映画公開目前『BLUE GIANT』主人公・宮本大の魅力とは? 前作『岳』島崎三歩との比較から考察
2月17日に映画版の公開が迫る人気ジャズ漫画『BLUE GIANT』。2月10日には「ビッグコミック」で連載中の続編『BLUE GIANT EXPLORER』の最新第8巻が発売となり、ファンも活気づいている。
山岳救助をテーマにしたヒット作『岳 みんなの山』でも知られる作者の石塚真一氏は、「人」を描くのが抜群にうまい。なかでも、自身の経験や実感が込められた主人公(※石塚氏はブルースバンドや登山/ロッククライミングを経験している)が持つ物語の推進力が強く、登山やジャズについて関心がない読者も惹きつけられている。本稿では『BLUE GIANT』の主人公・宮本大と前作『岳』の主人公・島崎三歩の比較から、その魅力を探っていきたい。
まず、両者に共通するのは「ジャズ/サックス」や「登山」という自身が愛する対象にまっすぐ向き合い、決してぶれない精神を持っていること。苦境を楽しむ強いメンタリティがあり、時に周囲の人々を呆れさせながら、それでも行動で巻き込んでいく熱さがある。
人に向き合う姿勢は極めてフラットで、社会的な立場などまったく関係なく、「山」や「サックス」に関心を寄せる人たちに深い愛情を注ぐのもふたりの特徴だ。島崎三歩は、不注意から救助隊に大きな迷惑をかけた遭難者にも、そして発見された遺体にすら「よく頑張った」と笑いかけ、山の素晴らしさを伝え続ける。
宮本大も、例えばアメリカで急遽引き受けることになったサックス講師の仕事のなかで、立場も性格も千差万別、問題児もいる生徒たちすべてに真摯に向き合い、感動的な別れを経験している。世界中、どこにいてもサックスの練習を欠かさず行っていくなかで、路上でもさまざまな人(ときには犬も)との出会いと別れを繰り返しており、そこで得た感情が演奏に生かされていくのが『BLUE GIANT』の醍醐味のひとつと言える。
一方で、大きな差があるのが明暗のイメージだ。互いに好きなことを追求しつつ、基本的に親しみやすい人柄だが、いつでも笑顔を絶やさず、陽気なイメージが強い島崎三歩と比較して、宮本大にはシリアスなイメージがつきまとう。
三歩はアスリートに近い印象もあるが、いまは“人生を賭けた趣味”として登山に向き合っている節がある。そして大は、“世界一のプレイヤーになる”という明確な目標に向かう成長過程にあることも大きそうだが、人とぶつかり合うことも多く、生死がかかる山岳救助と変わらない熱量のドラマを見せてくれるのだ。
若き日の三歩がサックスに出会っていたら、大のような情熱の日々を過ごしたかもしれない、という想像もできる。『BLUE GIANT』と『岳』、どちらか一方しか読んだことのない方は、この機会にぜひ、もう一方の作品をチェックしてみていただきたい。