『尾守つみきと奇日常。』森下みゆ×meiyo 特別対談 それぞれの“当たり前”への肯定、作品に宿るあたたかさに迫る

言葉遊びに込めた意味、〈少しずつ〉に宿る優しい希望

──歌詞の面ではいかがでしょう。注力した箇所などはありますか?

meiyo:最初に触れた、“偏った目線”にならないようにという点もあるんですけど、僕の中にもマジョリティな部分とマイノリティな部分の両方があって、そこは絶対丁寧に書かなきゃいけないな、と。漫画自体もそれをすごく大事に描いている印象だったので。あとはやはり、歌詞で作中セリフの引用も絶対やりたいな、と思ってたんです。一言一句同じでなくとも、明確にこのシーンのことを歌ってるな、みたいな。そういう風に原作の要素を取り入れた部分は、自分的にもすごく好きなところですね。

──漫画を元に音楽を作る醍醐味でもありますよね。

meiyo:はい、その楽しさは大きいですよね。この作品を象徴する言葉を探しつつもう一周読んで、そこでまた新たな発見がある、みたいな。そんな流れで作らせていただきました。

──森下先生もおそらく、楽曲を聴いた際に「ここはこのシーンかな」と気づいた箇所があったのではないかと思うのですが。

森下:そうですね。歌詞も拝見させていただいて、「ここはあれかな、このことかな」と思いながら聴いていました。それこそ、meiyoさんが気を遣ってくださった部分でもあると思うんですが、サビの最後にある〈少しずつ当たり前になっていく〉の〈少しずつ〉って言葉がすごく温かくていいなって。急に変わることはなかなかないけれど、時間をかけて少しずつ変わっていくかもしれないな、というか。優しい希望、みたいなニュアンスが、強く出すぎずにちょっと光っている感じがすごくいいなと思いました。

(C)森下みゆ/小学館

──meiyoさんの歌詞の温度感が、森下先生的にもちょうどいい塩梅だったんですね。

森下:お話を作る時に、誰かが誰かを救う、みたいなことをよく考えるんです。でも、救うって言っても、人ってそんな簡単に救われるのかな、とも思う時がよくあって。でも急には変わらないけど、自覚のない誰かの何かの行動が、ほかの誰かにとってはすごく救われるものだった、ということもあるよな、と。押しつけにならない、そういう余白みたいな部分がしっかりとある感じがすごく素敵だな、と思いました。

──meiyoさんが作品のムードや温度感に、とても気を遣って寄り添われていることが伝わってきます。ちなみに今までお話いただいた内容も含め、制作の中で一番大変だった、苦労した部分はどこですか?

meiyo:一番はやはり、和のイメージからガラッとイントロを差し替えた時ですね。一度そのイメージで固定された音が、頭の中で鳴ってる状態からまったく別のものを入れなきゃいけないのが結構大変で。ただ、それも良いように捉えれば、凝り固まった目線から変えていけるものがあるよ、ということで(笑)。なんというか、自分の中の“当たり前”が違う形になっても、またそれも“当たり前”として愛せるよ、みたいな。そういう部分を勝手に漫画の内容へ重ねたりして、その点でもピッタリなものができたらもっといい曲になるな、と思えたことで何とかなった節はありましたね。

──制作のマインドも、図らずも原作へ寄った部分があったんですね。こういうケースは他の制作でも時々あるんですか? ある程度完成したものを一部作り替えないといけなくなる、みたいな。

meiyo:あるっちゃあるんですけど、ここまで大胆に変えることはあまりなくて。だから割と珍しいケースではあったんです。でもどうしても納得いかないというか、自分としても「うーん……」みたいな感じがあったので。

──なるほど。ゼロから生み出す苦しみとは、また少し違った大変さかと思います。音楽だけでなく、漫画やイラストといった他の創作でもおそらく時々ある話かと思うのですが、森下先生はいかがですか?

