『彼女、お借りします』に重なる“水上えみりの物語” なきごと、情けない純情を歌った「204号室」から垣間見える原点
なきごとの新曲「204号室」が4月11日に配信リリースされた。同曲は、TVアニメ『彼女、お借りします』(MBS・TBS・CBC “アニメイズム”枠ほか)第5期のエンディングテーマとして、水上えみり(Vo/Gt)が書き下ろしたものだ。
メンバーの卒業を経て、今年から新体制となったなきごと。1月6日にGlico「ポッキー」CMキャンペーンソング「甘々吟味」を配信リリースし、現在は全国ツアー『ビタースイートベイビーツアー2026』を開催中。そしてこのたび、アニメタイアップ楽曲を発表した。止まることなく音楽を届け続けるその姿に、今やファンの拠り所となった“なきごと”という場所を守り抜こうとする、水上の意思が滲む。
『彼女、お借りします』は、大学生の木ノ下和也が恋人代行サービスを通じて、レンタル彼女の水原千鶴と出会うところから始まるラブコメ作品だ。初めてできた彼女に1カ月でフラれ、恋に希望を持てなくなっていた和也は、心に空いた穴を埋めるために千鶴を“レンタル”する。しかし、プロとして完璧な仕事をする千鶴と接するうちにかえって卑屈になり、失礼な言動をとってしまう。さらに和也は家族や友人に、千鶴を本当の彼女だと紹介してしまう。
千鶴から「どういうつもり?」と叱られた和也は、もう誰かに頼らず自分の力で前へ進もうと決意する。しかし、嘘をきっかけに始まった奇妙な縁は簡単には切れなかった。関係が続くなかで、やがて和也は千鶴への“本物”の想いを募らせていく。同時に、和也に好意を寄せる別の女性や元彼女、千鶴と同じレンカノ事務所の仲間も現れ、人間模様は複雑さを増していく。「204号室」がエンディングを飾る第5期の舞台はハワイアンズ。“家族や友達とスパリゾートへ”という楽しげなシチュエーションの裏で、それぞれの思惑と感情が一気に噴き出していく。
そんな物語に寄り添う「204号室」は、まず純粋にラブコメのテーマ曲として優れている。楽曲はサビから始まる構成で、冒頭から〈僕は君のことが好きです〉と歌い上げる直球のアプローチ。恋する相手に伝えられない気持ちを、聴き手だけにそっと打ち明ける水上の歌声が、甘酸っぱくてたまらない。〈柔らかい君の温度に/触れてしまった 触れてしまった〉の、息を溶かすように消えていく語尾の処理も絶妙だ。そうしたボーカルアプローチの一つひとつが聴き手の胸の奥をくすぐる。
歌詞の一人称は〈僕〉であり、和也の視点から書かれたものとして読むのが自然だろう。〈先延ばしにすればするほど/かさむ延滞料金〉〈染みついた気持ちはもう/返却不可です〉といった、レンタルという設定に紐づく表現で恋心を描いたフレーズも印象的だ。メジャーデビュー以前から数々のタイアップ楽曲を手掛けてきた、水上のソングライターとしての手腕が光る。編曲を手掛けたのは、ライブサポートでもお馴染みの高田真路(chef's)。バンドサウンドを軸としながら、音色やリズム、フレーズに変化をつけることで、軽やかな遊び心を生み出している。ヒロインたちの魅力的な表情を切り取ったエンディング映像と合わせて、恋のときめきをポップに届ける一曲として機能している。
ただ、この曲が持つ表情はそれだけではない。水上は『彼女、お借りします』に対して、「守りたいということは、最大の愛情なのかも、と気付かせてくれた作品です」とコメントしている(※1)。この言葉が指し示す先にいるのが、和也というキャラクターだ。彼は決して完璧な人物ではない。物語の幕開けから、レンタル彼女を本物の彼女として家族に紹介するという嘘をつく。その背景には“祖母を喜ばせたい”という彼なりの想いがあるのだが、とはいえ千鶴を家庭の事情に巻き込み、迷惑をかけていることに変わりはない。その後も嘘を取り繕うためにさらに嘘を重ねたり、千鶴への想いが芽生えてからも告白を先延ばしにしたり……。およそ褒められるような立ち振る舞いではない。
