ピノキオピー×ウ山あまね(PAS TASTA)対談 シニカルだけど「ポップから逃げない」互いの共通点と影響源
ネット音楽シーンの第一線で独自の異彩を放ち続けるボカロP・ピノキオピーと、先進的なサウンドデザインと圧倒的なダンスミュージックの熱量でシーンを更新し続けるDTMユニット・PAS TASTAのウ山あまね。PAS TASTAの楽曲「B.B.M. feat.ピノキオピー」でもコラボレーションした2人だが、実は2021年のPAS TASTA結成前にツーマンライブを行った関係性でもある。
今回は10月31日&11月1日の『NIGHT HIKE 2026 in 幕張』開催を前に、そんな2人の対談を行った。改めて互いのルーツや2023年の『NIGHT HIKE』での共演を経て生まれたコラボ曲、音楽制作における主観・客観的な視点の切り替え、ポップであることの自負などについて、たっぷりと語り合ってもらった。(編集部)
ウ山あまねがピノキオピーから受けた「人格形成レベルでの影響」
ーーお二人の共演を調べてみると、2021年7月25日に表参道のWALL&WALLでツーマンライブを行った日に遡るのですが、これはウ山さん側からのオファーだったそうですね。当時、ウ山さんはX(旧Twitter)にて「ピノキオピーさんに人格形成レベルで影響を受けている」と投稿されていましたが……。
ウ山あまね:僕はもともとTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのような日本のロックが好きで、最初は「人の声」が好きだったこともありボカロ曲はあまり聴いていなかったんです。でも、ネットに触れる中で避けて通れなくなり、その中で出会ったゆよゆっぺさん、鬱Pさん、そしてピノキオピーさんの音楽が一番自分にマッチしました。そこからボカロを聴くようになり、最終的にはピノさんの曲ばかり聴いていましたね。
ピノキオピー:そこまで聴き込んでくれていたのは本当に嬉しいです。
ウ山あまね:当時、ピノさんみたいな歌詞を書く人は他に誰もいませんでしたし、今もいないと思います。歌詞の面において「こんなに自由でいいんだ」と解き放たれた感覚がありました。あとはサウンド面ですね。僕が一番聴いていた2009年から2012年頃、アルバム『Obscure Questions』(2012年)の時期のギターの荒々しいロック感や、ドラムの圧倒的な手数がすごくグッと来て。当時の自分の曲を聴き返すとかなり影響を受けていると感じます。自分の音楽の土台になっているのは間違いなくピノさんですし、ピノさんの音楽の形を変えているだけなんじゃないかと今でも思う時があります。それくらい自分のなかに根付いている存在ですね。
ピノキオピー:その時の楽曲に影響を受けてくれていたんですね……。僕自身、2009年〜2012年くらいの時期は、本当にいろんな方向性を模索しながら「どうしたらいいか分からない」とごちゃ混ぜに作っていたので、記憶も曖昧なくらいです(笑)。
ウ山あまね:バンド感と打ち込み音楽の行き来がすごく新鮮だったんですよね。
ピノキオピー:バンドに関しては、純粋に「ロックバンドができなかった」という挫折が自分の根底にあるんです。バンドへの憧れはありましたが、実際にバンドをやっている人と比較するとグルーヴが全然違うことに気づいて。「あのグルーヴは出せない」と挫折したからこそ、打ち込み特有の表現に振り切らざるを得なかった。ギターに関しても、生々しく奏でるのではなく、音をカットアップしまくって使っていましたから。
ウ山あまね:僕も全く同じです! ギターの演奏スキルが足りなくて、結局録音したギターの音を全部切り貼りして直してしまう手法に行き着きましたし、今もそのやり方で制作しています。
ピノキオピー:打ち込みだからこそできる歪なダイナミズムもあるんですよね。生演奏のグルーヴとはまた違う、エディットだからこそ生まれる切れ味というか。
ーーウ山さんがバンドから電子音楽に移行していくまさにその最中に、最も影響を与えたアーティストだったわけですね。
ウ山あまね:本当にそうだと思います。当時はSkrillexとKORNがコラボレーションしていて「ダブステップ×メタル」みたいな音楽も流行ってましたから、そういうごちゃ混ぜ感みたいなものが刺さったのかもしれません。
ピノキオピー:確かにそのミクスチャー感みたいなものは、当時こそ意識はしてませんでしたが、いま振り返ると時代的な背景もあるのかも。
ーーそんな憧れの人とのツーマンライブは、ご自身にとってもかなり感慨深いものになったのでは?
