『深夜特急』沢木耕太郎、なぜ再注目? ベストセラー新刊『天路の旅人』の圧倒的なおもしろさ

 著作をベースに西川の旅を辿る場面では、中国側に日本人だと判明すると命もないという緊迫した状況のなか、同行するラマ僧や現地の人々との出会いと別れ、熱病など数々の困難、猛吹雪のなかのヒマラヤ越えといった厳しい道筋など、ありとあらゆるエピソードが細やかにヴィヴィッドに描かれている。その臨場感あふれる調子は、まるで沢木自身が旅をしているかのようだ。

 しかし沢木は、執筆がコロナウイルスの時期と重なったこともあり、実際に現地を旅することは叶わず、グーグルアースでその様子を確認していたのだという。書物、地図、ネットを駆使して西川の旅を追うことで、まったく退屈していなかったと振り返る。それでもやはり、あとがきでは次のように結ばれている。

「状況が好転したら、なんとしてでも、中国の内蒙古からインドまでの旅をしてみたいと思っている。そのとき、私の『天路の旅人』は、いちおうの完結を見ることになるはずだ」(あとがき)

 それがどのような形で読者の前に結実するかはまだ分からないものの、新たな旅を予見した一冊でもあったことが最後に知らされると、読了した達成感とともに妙な清々しさが訪れる。その続編は「読むこと」と「旅すること」の自由を謳歌できる読者一人ひとりにも委ねられているだろう。

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