65歳の女性が男子大学生と映画作りの海へーー『海が走るエンドロール』が描く、創作とその不安

船を漕ぎ出したうみ子の航海

 同級生と制作した動画の講評に緊張を覚えたり、海の発言に驚いたり、映画監督のスタッフとして修行に励む海の存在を意識したりーー。

 2巻においても、心に波がたつうみ子の姿はメタファーを用いた描写によって表現された。ただ2巻「第6話」にて、1巻でうみ子は自分が感じていたもやもやが、大学に通う動機の違いから生まれていたことに気づく。様々な体験を経て、うみ子が言語化できていなかった気持ちの正体に気づいていく様子も描かれている。

 もやもやの正体に気づきうみ子はすっきりとした感情を覚える反面、「一生 人のこと 好きにならないと 思う」と発したり、映画監督のスタッフとして修行に励む海に対しうみ子は怖さを抱く。そして自分が海に怖いと思う理由に気づき、うみ子は「このまま深く/潜っていたくなる…」と心のなかでつぶやく。

 様々な船が浮かぶ海原。波はときに互いの船や過去を引き寄せ、ほかの価値観や周りとの差異を知り、船が重くなる感覚や海中に深く潜りたいという感情を生む。しかし海と出会い船を漕ぎ出したうみ子のように、波が自身の目標や自分の価値観に気づく、再認識するきっかけにもなる。

 映画製作という名の海に船を漕ぎ出し、海(カイ)で映画を撮るという目的地を見つけるまでのうみ子を描いた1巻に対し、2巻は創作の世界を航海する際中でうみ子の目にした景色が描かれた1冊といえるだろう。

 2巻の終盤に書かれた「落ち着いた海を/掻きまわす空だ」というモノローグ。空が搔きまわした海原で、船を漕ぐこととなるうみ子はどんな景色を目にするのか。コミックス第3巻の発売を大変待ち遠しく思う。

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