『ゴールデンカムイ』は漫画界の“鍋料理”? 大ヒットの秘訣を探る
この他、グルメ漫画の要素も見逃せない。本作にはやたらと食事場面が出てくる。作者のインダビューによると、最初、日露戦争帰りの若者を主人公にした狩猟漫画を考えていそうなので、その名残だろうか。他のグルメ漫画とは一線を画した、野趣に富んだ料理の数々も、本作の魅力になっている。
次に、明治の北海道(と樺太)の自然である。ヒグマを始め、エゾオオカミ、鯱、クズリ、アムールトラなどなど、多彩な生物もリアルに描かれている。本作のタイトルが白土三平の『カムイ伝』を想起させるということもあるが、個人的には白土漫画の流れを汲む自然描写だと思っている。
さらに、アイヌ文化も克明に描写されている。どれだけ調べたのかと感心するくらい、巧みな絵によってアイヌ文化が表現されているのだ。アイヌのみならず、少数民族の文化をいかに保護・伝承するかは、大きな課題である。だからこそ、本作の果たす役割は大きい。
このことに関連して留意したいのが、第13巻での石川啄木(登場しているのである)の発言だ。日露戦争を境に日本の新聞に写真が載るようになったといい、続けてアメリカの新聞王アィリアム・ハーストに触れて、「その新聞王はとにかく絵や写真を紙面に載せることに執着するそうだ」「読者の視覚に与える影響力のデカさをよく知っているんだろうな」と述べているのである。この“読者に視覚に与える影響力”は、まさに本作にも当てはまる。漫画の絵の力によって、多くの人がアイヌ文化を知ることができたのだ。
随所に挿入されるパロディ絵や、シリアス・シーンにぶち込まれるギャグなど、まだまだ言及したいことはあるが、これくらいにしておこう。具だくさんの鍋料理のような本作、読めばたちどころに満腹になれるのである。