だが、第5期が描こうとしている和也の姿は、その情けなさの先にあるものだ。不思議な関係を続ける和也と千鶴は、ある意味で共犯者だ。和也にとって嘘を重ねることは、千鶴を“嘘つき”にしないための行為でもある。自分が罪を背負ってでも、家族や友人を裏切ることになっても、千鶴が悪者になる未来だけは避けたい――それが和也なりの“守る”という愛情なのだ。ロマンティックさとは無縁だが、紛れもない純情。「204号室」の〈仮初めのフリした/へっぽこ真情 いたって純情〉という一節は、そんな和也の肖像とも言えるだろう。
水上がこの感受性を持つことには、なきごとというバンドの成り立ちが深く関わっているように思う。なきごとは、前身バンドのメンバーが全員脱退し、一人になった水上が、自らの“泣き言”を音楽に込めたことから始まった。自分の“泣き言”を歌ってみたら、それが他の誰かの感情とも重なった。不完全な自分の本音が、誰かの拠り所になる。そんな気づきが、このバンドの原点にある。和也が情けない嘘を重ねながら純情の極致へと辿り着くように、なきごともまた、水上が弱さや本音をそのまま差し出すことで、聴く人の何かを守ろうとしてきた。「204号室」には、その二つの物語が静かに重なっている。
完璧じゃない。不格好かもしれない。それでも君だけのヒーローでいたい。「204号室」は『彼女、お借りします』の核心を射貫く楽曲であるとともに、新体制元年を象徴する、なきごとのマイルストーンだ。
※1 https://kanokari-official.com/music/
◾️CDリリース情報
なきごと CDシングル『204号室』
5月20日(水)CD2形態同時発売
予約:https://erj.lnk.to/uFP6YA
なきごと「204号室」
デジタル配信中:https://erj.lnk.to/qndeIp
・初回生産限定盤(アーティスト盤)(CD+DVD)
ESCL-6241~6242 ¥4,400(税抜価格¥4,000)
<CD収録内容>
01. 204号室(TVアニメ『彼女、お借りします』第5期エンディングテーマ)
02. 甘々吟味(Glico「ポッキー」CMキャンペーンソング)
<DVD収録内容>
『鳴言 vol.3』2026. 02. 27 @ Shibuya eggman
01. ドリー
02. 忘却炉
03. ユーモラル討論会
04. さよならシャンプー
05. グッナイダーリン・イマジナリーベイブ
06. 短夜
07. 甘々吟味
08. マリッジブルー
09. 0.2
10. 愛才
11. メトロポリタン
12. ハレモノ
13. 退屈日和
14. 春中夢
15. 深夜2時とハイボール
en01. 憧れとレモンサワー
en02. 癖
・期間生産限定盤(アニメ盤)(CD+Blu-ray)
ESCL-6243~6244 ¥1,650(税抜価格¥1,500)
<CD収録内容>
01. 204号室(TVアニメ『彼女、お借りします』第5期エンディングテーマ)
02. 204号室(89秒TVサイズヴァージョン)
03. 204号室(Instrumental)
<Blu-ray収録内容>
TVアニメ『彼女、お借りします』第5期ノンクレジットエンディング映像
◾️ツアー情報
なきごと『ビタースウィートベイビーツアー2026』
4月25日(土)[新潟] 新潟GOLDEN PIGS BLACK
4月26日(日)[石川] 金沢vanvan V4
4月29日(水・祝)[愛知] 名古屋CLUB QUATTRO
5月10日(日)[大阪] 大阪Yogibo META VALLEY
5月16日(土)[宮城] 仙台enn 2nd
5月23日(土)[広島] 広島Live space Reed
5月24日(日)[岡山] 岡山IMAGE
5月30日(土)[東京] Zepp Shinjuku
※終了公演は割愛
チケット(各公演)受付URL:https://eplus.jp/nakigoto26
座席:オールスタンディング、金額:4,000円(1ドリンク別)