【連載】『ガンダムZZ』は“見なくていい”作品なのか?

『ガンダムZZ』ギャグテイストの濃い前半を象徴する第五話 “ガハハおやじ”なゲモン・バジャックのリアリティ

 多くのファンを抱える『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。

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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第五話 ジュドーの決意

[あらすじ]
 シャングリラコロニーのジャンク屋、ゲモン・バジャックはマシュマーの元に自作のモビルスーツ「ゲゼ」を持ち込み、Zガンダムへの攻撃を買って出る。ゲモンはネオ・ジオンのシンパであり、コロニー住民の民進掌握も兼ねてマシュマーはゲモンの申し出を受けることにする。

 一方、ジュドーはアーガマのパイロット候補生になるよう、ファと妹のリィナからの説得を受けていた。しかしジュドーはまともに取り合わず、説得から逃げるために仲間たちと一緒に学校へ登校する。

 宇宙港に停泊しているエンドラからゲゼと護衛のガザCが出撃していくのを目撃したエルは、偶然顔を合わせたファにZガンダムへの追っ手が迫っていることを警告する。ファはピンチを知らせるため、アーガマへと急ぐ。

 珍しく学校に姿を現したジュドーらに教師たちも動揺。そんな中、シンタとクムは校庭に石灰で「ZG」の文字を大きく書き、それを上空から目撃したゲモンは激昂。文字を「Zガンダムからの挑戦状」だとして、学校にモビルスーツで乗り込んでくる。学校の生徒と教師を人質にしてZガンダムを呼び出したゲモンに対して、ジュドーたちは生身で立ち向かう。

 ロープを使った罠に引っかかったゲゼは転倒。ゲモンはさらに激怒する。そこにファが乗ったZガンダムが到着。ファの挑発に乗ったゲモンは町外れまで誘導され、Zガンダムとの一騎打ちに挑む。

 一方、ジュドーたちは付近のガスタンクをロープで引きずり落とし、ゲゼにぶつける作戦に出る。Zガンダムに飛びついたジュドーはファとパイロットを交代。コロニーを破壊しないよう戦うため、素手でゲゼとの戦闘に挑む。

 しかしゲゼの回転式コクピットに酔ったゲモンはスキを見せてしまい、Zガンダムのビームサーベルで4本の腕を破壊される。機体を破壊されたゲモンは「マシュマーに騙されてやっただけだ」と言い訳し、その場から逃げ出す。

 作戦が失敗したマシュマーは、民間人に頼らず新型機でアーガマを攻撃するプランに変更。一方、Zガンダムが手に余ることを認めたジュドーは、アーガマに機体を返却するのだった

 ギャグテイストの濃い『ZZ』の前半を象徴するようなエピソードが、この第五話である。説明抜きでいきなり現れるゲストキャラの変なおじさん、相変わらずハマーンのことを思い出してうっとりするマシュマー、妙に作画が濃いヤザン、学校でのドタバタ、ゲゼのコミカルな動き、さらにZガンダムとゲゼのボクシング対決と、全編ギャグアニメの様相。まじめな戦争ロボットアニメを期待してこれを見せられたら、確かに肩透かしをくったような気持ちになるかもしれない。

 全編にギャグテイストが漂う中、比較的シリアスなのがマシュマーらネオ・ジオン側の狙いである。ただのジャンク屋であるゲモンの策に乗ったのは、Zガンダムを捕獲するためであると同時に、コロニー内の人々の心を掴むためでもあった。「コロニーに住む人々の協力を得ることは大事なことだ」「我々の仕事がやりやすくなる」というハマーンの命令を受けていたマシュマーは、その狙いを現地のジャンク屋との共同作戦で実現しようとしたのである。

 紛争地帯での民心掌握については、ベトナム戦争時代からアメリカ軍が戦略として行なってきた歴史がある。「ハーツ・アンド・マインズ」という名称で知られるこのプログラムでは、アメリカ軍はさまざまな手段を用いてベトナム人の心と精神に働きかけた。敵地において住民の抵抗を防ぐためには、懐柔やさまざまなケアによって文字通り「ハート」と「マインド」を掌握する必要がある。これは、アメリカ軍も重要視していたポイントだったのである。

 冒頭での会話を見る限り、マシュマーも現地人との交流・懐柔を狙ってゲモンと協力している。「全く馴染みのないシャングリラコロニーを手に入れるために、現地人と協力する」というマシュマーの行動は、それなりに理に適ったものだったのだ。最も、問題は組んだ相手がゲモンだった点である。

 ゲモン・バジャックは、一言で言うと「困ったおじさん」だ。モビルスーツの独自開発をやらかすくらいだから腕のいいメカニックではあるのだろうし、Zガンダムと一騎打ちする度胸もある。ただ、それ以外の行動が全て傍若無人でわがまま放題、強烈なガハハおやじである。

 しかしこのゲモン、言動が妙に生々しいところがポイントだ。特に、なぜネオ・ジオンに肩入れするのかをマシュマーに対して話す部分はなかなか味わい深い。ゲモンはマシュマーに対して、「アクシズをゼダンの門にぶつけたって聞いてから、あんたたちのファンになっちまって」「でかいことをやるのが、俺は好きでね」と協力する理由を話すのだ。

 なんというか、いかにも自称人情派で「曲がったことが大嫌い」とか自分で言い出しそうな、そのくせ他人に対してはわがまましか言わない困ったおじさんが言いそうな理由である。特に「でかいことをやるのが好き」というあたりから漂うイヤさ加減と何も考えてなさそうな感じは、なかなかのものだ。こんなことを言っていたのに、下手に出たエンドラのパイロットに対して「様」付けで自分を呼ぶよう命令するなど、立場が自分より下だと思った人間に対しての言動がかなりウザいのもポイントである。

 連邦政府に対して民衆の不満があるというのはガンダムの基礎設定みたいなところがあり、対抗勢力であるネオ・ジオンに対して肩入れしてしまう人物が現れること自体はさほど不思議でもない。ただそれにしても、この何も考えてなさそうな感じ、ガチャガチャしたお調子者のガハハおやじが手弁当で乗り込んできてしまった雰囲気のリアルさは、なかなか普通のアニメで見られるものではないと思う。

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