りぼん、なかよし、ちゃお……90年代、少女マンガ誌の逆転劇はどう起こされた?

 小学校女子向けマンガ誌のトップは2001年以降「ちゃお」である。しかし90年代まで「りぼん」「なかよし」「ちゃお」の順だった。この逆転は、いかにして果たされたのか?

『ちびまる子ちゃん』を『セーラームーン』で追う――「りぼん」vs「なかよし」

 1990年、「りぼん」は『ちびまる子ちゃん』がTVアニメ化して大ヒットし、『サザエさん』を抜く高視聴率を達成する。91年まででコミックスは累計1600万部。このとき「りぼん」200万部前後、「なかよし」80万部前後。一方「ちゃお」は20万部を割っていた(『出版指標年報1992年版』)。

 92年から93年にかけて、「りぼん」を追う「なかよし」の部数が急増する。それまで「なかよし」は70年代後半に『キャンディキャンディ』人気で180万部に達したのが最高部数だったが、武内直子の『美少女戦士セーラームーン』の登場によって記録を更新したのだ。92年9月号には105万部だったものが、93年9月号では205万部に。

 「なかよし」は80年代にはあさぎり夕が看板作家になり、等身大のラブストーリーが主要連載作品とし、80年代末になるとメルヘンちっくなギャグストーリーである猫部ねこ『きんぎょ注意報!』が登場、アニメ化もされて大人気となっていたが、90年代初頭に大きく転換する。

 『セーラームーン』以外にも90年に秋元奈美『ミラクル☆ガールズ』、93年にはCLAMP『魔法騎士レイアース』の連載が始まり、変身、魔法、超能力のようなファンタジックな要素を取り入れた作品が多く誕生。このファンタジー路線によって「なかよし」は93年9月号の発行部数は過去最大部数の200万部を超えた(『なかよしArtBook 創刊65周年記念「なかよし」展公式図録』)。

 当時「なかよし」編集長だった入江祥雄は「創」93年9月号のインタビューで『セーラームーン』のヒットについて、こう語っている。

 少女マンガの主流は「りぼん」でやっているような学園・恋愛ものだった。しかし小学生の女の子が求めているのはそればかりではなく「どこへでも行きたい」「何にでもなりたい」といった願望もある。超能力や夢と冒険、非日常的な設定もウケるはずだ――そう考えて『セーラームーン』を仕掛けたのだという。

 『セーラームーン』は最初から意識的にメディアミックスを考えた作品でもあった。連載は91年暮れ発売の92年2月号からスタートしたが、92年3月にTVアニメがスタート。この「連載開始時点からアニメ化を準備」という試みは、91年に『きんぎょ注意報!』のメディアミックスを経験していたからこそできた。

 マンガ雑誌では作品の完成までギリギリまで粘れるが、アニメは脚本を放映半年前には終えていなければならず、グッズはもっと早い時期から用意しなければならない。だから原作はどのあたりでどういう展開になるということを早い段階で決定し、「雑誌の何月号ではこういうアイテムが出る」と決めてスタート。

 ファンタジー路線という新機軸とメディアミックス展開で「なかよし」は「りぼん」を猛追した。

 それでもなお『ちびまる子ちゃん』『ときめきトゥナイト』『姫ちゃんのリボン』というモンスターヒットを擁する「りぼん」は230~250万部でトップを維持。「りぼん」は人気作品を複数抱えることで他誌を圧倒していたのだ。

「ちゃお」大逆転の施策①付録の強化

現在の『ちゃお』(2020年8月号)

 1992年は、「ちゃお」が台頭した年でもあった。小学館には女児向けマンガ誌として「ちゃお」「ぴょんぴょん」の2誌を持っていたが、両誌とも低迷していたことを打開するため、「ぴょんぴょん」を休刊して「ちゃお」に吸収し、40万部を発行して勝負に出る。それまでは雑誌が赤字のために控えめにしていた付録は「りぼん」「なかよし」並みの強力なものを付けたが、これが功を奏した(『出版指標年報1993年版』、辻本良昭『私の少女漫画史』)。

 マンガ雑誌をマンガ中心に捉えると付録の存在は死角となり、オマケ扱いしかされないが、読者にとっては購買を左右するきわめて重要なものだ。70~80年代の「りぼん」の付録について何冊も本が刊行され、語られ続けているように、90年代には「ちゃお」の付録が化けた。

「ちゃお」大逆転の施策②TVアニメを途切れさせない

 「ちゃお」躍進をもたらした理由は、低学年女子を獲得するために付録を充実させ続けたこととマンガのTVアニメ化を途切れさせなかったことだと、辻本は語っている。

 辻本のところにいがらしゆみこが「TVアニメ化が決まってるんだけど、私のマンガ、連載しない?」と連絡してきたことから、恐竜マンガ『ムカムカパラダイス』(原作:芝風美子)が93年9月号から連載開始、9月からアニメが始まる。

 後番組はやはり「ちゃお」連載の『とんでぶーりん❤』。ほかにも90年代中盤から『新水色時代』『少女革命ウテナ』『キューティーハニーF』『ウェディング❤ピーチ』『Dr.リンにきいてみて!』などが次々と「ちゃお」発でアニメ化、またはアニメを前提とした企画のマンガ連載が「ちゃお」に持ち込まれるようになっていく。

 「ちゃお」が赤字だったにもかかわらず、編集部はTVアニメのスポンサーになり続けた(提供料を負担し続けた)。いくら払っていたかは不明だが、辻本によれば「ちゃお」が「なかよし」「りぼん」を抜いたころでもなお累積赤字を抱えていたという。勝つためにリスクを取り、張ったのだ。

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