歌声分析 Vol.14:Official髭男dism 藤原聡 “変幻自在”な歌声、一音に魂を宿すボーカルアプローチ
変幻自在な音圧と発音、常に高い熱量を維持し続けるボーカル
「ミックスナッツ」(2022年)は、ジャズやファンク由来の跳ねたリズムが特徴的な楽曲だ。Aメロでは単語ごとに跳ね方を変え、ある言葉では強くバウンスさせ、別の言葉では真っ直ぐ置く。母音も一音ごとに短く切りながら、語尾の処理でニュアンスを変化させている。この細かなコントロールによって、曲全体に独特の“弾力”が生まれている。さらにサビ前の〈ありのままでは居られないまま〉では、ロングトーンの中で段階的に音階を上昇させ、ホーンセクションと溶け合う。その直後、〈隠し事だらけ〉では子音のエッジを立たせ、一気に楽曲全体の推進力を引き上げていく。
「Make Me Wonder」(2025年)は、バンドのルーツの広さと音楽性を更新し続ける姿勢が表れたダンサブルな楽曲だ。細かい譜割りと高低差の激しいメロディを、フレーズの反復によってポップスへ変換している。この曲で際立つのは、ブレス処理と高音域のバリエーション。Aメロでは、子音を強く立ち上げ、母音にも圧をかけることでパワフルさを出している。一方、〈君と僕にはどんなルールやヒントが存在するんだろう?〉以降では、言葉を柔らかく処理し、リズム感を変化させていく。また、〈君の良いとこ 気味悪いとこ 底のない底/知ってくほどイコールじゃない〉では、メロラップのアプローチを取り入れ、一瞬だけ裏返る声もあえて残している。完成度だけでなく、“生っぽさ”を共存させているのも藤原の魅力だ。
最後は、スケール感あるミディアムバラード「スターダスト」(2026年)。この曲では、最初から最後まで熱量を落とさないボーカル設計が際立つ。地声、ミドル、ヘッド、ファルセットを滑らかに行き来しながらも情報量を過多に感じさせないのは、それぞれのスキルを瞬間的に使い分けているからだ。特に語尾処理が秀逸で、母音を響かせながらも音圧を維持するため、言葉がぼやけない。歌詞、メロディ、リズムが同時に成立しているのだ。
藤原のボーカルは、リズム、メロディ、言葉を滑らかに接続しながら、常に高い熱量を維持し続ける。その本質は、複雑な音楽を“歌声”というひとつの塊へ統合できる点にある。歌声が、ひとつのバンドアンサンブルそのものなのだ。ここに、藤原聡というボーカリストの稀有さがある。