花田菜々子×新井見枝香が語る、日比谷コテージの4年間「本を売る喜びから離れられない」

 「女性のための本屋」をコンセプトにしたHMV&BOOKS 日比谷コテージが、今年の2月13日、4年間の歴史に幕を閉じた。近隣に宝塚劇場や帝国劇場、映画館があり、演劇や映画を楽しみにきた人たちが足を運んだ。店長で作家の花田菜々子さん、書店員の新井見枝香さんをはじめとするスタッフによる熱のこもったポップや斬新な企画も人気で、他の書店では見かけない棚が本好きを惹きつけた書店だった。

 最終日の夜には、花田さんと新井さんによるトークイベントを開催。冒頭では店を作り上げたスタッフが壇上に上がり、自分の言葉で気持ちを伝えていく。後半ではお客さんとのやりとりも多く、トーク中で語られた「書店員とお客さん、全員でこの書店を作り上げた」という日比谷コテージの精神性を体現したような時間となっていた。

 ここでは、そのイベントの様子をアーカイブ記事化。書店のことや書店員として働くことについてを中心にお届けする。(小沼理)

私たちが楽しく働ければいいのかもしれない



花田菜々子(以下、花田):閉店することは私から見枝香に伝えたんだよね。

新井見枝香(以下、新井):呼ばれた時は「またなんかやっちゃった、怒られる!」って思っていたから、聞いた時は「別の話だった、よかった……いや違う!」ってなりました(笑)。でも、まだなんかよくわからないや。

花田:私も、まだわからないっていうのが本当かもしれない。だって明日からもうやらないんでしょ? 信じられないね。

新井:閉店が決まってからもいろんな作業に追われていたし、考える時間なかったよね。でも、私はそんなに悲しいって感じではないかな。

花田:そうだね。もちろん悲しさもあるんだけど……いろんな気持ちがある。すごく良い4年間をやれた気もするし、もっとやりたかったのは当然なんだけど、こういう店って今はなかなか経済的にやらせてもらえる会社のほうが少ないから、機会を与えてもらえてありがたいって思いもあるし。

 さっきこの店の親元にあたるローソンの企業理念を見ていたら、「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」って書いてあって。「これはできたな」と思いました。日比谷は「暮らす」というと違うかもしれないけど、みんながすごく大事にしている街。日比谷の人が幸せな気持ちになるようなことをやれたんじゃないかなと思います。「会社は利益を出さないと」みたいな話をする人も多いけど、私たちは企業理念を守ったからさ。

書店員の新井見枝香さん(左)と店長で作家の花田菜々子さん(右)

新井:今までの書店員人生ではずっと「お給料もらってるから会社に返さないと」って、利益を考えて馬車馬のように働いていたんだよね。だけど、この店に来たらみんな朗らかで、「私たちが楽しければいいのかもしれない」と思えた。働いている人が楽しくない書店って雰囲気がぎすぎすしていたりするけど、ここはみんなふわふわしてるじゃん。これまで働いたお店は忙しい書店が多くて、みんな怒っていて怖いし、サービスカウンターの担当になると胃に穴が開くみたいな感じだったんだけど(笑)。ここでは私がミスをしてもみんな優しかった。

 でも、それはお互いの相乗効果で、みんなでこういう雰囲気を作ったからかもしれない。人って、場所によって変わるじゃん。この店のスタッフはみんなめちゃくちゃいい人だけど、それはここにいるからであって、そうじゃない面もあるかもしれない。

花田:そうだね。運かもしれないけど、働いているメンバーも、会社の人もみんないい人たちばかりだったから。お客さんも優しくて、お店を楽しんでくれているのが伝わってきた。愛があったよね。

 私が一番感じたのは、サイン本を買ったお客さんに「うれしいです」って言われた時。サイン本って他のお店だと黙って買う人が多いんだけど、ここでは「まだあって良かったです、昨日Twitterで見て絶対にほしくて」みたいに伝えてくれるから、こっちの心が閉じていても開いていっちゃう。そういうことの連続で、お客さんとの関係ができていたと思う。

新井:自分たちが詳しくないジャンルも置いているけど、レジに入ってるとそういう人とも「よかったね」で繋がれるっていうかね。

花田:そうそう。友達というと言いすぎかもしれないけど、お客さんも私たちを近しく感じてくれていて。劇場が近くにあるから宝塚の本を買いに来るお客さんも多いんだけど、「たそ(元宝塚・天真みちるさんの愛称)の本ありますか?」みたいにいきなり愛称で聞いてくることもあった(笑)。最初はわからないんだけど、よく聞かれる人は覚えるから、こっちも「たその本、切れてます!」って即答できるようになったりして。

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