松木美定が語る夜の宅録アルバム『The Night Atelier』 孤独を美しくする音楽、ひとりで作ることの意味
“優しく”の隣に置いた“鋭く”という言葉
――先行シングル「Late Show (Writer's Cut)」は、シンガーソングライターの早希さんに提供した楽曲のセルフカバーです。タイトルに“Writer's Cut”と付けた理由は?
松木:早希さんは歌がすごく強い方なので、僕が普段できないことをやってみようと思って、Cセクションを加えたり、構成を広げたりしたんです。でも、いざ自分で歌ってみたら難しすぎて(笑)。オリジナル版とは構成も少し変えて、映画でいう“Director's Cut”みたいな作曲者版という意味で“Writer's Cut”にしました。
――歌詞には〈明日も鮮やかで優しくなれますように〉と〈明日も穏やかで鋭くありますように〉という対になるフレーズがあります。この“優しく”と“鋭く”の組み合わせが印象的でした。
松木:“鋭く”というのは、単に優しい、ふんわりした人間ではねえぞ、というところを出したかったのかもしれません。深層心理的に、ね。そういうところは、自分でも少し自覚しています。
――洗練されたサウンドの中に、反骨精神が潜んでいるんですね。
松木:うまく言葉にするのは難しいですけど、当たり障りのないものだけは避けたいという気持ちはいつもあります。ロックとは少し違うかもしれないけれど、そういう精神は常にありますね。
――「Late Show (Writer's Cut)」ではトランペットもご自身で演奏しています。
松木:実はピアノや歌より、トランペットが一番ちゃんと演奏できる楽器なんです。家では音を出せないので、近所の小さな公民館のホールを1時間200円で借りて録音しました。響きすぎないように、カーテンの陰に隠れて吹きました(笑)。
――そのDIY感が最高です。反田零さんが手がけたMV、松木美定らしい“夜と光”のテクスチャーを見事に映像化していました。
松木:反田さんとは、僕から直接細かくやり取りをしたわけではないんです。スタッフの方を通して、Instagramに載っていた好きな作品をいくつか伝えたら、最初にいただいたラフがすでにすごく良かった。僕から付け加えることはありません、とお任せしました。反田さんの世界が全部出ていますし、細かなバックビートまで聴いて絵を合わせてくださっている。本当に音楽を細部まで聴いて、目に見える形にしていただけたことがありがたかったです。
暗すぎる夜を削って見つけた“華やかさ”
――アルバム前半の「牙の輝き」は、端正な和音と激しく歪んだギターが衝突する曲です。いい意味でロックを感じましたが、どのように生まれたのでしょう。
松木:かなり初期にできた曲で、1stアルバムが完成するより前だったと思います。今回の夜のアルバムを作ろうと思うきっかけのひとつでした。たぶん、当時は何かストレスがあったんでしょうね(笑)。新古典的というか、クラシックの三和音の練習曲みたいなコード進行を作って、そこにギターをものすごく歪ませて乗せたら、ストレス発散になると思ったんです。今はもう書けないと思います。当時はちょっとオラついていたので(笑)。
――そのギターの爆発力があるから、アルバムの夜が一色にならない。一方、「花の記憶」と「だませない」は、とても自然な呼吸を感じる曲です。
松木:その2曲は、本当にすぐできました。弾き語りに近い形で、メロディと歌詞が30分ぐらいでできたんです。考えた痕跡がかなり残っている曲もありますけど、この2曲は思いついたときの鮮度がそのまま録音されている。それが気に入っています。
――「私の影」も、夜の内省が色濃く表れた1曲ですね。
松木:夜になると、自分はどういう人間で、何を考えているんだろうと、メタ認知のようなことをよくするんです。それは、自分の縁取りが少し遅れてついてくる影みたいだと思って。アルバムが完成する直前、スタジオに入る前にカフェで歌詞を一気に書き、スタジオでキーボードのメロディを作って、その歌詞を歌ってから伴奏をつけました。自分でも正確な意味はまだよくわからないですけど、夜に自分と向き合うことを歌っているんだと思います。
――ジャケットには、夜の村と星のような猫が描かれていますね。
松木:これは1、2年前にiPadで描いた絵で、もともとはCDのインレイの裏側に使おうと思っていたんです。最初はもっと暗くて、少しホラーっぽい夜のイメージをジャケットにしようとしていました。でも完成が近づくにつれて、「ちょっと辛気くさいな」、「夜にこんなの聴きたくねえな」と思って(笑)。アルバムにも当初はもっと暗い曲があったんですが、外していきました。夜だからこそ、もっと華やかなものを聴きたい。その気持ちに合わせて、後ろに置く予定だった絵を表へ持ってきたんです。