『チリアクタ』『スプートニク』『長谷川無双』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 7月のおすすめ新刊漫画

 今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?

ヤングマガジン『チリアクタ』木村航

 まずは、良い意味でタイトル詐欺に遭ったこちら。塵芥(ちりあくた)とは、値打ちのないもの、またはつまらないものなどの例えだが、本作において“つまらないもの”あるいは“つまらないひと”など一切登場しない。

 主人公は、元伝説のヤクザにして現在は週刊連載漫画家の男・芥修。愛と仁義を背負いながら漫画を描き続ける男の波瀾と爆笑必至な生き様を描く。漫画を描く理由が、親がヤクザで抗争などを理由に孤児となってしまった子どもたちを養うためだったり、時には非行に走りそうな見知らぬ少年を拳とマンガで救ったり......。どこまでも愛と仁義に真っ直ぐな彼の姿は、ヒーロー、いやアンチヒーローそのもの。

 また、ヤクザからカタギになろうとすると銀行の口座が開設できないため、漫画の原稿料は手渡しになるなど、妙にリアルな元ヤクザ事情にも切り込んでいる本作。さらに、主人公を取り囲む、マンガ編集者のキャラクターのクセが強く、ギャグマンガとして楽しめる一面も。アンチヒーロー活劇をベースに、ハード&バイオレンス、そしてギャグへと多様な展開を見せる本作から目が離せない。

フィール・ヤング『スプートニク』海野つなみ

 2作品目は、あの『逃げるは恥だが役に立つ』海野つなみ先生の最新作『スプートニク』。もともと、読み切りとして「フィール・ヤング」2017年11月号に掲載されたが、その後シリーズ連載化。今月、待望の単行本が発売された。

 主な登場人物は、元ウエディングプランナーの主人公・浅利、元上司の汐路、汐路の弟・渡の3人。カフェバー「スプートニク」に集まってはのんきにグダグダとおしゃべりをする仲だったが、2020年のコロナウイルス感染拡大をきっかけに、各々の人生、そして持続可能な働き方を模索していく。

 胸キュンな恋愛でも婚活でもなく“働き方のSDGs”をコミカルに、それでいて丁寧に描く......「こんな作品を待っていた!」と声を大にして叫びたくなった。また、コロナウイルスなど、昨今の世相を描いた作品は多数存在するが、その中でも一番希望を感じる作品だった。後回しにせず、絶対に“今”読むべき作品だと思う。

イブニング『長谷川無双』ザビエラー 長谷川

 3作品目は、まず設定からして面白さが大優勝の『長谷川無双』。主人公は、令和を生きる売れない芸人・長谷川。彼の身長は183cmで、現代の成人男性の平均身長172cmよりも高め。身長は高いが、芸人としての能力は低い彼が、ひょんなことから戦国時代へとタイムリープしてしまい、日本人の平均身長が現在よりもはるかに低かった戦乱の世で、持ち前の高身長を活かして文字通り“無双”していく。

 バトルものにおいて戦闘能力を身長に設定したところが非常にユニーク。また、183cmがチートになるほど戦国時代の武将って小柄だったのか? と疑問に思ったが、調べてみると武田信玄(153cm)、上杉謙信(156cm)と、どうやら伝説の彼らは想像よりも小柄だったようだ。

 史実をベースに、身長の“時代ガチャ”に大当たりした主人公が、高身長を武器にして無双しまくる本作。躍動感と気迫あふれる筆致で描かれた戦闘シーンは圧巻。さらに「デカさこそ正義!」と、これでもかと身長でマウントを取ってくる伝説の名将たちの姿に思わずニヤッとしてしまう。

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