LiSA、ロンドンの夜を揺るがす絶唱 夢を現実に変えたロックヒロインの矜持

LiSA、ロンドン公演レポ

 パンクの街=ロンドンで鳴らす、自分の信じた音楽ーー。LiSAがまたひとつ、長年の夢を叶える一夜を過ごした。

 本稿で取り上げるのは、9月15日より全4都市を巡って開催された『LiSA LiVE is Smile Always~15~Europe & UK Tour 2026』ファイナル公演の模様。どの土地も彼女の活動史上、初めてステージに立つ場所ばかり。イタリア・ミラノ、ドイツ・デュッセルドルフ、フランス・パリと順に旅するなかで、最後に訪れたのがこのイギリス・ロンドンだった。

 会場は、ロンドンの東側(East London)に位置し、市内屈指のアートエリアとして知られるショーディッチ(Shoreditch)からも程近い、約3,500人収容のTroxy。1階がオールスタンディング、2階が着席指定席となっており、その間にゆったりとお酒を飲むために設けられたバルコニー席があったのも、なんとも海外的。ステージ上には、日本のホール公演規模でよく見る馴染みのLiSAセットが置かれながら、ふと客席の方に目を向けると、漆喰テイストの壁や天井に埋め込まれた十字の装飾など、西洋的かつ荘厳なコントラストが見られて、不思議な感覚にさせられたのをよく覚えている。

 筆者が現在、ロンドンを拠点に活動しているため、少しだけこの街の話をさせてもらいたい。ロンドンの住人はとかくルーツが幅広く、両親がそれぞれ別の出自を持ちながら、その子どもはイギリス人である、といったケースもまぁ珍しくはない。街で出会った人が新たな友人や仕事を紹介してくれることから、ここはよく“チャンスの街”だとも言われている。

 この日の会場も、年代こそ20代前後を中心としながら、アニメ好きだと窺える法被を着た集団から、いかにもロンドナーらしく、上下トラックスーツのロードマンな見なりの者たちまで、本当にさまざまなファンを見かけることとなった。そもそもロンドンでは現在、日本がホットカルチャーとしてかなりのブーム。街中には抹茶カフェがそこそこ乱立しており、開演前の待機列でも東京や京都に旅行に行った話、どのアニメを観ているかなどが話題になっていたように思う。

 日本ではほとんどないだろうが、ライブは20時半を過ぎたあたりで開幕。「best day, best way」「BRiGHT FLiGHT」を披露した日本・アジア公演からセットリストをがらりと変えて、冒頭を飾ったのは15周年のアニバーサリーソング「DECOTORA15」や、“これを浴びに来たんだろ”と言わんばかりの凄みがあった「Catch the Moment」など。全体を通して、やはり“初めまして”のファンに求められているだろうアニメタイアップ曲を網羅しつつ、それでいて本ツアーの意義であるソロデビュー15周年の歩みを辿るような選曲でもあった。

 まずは3曲を歌い終えてでのMCで「もぉ〜本当にロンドン?」から“Is this dream? Do you know me? wow…”(=これって夢なの? みんな、私のこと知ってるの?)と、日本語と英語を織り交ぜて感動をこぼすLiSA。そこから“I’ve got many song for you.”(=あなたのために、たくさんの曲たちを用意してきました)と、イギリス英語の言い回しで期待感を膨らませてから、「ここに居るみんなで、最高に楽しんでいきましょう。ピース!」と、いつもの開幕宣言をした後、再びライブが続いていく。

 本編で披露した全17曲のうち、特に記憶に色濃いのが6曲目「ムーンライト伝説」。言わずと知れたTVアニメ『美少女戦士セーラームーン』オープニングテーマだが、持ち曲豊富であるはずの彼女のワンマンライブで、まさかこんなカバーが聴けるなんて。海外公演の特別感というか、日本ではまずありえない光景すぎる。やはり、高まりは海外にある。

 それにしても、こうして本人のオリジナル曲以外で聴くと、改めてLiSAの歌声に宿るエッジや妖艶さを含めて、シンガーとしての特徴を再認識させられるというか。以前にも記したが〈あなた〉といった二人称や一人称に宿る想いは本来、その言葉が持つ範疇を超えた意味を優に超えてくるし、なにより〈同じ地球に生まれたの〉の“地球”と書いて“くに”と読むのが、今回のワールドワイドなライブの立ち位置としてもこれ以上なくぴったりなものだった(参考:LiSA、ライブアーティストとしての凄まじさ 楽曲と一体化する圧倒的パフォーマンス見せた『ONLiNE LEO-NiNE』レポ)。

LiSA

 こちらの楽曲を歌い終えると、LiSAがおもむろに下手のフロア最前へ。マイクを通さず、同エリアの女性ファンとなにやら会話を始めた。しかも、時間にしてそこそこ長い。「これははたして、なんの時間なんだろう?」と思っていたところで、件のファンがステージに連行されていく。そこから椅子に座らされ、手錠をかけられ、“本日の患者さん”として拘束されてしまった。

 “Help me Doctor?”と彼女の真横からLiSAが耳元で囁いたのに始まり、正面で手を握り、目の前のお立ち台にすべてを曝け出すように背中を預けーーゼロ距離×360度でLiSAを体感する外来診療「DOCTOR」の時間である。かつて、ライブで人体模型を患者に見立てていたのが、いよいよ生身の人間にまでなるとは。ちなみに拘束されたファン当人は、決して幸せを爆発させることなく。むしろ、LiSAと目があっても自身の胸を抑えるか、“パチパチ”と手のひらをまっすぐにした形で拍手するか、あるいは“どうしましょう”と言わんばかりに、ちらちらとカメラ越しに我々を見て、溢れんばかりの感動を伝えてくるのが妙にリアルだったとも付け加えておきたい。

