ゆとりくん「他者の評価が自分の幸せに結びつくわけじゃなかった」 今見つけた光の当て方、『ミラーボールを消して』

「音楽を使って言葉の力を試したいと思った」――自負が切り開いた歌の道

――2020年7月にはファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOグループの傘下に入って、同年「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞者に選出。2023年12月、アパレル業界史上最年少・最速で東証グロース市場への上場を果たしました。若き経営者として注目されるなか、2024年にKOHEI(BUZZ-ER.のCHIBA)さんとのボーカルユニット・69(無垢)をスタートされました。

ゆとりくん:69を始めたきっかけは、会社の上場でしたね。そもそも僕は言葉の力を使って、経営者としてのし上がってきたんですよ。“yutori=ゆとり”という会社名もそうだし、起業していちばん最初に企業理念「臆病な秀才の最初のきっかけを創る」を掲げて、それが今は「ハグレモノをツワモノに(TURN STRANGER TO STRONGER)」という言葉になっているんですけど――社会でまだ発見されていない若い才能をいち早く自分たちのセンスで見つけ、その子をファッションやプロダクトを通して社会と繋いでいく。その背景には自分の言葉で人を引きつけることができてる、という自負があって。ただ言葉って閉じられてるというか、知的なものじゃないですか? 今、本を読める人ってどれぐらいいるの? って話だし、この記事も知的な人しか読まない。だけど田舎のヤンキーも、どれだけ国語が苦手な人でも、好きな曲ってあるわけじゃないですか。つまり、メロディがあれば言葉はいろんな人に届く。音楽を使って言葉の力を試したいと思ったんです。ある時ラップっぽい散文詩を書いて、友人であるDannie Mayのマサに送ってみたら「めっちゃ面白いです。片石さんにしか書けない歌詞があるはずだから、曲を作ったらいいんじゃないですか?」と言ってくれて。それがきっかけで始めましたね。

――2025年9月に音楽事務所クラウドナインへの所属を発表し、ゆとりくん名義での音楽活動をスタート。今年2月には1st EP『KINGDAMN』をリリースされましたが、今振り返って、どんな作品だととらえていますか?

ゆとりくん:1st EPは自分はアーティストとしては素人なので、作家さんにトラックを作ってもらってメロディやフックを一緒に考えたりして、共作に近い感じで作ったんですよ。周囲の意見を組み取りながら「この人に乗っかろう」みたいな感覚が強かったんです。僕の低い声を活かすことができるので、HIPHOP的な音楽がいいだろうと決めました。でも、僕は全くHIPHOPな人間ではなくて。資本主義的な社会に参加できなかった人が、マイク一本で成り上がっていくのがHIPHOPじゃないですか。一方で、自分はロックンロール的な考え方なんです。資本主義的な成功とは別の、自分のあり方を探し続けるからこそ、動き続け、揺らぎ続ける。「俺はそっちじゃん!」と思ったんです。

――『KINGDAMN』を作ったことで、自分の作るべき音楽が見えてきたわけですね。

ゆとりくん:そうですね。社長業の傍らアーティスト活動をして、なんかっぽいよねみたいな作品にはなったけど、っていう。そのなかでも「VintageTee☆」だけは、今の自分に近いやり方で曲を作ってて。初めて「しっくりきた」と思えたんです。自分の持ってるテーマとも一致しているし、今回の2nd EPに繋ぐ橋渡し的な存在になっていますね。

――ここからは、そんな2nd EP『ミラーボールを消して』について伺っていきます。

ゆとりくん:まず、このEP全体が鬱っぽいというか暗いんですよ。というのも2025年下半期の、病んでいた時期に作った曲がほとんどで。会社の業績は順調だし、世のなかから注目もしてもらっているけど、僕の場合は他者の評価が自分の幸せに結びつくわけじゃなかったんです。結局は自分が自分をどう感じるかだなって。そういう心の変動とともに、このEPは出来上がりました。

――1曲目「fashion」は“正しさ”が次々と更新される現代社会そのものを描いた楽曲。タイトルも「正しささえ流行のように着回される世のなか」の比喩として機能していますね。

