花田菜々子×新井見枝香が語る、日比谷コテージの4年間「本を売る喜びから離れられない」

日比谷コテージを終えて、二人のこれから


花田:「これからどうするんですか?」ってよく聞かれるけど、見枝香さんの今後は?

新井:時期は未定だけど、「HMV&BOOKS」の渋谷店で働く予定です。この前一度お勉強に行ってレジも入ったんだけど、みなさんすごく優しくて、これはいいかもってうれしい気持ちになりました。踊り子や書く仕事と並行しながら、また書店員を続けようと思っています。花田さんは?

花田:まだ何も決まっていないんだけど、自分の本屋をやりたいなって考え中です。この店は4年やらせてもらったけど、その前にいた小さな書店は1年だし、さらにその前はヴィレッジヴァンガードでいろんな店を転々としていたから、どこかに長くいる想像ができなくて。自分の店を持つのって、最後の砦みたいなイメージでした。

 だけど人に相談する中で、「60歳になった時にやりたいと思っても、体力も気力もなくなっているかも」と考えるようになって。もちろん何歳からでもやれる人はいると思うけど、自分の場合を考えてみるとわからない。だったら、今やってみてもいいのかなって。一生続けないといけないわけじゃないし、やってみたらこの店を立ち上げた時みたいに知らないことにもたくさん直面するだろうから、がんばりたいと思います。

新井:花田さんのテイストのある場所ができたらすごくいいなあ。

花田:小さなイベントをやったりしたいね。この店は大きいから、なかなかお客さん全員の顔と名前を覚えてお話しするのは難しかったじゃない。今以上にもっと交流ができる場所ができたらいいなと思っています。

新井:うんうんうん。店ができたらアルバイト面接に行きます。

花田:で、落とすっていう。

新井:えぇ!(笑) 受かるまでしつこく応募しますよ。一回落とされて諦めるようじゃダメですから。

「これ売れないんだ」と思うと悔しい


––(会場からの質問)閉店を知った時期や、その時の気持ちを聞かせてください。

花田:知ったのは昨年12月のはじめごろで、閉店日を聞いて「すぐじゃん!」と思いました。いきなり決定事項として伝えられたので、最初は複雑でしたね。「こうなったら閉店です」みたいに、挽回できるタイミングがあるものだと思っていたし、どこかでなんとかなるチャンスがあったんじゃないかと考えたりして。

 直前まで来年のフェアを考えたり発注をしたりしていたから悔しかったし、実はけっこう前に決まっていたという内部資料を発見した時は「この野郎……」と思いました(笑)。でも、このタイミングで聞いてよかったと今では思います。もし1年前に聞いていたら、モチベーションが保てなかったかもしれない。短い期間だからこそみんなで盛り上げて、楽しく最後を迎えられた気がします。

新井:モチベーション、みんな保ったよね。私が閉店の話を聞いたのは、八重洲ブックセンターで「今年の推し本選評会」っていう、今年のおすすめ本を4冊選んでその場で売るってイベントがある日でした。その時は「せめて終わってから言ってよ!」と思った(笑)。

花田:終わってからにしようか迷ったんだけど、先に言った方がいいと思ったの。イベントの帰りに、見枝香が残った本を載せた台車を押しながら「でも、今日このイベントがあってよかったな」って言ったのを覚えてる。あのイベントって、本をおすすめして、その場で買ってもらうから、本を売る喜びがダイレクトに届くんだよね。なんかやっぱり、この喜びから離れられないって思った。読むだけじゃなくて、何かしらのかたちで自分は売ることをやりたいんだなって。それは見枝香も一緒だと思うんだよね。

新井:そうだね。昔は読むだけだったけど、今は自分の中で本は売ることとセットになっているから。

花田:おとといTwitterにも書いたんだけど、大前粟生さんの小説『きみだからさびしい』が私にとっては10年に一度の傑作っていうくらいめちゃくちゃ良くて。でも、発売日が閉店のあとだから「これ売れないんだ」って悔しくなった。仕入れて売ることに慣れちゃってるから、読書を自分だけの楽しみにしておきたくないなって思っちゃった。

新井:そういう本、すごくいっぱいある。本って何も自分の得にならなくても、「あー話したい!」って思うものじゃん。やっぱり、その基本の気持ちが消えないんだよね。

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