LiSA

 本編中盤では和傘を手に、紅の豪華絢爛な着物に早着替えをした「明け星」、一曲を通してまるで楽章のように雰囲気が変わった「残酷な夜に輝け」と、この時間だけはどうしても時間の流れの感じ方が変わってくる。なんというか、歌詞のメッセージがじんわりと滲んでくるような引き込まれ方をしてくるのだ。特に「明け星」では、終盤のピアノ一本弾きでのビブラートに、会場全体が紛れもなくのみこまれていた。声の上下、大小のみならず、三次元的なものを感じる声の震わせ方はもう、とんでもない技術が備わっている、としか記すことができない。言葉以上の力を持つLiSAの歌声がとかく圧巻だった。

 そして意外すぎたのが「炎」でシンガロングが起こったこと。本人からも“Sing together.”という煽りがあったほか、なんと前方スクリーンにローマ字表記での歌詞が投影されたのだ。正直、これにはかなり虚を突かれたというか、この楽曲には本来的に弔いの想いがこもっており、日本でのライブでは静かに聴き入るような時間を経験していた記憶がある。一方、海外ではあくまで純粋に楽曲として、全員がひとつになるために。結果、それぞれの土地で真逆のアプローチに楽曲の受け止め方が変わっていたのがとても新鮮だった。

 本編終盤に披露された「紅蓮華」が大熱唱になることは予想していたものの、まさか「炎」までとは。数あるセットリストのなかで、どれをシンガロング曲にぶつけるか、同じ日本人でも、LiSAと彼女のチームは我々が思っている以上に先の楽しみ方を“ねりねり”しているのかもしれない。ここまで記した「ムーンライト伝説」然り、「DOCTOR」然り、本当に細かな演出が光ったこの日のロンドン公演だった。

 曲中の歌詞を〈hello my life hello new world〉から〈hello London hello new world〉にアレンジし、会話をするように歌を歌い、喋り過ぎてサビの入りにつまずくという笑いもさらっていった11曲目「HELLO WORLD」。歌唱前には、こんなMCも届けられた。

“Thank you for coming tonight, London. In my 15th Anniversary now. I’m so happy to see you all.”(=今日は来てくれてありがとう。ソロデビュー15周年なんだ。みんなに会えてうれしいな)

“Performing here in London has been one of my old dreams for a long time. I started my band because I loved punk music. And fashion, music, culture…and you.”(=ロンドンで歌うのは長年の夢で、パンクが好きで、バンドを始めたこともあった。音楽、洋服、カルチャー、そしてあなたのことが大好きだよ)

「私が日本語以外のたくさんの言葉を話したいなって思うのは、あなたが日本語で歌を歌ってくれたり、“ありがとう”って伝えてくれるからです」

LiSA

 本編終盤の「ADAMAS」「紅蓮華」といったアッパーチューンの畳みかけもさることだったながら、当日参加したファンの心に深く残っていると思われるのが、アンコール2曲目の「Patch Walk」。ここでは前方モニターに、東京・日本武道館から日本全国に至るまで15周年ツアーでの思い出を、まさに曲名同様に繋ぎ合わせたVlogが投影されることに。

 すると大サビに入ってすぐ。映像の舞台が一気にロンドンまで移動。前々日にライブを終えたパリからユーロスター(Eurostar)で、ロンドンはセント・パンクラス駅(St. Pancras International Train Station)へ。その後、タワーブリッジ(Tower Bridge)、ビッグベン(Big Ben)と、見慣れた光景に彼女が降り立ったことで、改めて目の前にLiSA本人がいることを伝えてくれる。なんとも心温まる演出すぎる。

LiSA

 また、締めの「crossing field」では客席を2階までくまなく練り歩き、文字通りに会場を熱狂に叩き込むと、本当に予定外だったという「もう1回!」コール(それも日本語)を受けて急遽、「紅蓮華」をワンコーラスのみ歌唱。改めて、ロンドンの夜を震わせてくれた。

 帰り道、ロンドンでいう品川駅のような立ち位置の駅エスカレーターを上っているとき、LiSAのグッズTシャツを着たファンが、満足そうな表情で一列に並んでいる光景を目にした。「ここは九段下やさいたま新都心ではなく、本当にロンドンなのか?」と不思議な気持ちになると同時に、この日の会場の盛り上がりぶりを思い出すことしばし。彼女がした“I’ll be back soon!”の約束が、いつの日か間違いなく達成されることを確信する次第だった。ロンドンは、チャンスの街。願えば、叶う。LiSAの想いだってもちろん、例外ではないーー。

『BLARE FEST. 2026』DAY2総括:coldrainが築いた“ラウドのホーム” LiSA、HEY-SMITH……国内フェス屈指の音圧と熱狂の渦

coldrainが主催したフェス『BLARE FEST. 2026』、2日目(2月8日)の模様を総括レポートする。

『鬼滅の刃』『機動戦士ガンダムSEED』『ソードアート・オンライン』……梶浦由記、LiSAらと奏でたアニメ史に残る名曲の数々

梶浦由記による『tiny desk concerts JAPAN』収録現場の模様をレポートする。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる