『ブレイクマイケース』2周年記念対談 統括今井P×前田甘露が明かす21人の人生を懸けた作詞、サウンド制作秘話

 2024年5月にサービス開始となったスマートフォンアプリ『ブレイクマイケース』(以下、『ブレマイ』)が、2周年を迎えた。渋谷にある、昼はカフェ、夜は会員制のバーとなる“Aporia”は顧客の願いに応じて、生きた人間の代わりを務めるマルチ代行サービスを提供していた。ひょんなことからオーナー代理として21人の個性溢れるスタッフたちと共に働くこととなった主人公。物語を進めるためのパズルゲームとそのBGMとなる音楽、さらに劇伴や21人が歌うパーソナルソングといった多彩な音楽に彩られたこのコンテンツの2周年のタイミングで、Aporiaの21人が歌うオールスタッフソング「BREAK MY PHASE」が届けられた。

 今回リアルサウンドでは、ファンにとっても待望の一曲が生まれたきっかけから、6つの部署の音楽を繋ぐギミック、さらに楽曲意図について、作品を統括する今井プロデューサーと作詞を担当した前田甘露へインタビュー。また、対談の最後には「BREAK MY PHASE」の作曲を務めた竹内聖のメールコメントも掲載。オーダー代行の熱を加速させるスタッフもまた、“Aporia”への並々ならない熱を持っていることが伝わるトークをお届けする。(えびさわなち)

渾身の全員歌唱曲は、なんと10分の超大作!

——『ブレマイ』の登場キャラクター全員で歌唱する「BREAK MY PHASE」が完成しました。それも圧巻の10分という超大作。MVも素晴らしかったです。

今井総合プロデューサー(以下、今井):今回、新規のイラストとしてはAporia各部署の部長が会議をしているアルバムアートのみで、基本的には既存のイラストを活かす形で作っています。それなのにこれほど新鮮な映像に見えるのは、CGやリリックの魅せ方に起因しているかなと。動画は映像クリエイターの朝倉すぐるさんにお願いしたのですが、本当にいい座組で作れたなと思っています。

前田甘露(以下、前田):本当に素晴らしいMVです!

今井:前田さんは作詞時に仮歌のデモをたくさん聴かれたと思いますが、完成音源はAporiaスタッフたちの声が吹き込まれて、サウンド面も大きく進化しました。聴いてみていかがでしたか?

前田:僕が想像していたよりも、さらにかっこよくなっていました。と、本来の形は知っているはずなのに、「ここはこうなるのか!」という新しい発見がたくさんあって、さすがプロのお仕事だなと思いましたし、10分間があっという間でした。こんなに素敵なコンテンツに関わらせていただけていることに、今さらですが汗が噴き出しております(笑)。

——さて、そんな『ブレマイ』が2周年を迎えました。今の心境をお聞かせください。

今井:まずはユーザーであるオーナー代理の皆さんに、改めて深く感謝を申し上げます。皆さんからの応援やご意見に僕らは日々背中を押していただいたおかげで、2回目の節目を迎えることができました。本当に嬉しく思っています。

【PV】ブレイクマイケース 2nd Anniversary -Dualism-

——この2年での変化はありましたか?

今井:制作側の変化としましては、腰を据えて未来のことを考えられるようになりました。リリース当初は、ユーザーさんからの沢山の反響を受けて「来月はどうする?」みたいなアドリブ的状況も多かったのですが、今ではユーザーさんが『ブレマイ』にどういったコンテンツを求めているかが段々わかるようになってきたおかげで、柔軟にプランを調整する体制が整い、今では作品の展開を年単位でも考えられるようになってきました。ゲームのアップデートや楽曲の提供はもちろん、アプリ外の展開にも一層力を入れていきたいとも考えていまして……。2026年も早速『ブレイクマイケース 3rd Conference』というリアルイベントを皮切りに、舞台『Groovy Stage「ブレイクマイケース」』の上演、さらにはDJイベント『BMC Groovin’ Night2』の開催など、アプリ外でも幅広い場所で『ブレマイ』の魅力を伝えることができました。そうしたチャレンジも、オーナー代理の皆さんが『ブレマイ』とAporiaスタッフたちを愛してくださっているからこそです。心からの感謝を申し上げます。

——楽曲制作もローンチ前から現在に至るまで続いていますが、2周年のサウンドも制作中とのこと。これまでの流れを経て、楽曲制作において変化はありましたか?

