【漫画】幼い時にだけ行けた「あの場所」の正体は? ノスタルジックな漫画『怪異と乙女と神隠し』が話題
――既にRTが約2.6万、いいねは約10万ということになってますが、作者としての心境は?
ぬじま:『とと神』第1話も上げていましたが、今回の『幼い時にだけ行けた場所がある話』方が多くの方に触れていただけた印象ですね。長いストーリーの中で「1話完結で読める話を作る」というコンセプトで作った話がこれで、Twitterと相性がよいことも功を奏しました。
――スピンオフ的なストーリーにするということで、内容はどう検討されていったのでしょう。
ぬじま:打合せのなかで「誰の話をするか?」は詰めましたね。サブキャラクターにスポットを当てるか、脇役なのか、主人公なのかと。最終的に主人公・緒川菫子の過去を話にしたらキャラクターの解像度が上がるかなと思って提案しました。
さらに担当編集の加納さんから教えてもらった「書籍姫」、建物の怪談である「迷い家」のアイデアを入れています。「となりのトトロ」に登場するトトロに会いに行くまでの道も、子どもしか入れない描写になっていて、ああいうノスタルジックな雰囲気も意識したり。
――「本屋」という設定もノスタルジックさを際立たせている要因だと思いました。
ぬじま:本に囲まれた「書籍姫」が色々な物語を摂取したことで生み出される不思議な空気、それに触れて人生が切り開かれる話になりましたね。実は自分自身も書店に務めていたんです。各スタッフで受け持っている棚があって、そのエリアによって人の話し方やテンポ、価値観が違っているのが興味深かったんですよね。
自分のような漫画家を目指す人や小説家志望の人もいる職場で。物理的な書籍と、それに囲まれている空間の魅力は代えがたいと感じますが、書店が少なくなっている現状は寂しくはありますね。僕の本に対する思い入れは、作品の随所に現れているかもしれません。
――「書籍姫」の話も興味深かったです。
ぬじま:伝承として残っているのですが、実際に誰が「書籍姫」だったかは正式にはわからないんですよ。以前は四谷に墓があったのですが、今では忘れられかけている気がします。そこら辺の知識は編集者さん任せで……(笑)。
――また「日常が長編小説だ」というパンチラインが強烈でした。ページの最後のコマで「常/長/小」で韻を踏んでいて、まさにラップだなと。
ぬじま:確かに。言われて気付きました(笑)。奇跡のラッキーパンチですが、最後に心に残るセリフが来る作品は好きなので、そんな意識はあったのかもしれません。
董子のモデルは村上春樹さんの『スプートニクの恋人』に出てくる「すみれ」なんです。彼女は上手く話せず、脳内で小説を描きながら話すというキャラなのですが、中学生の僕に強烈な印象を残しました。文章に親しむ人の言語感覚って、脳内に原稿用紙を広げているんだろうなというイメージでキャラに投影させた感じです。
――『怪異と乙女と神隠し』はアニメ化も決定しています。こちらについては?
ぬじま:自分の作品自体が万人に開けているものかはわからないので不安もありますが(笑)、テーマは多くの人に共感してもらえる部分が多いと思っています。不思議なものに遭遇した人たちが抱えている心の問題やコンプレックスは、特殊なものではないんですよ。「このキャラのスタンスはわかるな」と要所で引っかかる作品になるはずです。
――最後に今後の展望をお願いします。
ぬじま:個人的には本作が初めて描くストーリー漫画です。冒頭で「こういう物語ですよ」ということは明かしているので、ある程度の着地点はぼんやりとは見えているとはいえ、最後まで走り切れるように頑張れたら。あとは色々な角度から楽しんでもらいたいですね。