一見上手すぎるヒーロー漫画、プロの添削でどう変化? 少女を助ける主人公を魅力的に見せる技術が凄い
各種アプリやウェブサービスの普及により“掲載”の場が拡大し、多くの作家が世の中に漫画を届けることができるようになった昨今。「人気作家」への道は変わらず険しいものだが、SNSで創作漫画を発表して人気を獲得し、商業連載につなげたヒット作も続々と登場している。同時に、「独学」ゆえの悩みを抱えたクリエイターが少なくない状況だ。
そんななか、YouTubeチャンネルで視聴者から作品を募って「添削」を行い、人気を博しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさ・的確さとともに、相談者の個性を生かすためのアドバイスが心地よく、自分では絵を描かない人も楽しく視聴することができるのが特徴。視聴者からの信頼が厚く、チャンネル登録者数は15万人を超える。
最新の添削動画は、「【漫画添削68】うまいのに編集者にボロくそ言われる理由はこれ! ~プロ漫画家が教えます~」と題されたものだ。一見上手なのに、漫画家デビューに至らない理由をプロの目線で解説している。
今回取り上げられたのは、以前ハイド氏にイラストを添削してもらった動画を“宝物”と語り、「読者を楽しませる名作漫画を必ず描いてやります!」と気合十分のクリエイター・輝さんの作品だ。
恐ろしい怪物に襲われる少女。そこに「可愛い女の子 襲うなんて 同じ男として感心しねぇなァ」「テメェのそのクソ根性!! 俺が“添削”してやるよ!!」と、Gペンのような武器を片手に登場したヒーローの名前は「ハイド」ーーつまり、ペガサスハイド氏を主人公にしたヒーロー漫画の1ページだ。
ハイド氏はいつものように、まず作品の長所を挙げていく。輝さんは19歳ということだが、専門学校などの教壇に立ち、多くの学生の漫画を見てきたハイド氏からしても、「一学年にひとりかふたりずば抜けて上手い男子がいるんですが、輝さんはそのレベルに入る人だと思います」と、高い画力を評価。また、絵が上手なだけでなく、「“仕事”をしようとしているのが素晴らしい」とハイド氏。人物と背景が重なる部分は白抜きしたり、鬼気迫るシーンでは集中線を活用したりと、漫画を丁寧に構築し、また「セリフを少なく」「主人公やヒロインだけでなく、その他の人々の動きを含めた“社会”を描く」など、ハイド氏が常に動画で指摘してきたポイントもしっかり押さえている。素人からすると、プロの原稿との違いがわからないレベルの仕上がりだ。
しかし、ここからがハイド氏の真骨頂だ。以前添削したイラストのクオリティと比較して、「正直、ガクッとレベルが下がってしまった」と一言。実際、輝さんは漫画原稿を出版社に持ち込んだところ、かなり厳しい評価を受けたようだ。それはなぜなのか。
詳しくは動画を確認していただきたいところだが、「(編集者からの厳しい指摘は)全ての漫画家が同じ道を通っているからガッカリしないでほしい」と語りつつ、ハイド氏が自ら引き直したネームを見れば一目瞭然。元の作品ではどこかありきたりに見えた主人公だが、「下ネタ好き」という設定を活かしたコマを挿入し、面白味をアップ。主人公に親しみが生まれ、漫画として一気に魅力的になっている。もちろん作品のテイストにもよるだろうが、「主人公が正しすぎて(読者との間に)壁がある」というのが、ハイド氏の指摘だ。
また少年漫画として男性読者を想定するとき、基本的に「男は男キャラに興味を抱かない」ため、興味を持ってもらうためには「よっぽど面白いやつじゃないとダメ」というわかりやすい解説もあった。確かに、多くの人気作の主人公には、強さやカッコよさだけでなく、どこか抜けた部分や親しみが持てる部分がある。
以降も、背景のリアリティや、主人公ではなくヒロインばかりにフォーカスしたカメラアングルなど、プロの目線で問題点を指摘していくハイド氏。一見してとても上手な作品なのに、どこか魅力に欠けると感じられるポイントが言語化されていく。漫画家を目指すクリエイターはもちろん、編集者志望の人も、漫画を読む視点を深めたい読者も、ぜひチャンネルをチェックしてみよう。
■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=q4JHC8zdko4