森下:よくあります。つらいですよね(笑)。エンタメであることは忘れちゃいけないし、当然皆さんに楽しんでほしいのが大前提なので、その中で「どうやったら一番いい形で届くんだろう」と毎話毎話考えてます。今回のメインディッシュはどこだろう、つみきさんのどんな表情、どんな一面が見れたら嬉しいかな、とか。じゃあそこに辿り着くには、どんなことが起これば一番皆さんが喜んでくれるかな、ってパズルみたいにずっと考えてますね。たまにパズルが全部違って真っ白になる時もあったりしますし。でも、掲載時にはちゃんと一話一話いいものを出し続ける、というのを頑張っている感じですね。

meiyo:いやあ、本当にそうなんですよ。自分も曲の作り方が近いというか、ここを聴かせたい、ここが一番フックになる、ってフレーズが浮かんだ時に、そこに向けて「このフックがどうしたら活きるのか」をパズルみたいに組み立てていく作り方なので。

──最終的な作品やアウトプットの形は違えど、それぞれのクリエイティブに通ずる部分があるという発見は『日曜日のメゾンデ』ならではの面白さですね。この機会に、森下先生からmeiyoさんに聞いてみたいことなどはあったりされますか?

森下:私、meiyoさんの歌詞のワードセンスがすごく好きで。「どうやったらそのワードとワードが繋がるんだろう」って思うことがよくあるんです。ずっと好きで聴いてる「クエスチョン」という曲の〈パンはパンでもフライアウェイ(?)〉とか、今回の「なっていく。」の〈クルッと回ってワンツースリー〉っていう歌詞もすごくmeiyoさんっぽさを感じていて。語彙力がなくて上手く表現できないんですけど……言葉遊びっぽくも聴こえてとにかくいいなって。なので、どういう風にワードチョイスをしてるのか、耳心地のいいワードをどう組み合わせているのかをお聞きしたいです。

meiyo:「クエスチョン」だと、タイトル通りなぞなぞとか、子どもの頃にやった言葉遊び的なものを入れたいなと思って。「パンはパンでも食べられないパンってなんだ?」ってあるじゃないですか。その最後を「食べられないパンってなんだ?」ですらない、ゴチャゴチャハテナ的な感じを表現したくて。突拍子もない〈フライアウェイ〉って謎の言葉を入れた感じでしたね。その後に続く〈好きって10回言っても〉の歌詞も「ピザって10回言って」みたいな、そういう言葉遊びから連想して入れてます。

 今回の「なっていく。」の歌詞は、「クルッと回ってワンと鳴く」的な犬っぽい言葉から取ったんですけど。「いや、狼なのに犬じゃん」っていうズッコケから始まったら面白いかな、って(笑)。クルクル回ってふらふら、クラクラして結局どれが正しいんだっけ、みたいな。いろんなことがまだわからないけど、っていう友孝くんのニュアンスも表現できたらいいな、と思ってこの歌詞になりました。

森下:ありがとうございます! つみきさんに関しては、私も描きながら「狼より犬だな……」って思うことが時々あるので、一緒の感覚でちょっと嬉しかったです(笑)。おっしゃっていただいたように、友孝くんの感情を見つけていくっていうのがお話のテーマでもあるので、〈プリズム〉というワードが歌詞に入ってるのも素敵だなと思って。心が動いた時に景色がパチパチってなる感じとか、それが上手く表現されていて嬉しくなりました。

meiyo:いやあ、ありがたいです。〈プリズム〉は、たとえばつみきさんの一言が友孝くんの心にポンッと入ってきた時に、それがプリズムみたいに乱反射していろんな所に光が散らばっていく、ってイメージもありますね。そのどれもがどんな捉え方をしても正しいし、どれを選んでも正しいし、というか。そういう広がりみたいなものも意識しました。

森下:本当にすごい……。実は曲のデモを聴かせていただいたタイミングが、ちょうど誌面のカラー回だったんです。その時に、せっかくなら音楽っぽいカラーイラストを描こうと思って、プリズムもつけとこうって一緒に描かせてもらったんですよ。お話も、音楽にまつわるキャラクターのお話を描きたいですねと編集さんとも話して、一話作らせてもらったんです。だいぶ浮かれてましたね……(笑)。

meiyo:いえいえ。そのお話、僕もすごく嬉しいです(笑)。

森下:そのカラーイラストの中にスマホがあるんですけど、ディスプレイに少しだけ遊び心で要素を入れていて、本のアイコンや、meiyoさんのモチーフとしてメガネを描かせていただいたりしています。気づいた方がいたら嬉しいな、くらいの気持ちで…(笑)。

meiyo:そうなんですか! すごく嬉しいです、僕も追ってチェックしておきます (笑)。

(C)森下みゆ/小学館

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