ウ山あまね:正直、思い出そうとすると恥ずかしさでいっぱいになりますね。憧れの人とライブができることで完全に舞い上がっていて、自分のライブの内容はほとんど覚えていないので(笑)。MCでお客さんに「ピノキオピーさん最高ですよね!」と呼びかけたり、巨大なオフ会を開いているような感覚だったかもしれません。
ピノキオピー:僕はオファーをいただく前からウ山さんのトラックを聴いて「むちゃくちゃかっこいいな」と思っていたんです。だから誘ってもらえたこと自体嬉しかったですし、実際にお会いしたら僕の楽曲をそこまで深掘りして聴いてくれているんだと驚きました。裏で好きな芸人さんのコントの話をしたことも覚えています。
2組の共通点は“シニカルな視点を持ちながらポップであること”
ーーウ山さんの音楽的な原点の話を聞いたところで、ピノキオピーさんのルーツについても伺いたいです。
ピノキオピー:僕の原体験はスピッツなんです。当時『モンスターファーム』でモンスターを召喚するために買っていたCDのなかに『インディゴ地平線』があって。聴いているうちにスピッツが好きになったんです。ほかには、ファミコンのピコピコしたゲーム音やテクノが好きでしたね。特に伊集院光さんの深夜ラジオ経由で知った電気グルーヴには大きな衝撃を受けました。
ーーピノキオピーさんの音楽を聴いていると、シニカルで俯瞰した視点とポップさから逃げない姿勢は、まさに電気グルーヴ的なものであり〈ナゴムレコード〉的な系譜を感じます。
ピノキオピー:そのスタンスは好きであると同時に、一種の呪いのようなものでもあります(笑)。ただ、単にカウンターとして背を向けるのではなく、メインストリームを諦めていないのは、根底にスピッツのような音楽が好きだった体験があるからだと思います。
ウ山あまね:「メインストリームに背を向けない」という姿勢は、まさにPAS TASTAの活動理念とも共感する部分です。僕らも実験的なアプローチをしつつ、「J-POPとして成立させる」「ポップであり続ける」というテーマを掲げているので、ピノさんの姿勢には強い感銘を受けてきました。
ーー歌詞の世界観は俯瞰というか、どこか達観した感じもあるのですが、この辺りのルーツはどこからきたものなのでしょうか。
ピノキオピー:僕は昔から藤子・F・不二雄先生の『SF短編集』が大好きだったんです。歌詞を書く時も「普通ではないものを書きたい」という欲求が根本にあり、人間をSF的な視点から観察するような歌詞を書くようになっていきました。
ーーその歌詞の距離感と、ボーカロイドという存在が合致したわけですね。
ピノキオピー:ボカロを始めた当初はそこまで意識していなかったんです。でも10年以上続けていく中で、「生身の人間ではなくボーカロイドという非人間のキャラクターが歌うからこそ、この歌詞に説得力が生まれるんだ」と気づいたんです。生身の人間が歌うと生々しくなってしまう嘘や自我が、ボカロという記号を通すことで消去され、より普遍的で純粋なメッセージとして届く。それに気づいてからは、より意識的にその構造を活用するようになりました。
ウ山あまね:生身の人間が歌うと重すぎるリアルな距離感や友情のモヤモヤも、ボカロを通すことで全く別の次元に昇華されるんでしょうね。例えば「とげとげ」(オーパーツソケット名義)を聴いた時に、友達に対するリアリティや人間味がすごいなと感じるんですけど、それってまさにその構造だからこそなんだと納得しました。
ピノキオピー:ウ山さんのようなクリエイターにそこを捉えて評価してもらえるのはめちゃくちゃ嬉しいですね。