今井:初期はキャラクターと部署ごとのサウンドのイメージを“記号的”に反映することを意識していました。ただ、そうなるとサウンドトラック全体で曲数が増えても、似たようなテイストの曲ばかりが集まってしまう。そのため最近は、「本部っぽいサウンド」「交際部っぽいサウンド」といった記号的イメージを時にはゆるめ、イベントやライブで熱くなれるような曲という、展開先に応じた制作を意識しています。でも、そこでも『ブレマイ』らしい“おしゃれでクールなサウンド”という芯はなるべくブレさせないようにはしているのですが、以前よりもバラエティに富んだ音楽を提供できていると思います。

——リアルイベントで必ず生楽器の演奏が入ることも『ブレマイ』のカラーになりましたね。

今井:「歌唱」に限らないサウンドへのこだわりが『ブレマイ』のユニークな強みだと思うので、そこに力が入っていることの象徴として、イベントにはほぼ必ず生演奏を取り入れています。以前、朗読劇の後ろで作中の劇伴BGMを演奏するという演出にトライしたこともありました。あとは「DJプレイ」も、サウンドへのこだわりゆえに選んでいる表現のひとつですね!

——それもあって、音楽との親和性の高いコンテンツであることが浸透しているのかなとも感じます。

今井:そうですね。キャラクターや物語だけでなく、それらを彩る外側の要素にも注目していただけるのは、ゲームクリエイターとしては嬉しい限りです。

6色ある個性豊かなサウンドを一曲にするために必要なファクターとは

——「BREAK MY PHASE」に反映された、キャラクターや部署への理解が深まったからこその要素はありますか?

今井:この曲は、『ブレマイ』をまだ知らない方に向けては作品の“名刺代わり”となるものでもつつ、すでに『ブレマイ』を愛してくださっている方にとっては、歌詞の一つひとつに「うんうん」と頷けるものにしたかったんです。そういった点では、「ユーザーが今、Aporiaのスタッフや部署について何を知っているか」に注目して、歌詞を編んでいただきました。

【MV】BREAK MY PHASE / All-Aporia Staff【ブレイクマイケース】

——念願の全体曲。その歌詞を前田甘露さんにお願いすることになったのは、どのような経緯でしたか?

今井:新規と既存、両方のファンに届けたいという狙いがある中で、前田さんであればそのバランスも取れたものにきっと仕上がると考えました。過去に書いていただいた歌詞を見ていても「キャッチーな言葉選びとキャラクターへの深い理解が両立している方だ」と感じていたので、第一希望として指名をさせていただき、ありがたいことに依頼をお受けいただけました。

前田:ありがとうございます。僕はパーソナルソングの作詞で初めて『ブレマイ』に関わらせていただいたのですが、その時に自分の作詞家人生において、とても素敵な出会いをいただいたと思っています。実は作詞家としての道に悩んでいた時に、樋宮明星くんの「Laughing Star」を書かせていただいたんです。夢を諦めたくないけど自分の道が閉ざされていくような気持ちには、すごく共感する部分があって。作詞をしながら自分自身が通ってきた過去も打開できるような気持ちになれたんです。そうした経緯もあって、今回の作詞を任せていただいた時には、大げさに聞こえるかもしれないですが……「自分が作詞家になった意味はこの曲のためだったのかもしれない」という運命を感じるような、幸せな作詞体験でした。それもあって今回は自分の人生を懸けて、みんなの人生を書きました。

今井:本当に嬉しいですし、現場の仲間にも伝えさせていただきます! 最初に着手された樋宮明星の「Laughing Star」は本当に言葉選びが見事でした。冒頭から〈明けない夜の片隅 星色(スターゴールド)のGlass〉と、彼の名前が隠れたリリックで始まっていて、その時点で「うわあ、イカしてるなあ!」とテンションが上がったことを昨日のことのように覚えています!

