ディズニープラスはなぜ事業として必要だったのか? CEOロバート・アイガーの半生に見る、ディズニーのイノベーション
2020年6月11日、日本でもDisney+(ディズニープラス)がサービスインした。周囲の反対を押し切ってこのディズニー専用ストリーミングサービスの開発を推し進め、また、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムの買収交渉をディズニーのトップとして務めたのがロバート・アイガーだ。
ディズニープラスを即契約した人たちにぜひ読んでもらいたいのがアイガーが書いた『ディズニーCEOが実践する10の原則』だ。この本は、アイガーが、1974年に始まるキャリアの最初期(本人いわく全米ネットワークテレビ局ABCという「組織の最底辺で昼メロの雑用係」)から2020年2月のディズニーCEO退任までを回顧したものである。「10の原則」というタイトルが付いているが、ノウハウを体系的に書いたビジネス書ではなく、時系列に自身の人生を綴っていく自伝だ。
そのなかで、たとえばディズニープラスをなぜ始めるべきと考えたのか、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムの買収はいかにしてなされたのかなどについて当事者目線(ディズニー目線、アイガー目線)から書かれていく。
読みどころ1:外様(買われた側)から成り上がったからこその客観性
ロバート・アイガーはABCがディズニーに買収されて、ディズニーグループの一員になった。つまりもともとディズニー大好きのディズニー生え抜き人間ではない。
どころか、アイガーはABCエンターテイメントのトップも務めたが(そしてこのとき伝説的なドラマ『ツイン・ピークス』成立に一役買っている)、彼はもともとエンターテイメント業界出身ではなかった。つまりエンタメ業界ではないところからキャリアをスタートさせ、いわば外様として業界を見られる視点を持っていた。
もちろん日本以上にアメリカでは転職やヘッドハントは日常茶飯事だが、アイガーが「買われた側」として苦労した人間だからこそディズニーを成功に導けたのであろうことがわかる。
「エンタメビジネスがやりたくて業界に入った」「ディズニーに入りたくて入った」というよりタナボタ的にディズニー傘下に入ったアイガーは、ディズニーの何が強みで、何が足りないかについて客観視できている。
たとえばCEOに就任するや、「(当時のディズニーはアニメ映画の興行収入がさんざんだったが)テーマパークやグッズなどディズニーはさまざまなビジネスを展開しているが、その根幹はアニメにある。アニメからすべてが派生している」と、小手先ではなく根っこから変革が必要だとして、アニメ部門の立て直しに奔走。
そのためにこそピクサーを買収し、その中心人物であるジョン・ラセターとエド・キャットマルをディズニーのアニメ部門のトップにするべく動いた。
また、アイガーは自身がそうであったからこそ「買われる側」の気持ち、「買った/買われた後に何が重要か」をよく理解して買収交渉に臨んでいる。
『スター・ウォーズ』への想いをこじらせまくったジョージ・ルーカスとの対話、謎に包まれ難攻不落と思われたマーベルオーナー兼経営者アイク・パルムッターとの交渉は、読みものとしてもビジネス交渉術のケーススタディとしてもおもしろい。