『ONE PIECE』はメインストーリーの“合間”が絶品? 第130話「最高速度」の驚くべき情報量
「週刊少年ジャンプ」での連載が最終章を迎え、さらに盛り上がる国民的コミック『ONE PIECE』。ファンにはそれぞれに思い入れの深いエピソードがあり、「エニエス・ロビー編が熱かった」「アラバスタ編が至高」「最初期のアーロンパーク編が泣けた」など、さまざまな意見がある。
一方で、本筋の大きな展開の合間にある“ブリッジ”的なエピソードが優れているのも、少年漫画の金字塔たる所以になっている。
例としてひとつのエピソードを挙げるとしたら、偉大なる航路(グランドライン)に入った麦わら海賊団が巨人族の戦士と出会った「リトルガーデン編」と、船医トニー・トニー・チョッパーが加入した「ドラム島編」のブリッジとして挿入された、第130話「”最高速度”」だ。どんな内容だったか。
熱帯のリトルガーデンで風土病にかかってしまったナミ。一行は医者を探そうとするが、同船していたビビの祖国・アラバスタの政争が激化しているというニュースを知っていたナミは、航海士として予定通りの航路を進もうとする。悪化する体調をおして甲板に出たナミはひとり、空気が変わったことを察知し、「真正面から大きな風が来る」と予測。そんななか、ビビは祖国の状況が「一刻の猶予も許されない」としながら、「一刻も早くナミさんの病気を治して そしてアラバスタへ!! それがこの船の“最高速度”でしょう!!?」と語り、一行は一致団結。その直後、ナミの予想通り、前兆なくサイクロンが発生……ビビは「こんな航海士 見たことない」と驚嘆するのだったーー。
と、このような1話だが、あらためて単行本で読み直したとき、深く感心させられた。リトルガーデンのエピソードを引き継ぎながら、「船医」加入の必然性をつくり、病に侵されながらも予測不能なグランドラインの気候に対応するナミの航海士としての辣腕と、仲間思いの一面を強調。なおかつ、目的地であるアラバスタの緊迫した状況を伝えながら、麦わら海賊団と行動をともにするもう一人の仲間・ビビのキャラクターまで立たせるという、驚くべき情報量をタイトにまとめ上げた19ページだった。
付け加えるなら、これだけの要素を入れながらまったく説明的ではなく、感情を揺さぶられる一話になっていたのがすごい。ナミの病状を見ながら、ビビが「一刻の猶予もない」と言い放ったときの麦わら一味の表情。そこから「最高速度」の真意を伝えるどんでん返しにカタルシスがあり、読み応えのあるエピソードだった。
現在進行形の大きな物語はもちろん、『ONE PIECE』は“過去編”の熱さにも定評があり、さらに挿話まで構築された面白さがある。皆さんの記憶に残る“ブリッジ”のエピソードは、いったいどんなものだろうか。