前田:ありがとうございます。

今井:あと、サビの〈ゆるやかにねだって〉というフレーズがめちゃめちゃ好きで、僕が100年かけても出てこないワードだなと思いました(笑)。「ゆるやかにねだる」という表現はおそらく日本語史上初めて使われたんじゃないかと思うのですが、こんなに「明星っぽい」表現があるのかと驚かされました。

前田:僕も明星くんに出会ったからこそ生まれたフレーズだと思っています。作詞も、ある種の“作詞代行”みたいなところがあると思っているんです。彼らの言葉を表に出す代行としてお役に立てていたら嬉しいです。

今井:公式サイトに掲載している、「甘え上手な底なし沼」という樋宮明星の二つ名があるんですが、確かに沼ってゆるやかに沈んでいくよなあと。

【MV】Laughing Star - 樋宮明星 (CV. 河西健吾)

——そんな前田さんが「人生を懸けて彼らの人生を書いた」歌詞ですが、「Prequel(プリクエル)」のストーリーがテーマになっているようですね。「Prequel」のサブタイトルがすべて歌詞に落とし込まれていたことに驚きました。

今井:そうなんです!

前田:各部署の『Prequel』のサブタイトルをユニゾンパートに入れ込むことは、ご要望としていただいていたので頑張りました。そしてもう一つ、「春夏秋冬と初夏、晩秋という季節そのものの言葉と、その季節を象徴する言葉を織り交ぜる」という素敵なアイデアも提示していただいたので、ぜひ取り入れたいと思いました。たとえば、春なら「芽吹く」、初夏なら「青い」など、セクションごとにさりげなく季節の彩りを取り入れられたことは、素敵な作詞体験でした。

今井:「6本の『Prequel』を主題歌メドレーにするような歌詞を作る」というアイデアを出してくださったのは、『ブレマイ』のメインシナリオライターである藍田創さんでした。先ほど言ったように、“名刺代わり”的ソングにしつつも、『ブレマイ』を知っている方向けのネタもたくさん入っている状況を作りたかったので、まさにジャストでベストなアイデアでしたね。

——前田さんにお渡しするトラック制作はいかがでしたか? それぞれの部署のサウンド感はまったく違いますよね。これらを繋いで1曲にする上でのディスカッションはありましたか?

今井:まず、僕たちは「4分に収めること」諦めました。

——結果、10分です。

今井:そうなりましたね(笑)。各部署のパートのサウンドメイキングについては、パズルBGMに取り入れている象徴的なサウンドデザインを反映させることにこだわりました。本部はディスコやハウスのサウンド、交際部はヒップホップ……というお馴染みのサウンドを10分の中でメドレーのような構成にする。そこで問題となるのが、6つのサウンドジャンルのギャップをどのように埋めるかということですが、僕自身は、必ず6つの雰囲気を流れるように繋ぐ必要があるというわけではなく、ある程度の”段差”があっても構わないと思いました。クラブのDJでも、BPMがズドンと落ちたり、急に上がったりするとテンション上がるじゃないですか。音が変わった瞬間に「管理部キター!」といふうに演出できるし、またそれが各部署の色を鮮烈に映し出してくれるわけなので、流暢なメドレーというより、若干オムニバスっぽい形でもきっと楽しめると思ったんです。

——確かに、テイストが変わった瞬間にテンションが上がりますよね。

今井:各部のパートは「歌はじまり」ではなく、必ずイントロからスタートするようにしていて、そこでめいっぱい部署ごとのサウンドデザインを提示するようにしています。ブレマイの音楽をよく聴いてくださっている方だったら、絵や歌詞がなくても、イントロの雰囲気だけで「強行部が始まった!」とワクワクしていただけるようになっていると思います。ただ、作曲家の竹内(聖)さんと作詞家の前田さんにはこの場をお借りして、謝罪をさせていただきたくて……。

前田:え! どうしてですか?

今井:「1曲」と聞いていたのに、「こんなの実質6曲分じゃないか!」と思われたはずなので(笑)。

前田:いえいえ、こんなに贅沢な曲は普通ないですし、作詞家として本望でした。本来、6人の作詞家を使うのかなと思うような案件を一人で担当させていただけたこと、本当に嬉しかったです。

今井:そう言っていただけて我々も嬉しいです。

前田:今まで一人ひとりの楽曲の作詞をさせていただきながら、いつか21人それぞれの歌詞を書かせていただけたらいいな、全員に関われたらいいなという思いがあったので。こんな素敵な形でそれが叶ったので、こちらこそありがとうございます、という気持ちです。

今井:こちらこそ、前田さんとのご縁があって本当によかったです。

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