中村倫也は『珈琲いかがでしょう』主人公・青山一をどう演じている? 原作のミステリアスで危険な魅力を考察

「珈琲いかがですか?」

 穏やかな声で珈琲を勧めるのは、TVドラマ『珈琲いかがでしょう』にて中村倫也が演じる「青山一(あおやまはじめ)」。放送が開始された直後、SNSを中心に彼の人気は爆発した。

 原作は『凪のお暇』の作者コナリミサト氏が手掛けた同名漫画。対人関係や自身の在り方に悩む登場人物が、キッチンカーで珈琲屋を営む青山と過ごすひとときを描いた作品である。ドラマ版は、中村倫也演じる主人公の青山に「そっくりすぎる」「中村倫也のために描かれた漫画みたい」など絶賛の声が相次いだ。

 本稿では『珈琲いかがでしょう』の主人公・青山一のミステリアスな魅力について検証してみたい。まず一番の魅力は、丁寧に珈琲を淹れるお洒落な姿もさることながら、悩みを抱く登場人物たちに対して寄り添う優しい人柄だろう。

 原作漫画の1巻「一杯目 人情珈琲」で登場する社会で義理と人情を重んじることにしんどさを覚える垣根志麻や、2巻「七杯目 たまごマン珈琲」に出てくる男女の友情は成立しないと考える桐生。彼女たちに対して青山は開口一番に悩みを聞き出そうとはせず、まず初めに自分の淹れた珈琲を勧める。

 彼の珈琲を口にした登場人物たちはそのおいしさに魅了される。すると丁寧に淹れられた珈琲と自身の姿を重ね、口から本音が少しずつこぼれるのだ。心に秘めていた思いが明かされた後、青山は優しい言葉でそっと登場人物たちの気持ちに寄り添う。

 悩みを抱える人の多くは誰かに話を聞いてほしいと思うだろう。しかし他者に自身の弱さをさらけ出すことは簡単なことではなく、素直に悩みを話すことのできる人の方が少ないはず。対人関係に苦しむときほど人に不信感を抱きやすく、誰かに相談することのハードルは高くなる。

 苦悩する人々に対して、青山は自身の珈琲を振る舞うことで安心感を与え、心が落ち着き本音が口からこぼれるまで彼は待ち続ける。相手のペースに合わせてコミュニケーションを取る「待ち」の姿勢こそ、彼の優しさを象徴する姿である。時間をかけて接する丁寧な寄り添いは、まるで時間をかけて淹れる彼の珈琲のようだ。

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