the bercedes menzが鳴らすポップネスとしての異質なテクスチャ “ハードコアJ-POP”の理想と可能性=『weapons』を紐解く
J-POPの手触りが移ろう時代、ギターバンドとして突き詰める異端な在り方
近年のJ-POPにおける、“刺激”のあり方が変わってきている。
かつてポップスのフックは、メロディや歌詞に宿るものだった。もちろん、それらは今なおポップミュージックの核だ。しかし2020年代に入り、その手前で耳を惹きつける力もまた重要になった。リスナーが最初に反応するのは、耳に飛び込んでくる音の質感や情報量だ。SNSを開けば、数秒で印象が決まる時代。ボカロミュージックやハイパーポップ以後の音楽、さらにはTikTokを経由したJ-POPでは、メロディだけでなく、音色(おんしょく)やテクスチャそのものが楽曲の第一印象を決定づけるようになっている。「どんな曲か」よりも先に、「どんな手触りの音か」が記憶される時代になったのだ。
そうした潮流を、ギターバンドというアプローチで更新している存在がthe bercedes menz。彼らは自らを「ハードコアJ-POPバンド」と名乗る。その紹介だけを聞けば、J-POPとハードコアを掛け合わせた色物のようにも思える。しかしニューアルバム『weapons』を聴くと、印象は大きく変わる。轟音のギター、張り詰めたスネア、粒立ったベース――耳を奪うのは演奏の激しさだけではない。一音一音の“触感”そのものが、ポップスのフックとして機能している。
興味深いのは、コンポーザーの田中喉笛(Ba)が、その音作りを「後から装飾するもの」と考えていないことだ。「今作では楽曲を書く際はまずメロディやコードがあり、その後に音色を決めていったのか? それとも“こういう質感の音を鳴らしたい”という発想から曲が生まれることもあったのか?」という率直な問いをぶつけたところ、次のような答えが返ってきた(以下、発言箇所は田中へのインタビューの回答からの引用)。
「曲名と曲のフレームワークが最初にあり、そこからスタジオワークやライブを通して掴んでいったメンバーのプレイヤビリティや嗜好を前提として、具体的なメロディやコードなどを考えています。そういった意味ではフレームワークの中に音色という要素が含まれることもありますので、後者の方が近いかもしれません」
音の質感は、後から加えられる装飾ではない。彼らにとってそれは、作曲そのものなのである。ちなみに、最近テクスチャや音色で惹かれた作品を尋ねてみると、興味深い3作品が挙がった。
「アルバムで言うと、Boards Of Canadaの『Inferno』、Yeの『BULLY』、そしてRimbaの『Technicolor Meeting』です」
中でも、インドネシア発のクリエイティブコミュニティから創作活動をスタートし、現代ポップのモードを更新し続けるRimbaは、音のテクスチャと作品のコンセプトやストーリーテリングを接続する稀有な存在だ。田中がその名を挙げたことは、『weapons』に投影された感性を考える上でも示唆的である。というのも、『weapons』は、単にノイジーなアルバムではない。プレイヤビリティは向上し、楽曲自体がこれまで以上に練られてきている。
「昨年加入したヤマ(Dr)との体制がライブを経て固まってきたことで、このバンドでできることが拡張され、その結果前作(『mutist beach』/2025年)よりソングライティングに広がりが出た影響は大きいと思います。また、昨年のEP『montauk』から共作しているエンジニアの向啓介さんと時間をかけて話し合い、同じ方を向いて制作できたので、より洗練されたサウンドプロダクトになり、そういった部分にフォーカスが当たるようになったのではないかとも思います」
『weapons』では、奇抜さは目的ではなくなった。異質なテクスチャは、すでにポップネスの一部として機能している。the bercedes menzは、少しずつそういったフェーズへと変化してきているのかもしれない。