ゆとりくん:鬱を少し抜け出してきた時期に作ったのが「fashion」でした。SNSのタイムラインを見ていても、いろんな正義が瞬間的に着回されて消費されてる。〈正しさは流行り廃り/昨日の正義はもうダサい〉と歌っているんですけど、生きていくうえで自分なりの美学とか「自分とはこういう人間なんだ」「自分にとっての幸せは何なんだ」という考えって、もちろん社会性を孕んでいるんだけど、自分自身で独立して決めた部分も大きくて。そのバランスを探っていくのが人生の喜びだし、奥深さだと思うんです。ただ、そういう美学みたいな言葉ってなくなったよなって。もちろん浮世離れした職人さんとか、仙人的な生活をしてる人のなかにはいると思うんですけど、世俗的なコミュニティのなかで「これが自分の美学なんです」と言う人はもういないのかなと。その皮肉めいた感じが自分っぽいなと思いながら歌詞を作りました。歌ってる内容をXにポストしたら、きっと炎上すると思うんですよ。でも、音楽にすればクスっと笑える感じで受け取ってもらえる。みんなから見た、ゆとりくんっぽい音と思想を表現してみようと思ってできたのが「fashion」ですね。

――戦争反対を掲げるロックスターや革命を叫ぶ学生運動家を引き合いに出して、人間の矛盾や大衆心理を描きながらも、単純な善悪では割り切れない複雑さを提示しているように感じました。

ゆとりくん:そうですね! 別にどっちが良いとか悪いとかじゃないんですよね。一歩引いて見るというか、こっちではこう言ってるけど、こっちではこうなっちゃってる。それって人間らしさだし、みんな矛盾してるよねって。人間ってそもそもそういうもんじゃん、という感覚かもしれないです。

資本主義のなかで薄れた初期衝動を「必死に取り戻そうとしてる自分」

――2曲目「turn go (feat. YOSHIKI EZAKI)」は社会の枠組みに馴染めなかった人が、自らの道を切り開いていくストーリーに思いました。

ゆとりくん:これは「VintageTee☆」でもタッグを組んだYOSHIKIと歌った曲です。まさに自分のストーリーが色濃く出てますね。

――〈flashback flashback 過去のトラウマ〉のフレーズには、どんな思いを込めたのでしょう?

ゆとりくん:原体験という言葉が一般化して以降、何もかもを過去からの地続きで考えなきゃいけない空気があると思うんです。もちろん僕も自分が紡いできたものは大事にしているし、それをヒントに前へ進むことはある。ただ、24歳の僕に「6年後に上場企業の社長になれる理由を説明してくれ」と言われても、たぶん説明できないんですよ。若さやセンスで、一気に景色が変わることもあるから。

――過去から未来を直線的にとらえることは難しいと。

ゆとりくん:はい。あと僕自身、地元では地元での見られ方があったけど、その友達と距離を置いて東京に出てきたことで、新しい自分になれた感覚があった。前に進むほど昔の自分には戻りにくくなるけど、そのぶん新しい可能性も開けていく。そういう感覚も表れていますね。

――3曲目「PARADOX (feat. KOHEI, Sora)」は社会のハグレモノからトップへと上り詰めたにもかかわらず、満たされない心や消えない渇望が歌われていますね。

ゆとりくん:〈1枚100万のheart shaped box/匂わない smells like a teen spirit〉がすごく好きで。ニルヴァーナの「Heart Shaped Box」のTシャツが、古着だと100万ぐらいして、それを買えるぐらい自分は資本主義のなかで成功したけど、その初期衝動の匂いみたいなのはなくなった。それを音楽を作ることによって、必死に取り戻そうとしてる自分がいる。このヴァース自体はほかの人も書けるかもしれない。でも、実際に歌った時にリアリティを持たせられるのは自分だと思うんです。そういう意味でもパラドックスですね。もともとはバーで僕とSoraが飲んでる時に「曲作ろう」とノリで決まって。SoraがYOSHIKIを連れてきて、その日に「また飲もう」となり、YOSHIKIが「PARADOX」のデモを作ってきたんですよ。当初のデモは今と違う内容で、僕がサビの〈社会のハグレモノからTOP/駆け抜ける12345〉を引き継いで作り直しましたね。

――ボーカルは三者三様の色がとてもいいバランスで出ていて。

ゆとりくん:ですね! ちょっとローで陰鬱としている自分、エネルギッシュで渇望感があるSora、それらを柔軟かつテクニカルに包み込んでいくKOHEI。最後のヴァースだけ後で付け足したんですけど……アレだ! 去年末に69(無垢)のワンマンを渋谷WWWでやった時に、Soraが歌詞を飛ばしたんですよ。彼のヴァースは決まっていたんだけど、飛ばして「フリースタイルでやります」となって。アウトロで「人生のなかでゆとりはない」と歌った時に、それめっちゃいいなと思ったんです。ライブの時点で曲はある程度できていたんですけど、終わってから急遽付け足したんですよね。特に「昼夜逆転 行けよ勘違いのままで」は好きですね。自分的にはいなたい感じがヤンキーっぽくて気に入ってます(笑)。

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