所』は何が新しい? “料理×素朴なファンタジー”の不思議な魅力
講談社「アフタヌーン」誌で連載中の人気グルメ漫画『天狗の台所』(田中相)の実写ドラマ化が発表された。料理をテーマにしたヒット作は多いが、新しい路線を走っている同作はドラマ化でさらに注目を集めそうだ。
ニューヨークで育った少年・オンは突然、「あなたは天狗の血を引いています」と告げられる。天狗の末裔には「14の歳は人目につかず生きよ」というしきたりがあり、1年間、日本で暮らす年の離れた兄・飯綱 基のもとで生活をすることになってーー。
と、冒頭のあらすじを見るとなかなか尖った設定に思えるが、オンと基の世俗を離れた隠遁生活は素朴そのもの。決して刺激的ではなく、しかし丁寧で印象深い田舎暮らし(といっても舞台は東京都らしい)が展開される。自然豊かな土地で、野草等もふんだんに使ったオーガニックな料理は、素朴ながら時におしゃれにも感じられ、真似したくなる人も多いだろう。
本作の何が新しいのか。天狗という亜人種が主人公のファンタジーではあるが、『ダンジョン飯』や『とんでもスキルで異世界放浪メシ』のように異世界の食材が登場するわけではない。しかし「天狗の末裔」で「隠遁生活を強いられる」という世界観は随所に効いており、ただスローライフを描く作品になっていないのが新鮮だ。
一方で、料理をテーマにしていても『孤独のグルメ』のように強烈に食欲を刺激するものでもなければ、『きのう何食べた?』のように節約レシピが参考になるわけでも、『深夜食堂』のように料理を通じた哀愁が描かれるわけでもない。ちょっと変わったバックグラウンドを持った凸凹の兄弟が、食材や料理を介して通じ合っていく何気ない日々の描写が微笑ましい作品だ。
その不思議な魅力に誘われて読み進めていくうちに、オンと基という対照的な二人が好きになっていく。
オンは人智を超えた「天狗パワー」に想像を膨らませ、クールだと思っている天真爛漫な少年(実際に天狗ならではの不思議な力はあるが、ド派手なものではない)。都会っ子ながら純粋さがあり、スローライフのなかで学び、成長していく。シリアスなシーンもあるが、作品全体としてわりとライトなトーンで、無理に感動させようという押し付けがましさも感じられないのは、オンの明るいキャラクターによるところが大きいだろう。
基は一般的に天狗の力が失われる14歳を過ぎても隠遁生活を続けている、謎多き人物だ。寡黙でクールだが食に対するこだわりが尋常ではなく、料理が好きで丁寧に生きている。内面は伝わりづらいがわずかに付き合いのある近隣の人々からは信頼されており、人格者であることが伺える。「料理×素朴なファンタジー」という、本作の新鮮なコンセプトを体現する主人公だと言えよう。
このように、新鮮でありながら素朴で、ファンタジーでありながら地に足のついた、不思議な魅力がある『天狗の台所』。実写ドラマ化がどの要素にフォーカスし、どんな景色を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。