【対談】田中ヤコブ(家主)× 漫画家 いがらしみきお:“自分のための創作”に宿る嘘のなさ 『ぼのぼの』の哲学と音楽の可能性

「自分にわからないことを、人にわかるような言葉で言いたい」(いがらし)

田中:いがらし先生の漫画からは「見えていないところを見たい」という衝動みたいなものを感じます。それは自分の中にもすごくある衝動なんです。この間、奈良の大仏を見に行ったんですが、私は大仏を前から見るよりも、後ろ側がどうなっているのか気になって見に行ったんです。そしたら大仏の後ろには衝立(ついたて)みたいなものがいっぱい刺さっていました。それを見たとき、すごく嬉しかったんですよ。

いがらし:嬉しい?

田中:はい、裏側はこうなってたんだって。

いがらし:中に入ってみようとは思わなかったんですか?

田中:その大仏は、中に入れなかったですね。でも入りたいとは思います。

いがらし:仙台には、仙台大観音というデカい観音像があるんですが、その中に入ったことがあります。中には階段があって、仏像というか観音様みたいなものがいっぱい飾ってありました。階段を登っているときは特に何も思わなかったんですが、観音様の目のところまで上がっていくと、仙台の街並みを見れるんです。それを見た瞬間は「はぁ!」と思ったんですけど、「なんか俗っぽいなぁ」と思って出てきました(笑)。

田中:ははは。

いがらし:でもそのとき、「この観音様が動いたらみんなびっくりするだろうな」と思って、『観音哀歌』という漫画を描きました。結局私は自分から出てきたものじゃないと描けないんですよ。それで言いますと、私は毎朝風呂に入るんですが、風呂場の窓を開けると庭に木があります。自分がいるところから庭の木までの間には、何もないというか“空間”しかないんですが、そうは思えないときがある。そこに何があるのかと考えたとき、時間があるんじゃないかと思った。だって不思議じゃないですか。たとえば、こうやってペットボトルのキャップをくるくる回して閉めますよね。そうすると、さっきキャップを持って回しているときの自分はどこへ行ってしまったのか。この不思議さっていうのは、みんなが死んでしまうっていうのと同じくらい不思議なんですよ。さっきいた自分が一体どこに行ったのか誰にもわからない。空間の中にさっきいた自分がいるような気がします。

田中:すごくわかります。

いがらし:未来はまだないものだし、過去がもうなくなっているというのは一体なぜなのか。量子論とか言うつもりじゃないんですけれど、一遍に収縮してしまうと言われてますよね。今だって、世界は我々には感じないくらいの速さであっという間に収縮して、この空間にあるのかもしれない。だから、何もない空間にも5秒前の自分がいたりする。最近は時間についてばかり考えています。

田中:自分もそういうことをすごく不思議に思っていました。

いがらし:誰か答えてくれないかなと思って科学や哲学に関する本を読んでみても、それに近いことを言ってくれている人はいるけれど、その人も根本的にはわかっていないんじゃないかと思っています。しかし不思議なことであるというのはわかるんです。だから最近は、「不思議なことである」とわかっていれば、それでいいんじゃないかとも思っています。

田中:それもわかります。答えがないことが答えみたいなことというんでしょうか。

いがらし:我々にはなかなかわからない、恐れ多いところがこの世界にはいっぱいあります。だから世の中を一言で表すなら、不思議だっていうのが結論ですね。

田中:いがらし先生の作品を通して、わからないことをわからないってちゃんと言ってくれるところに、ものすごく誠実さを感じます。それが、自分の共感するところでもありますね。

いがらし:自分にわからないことを、人にわかるような言葉で言いたいという気持ちはあるんです。だけど、相手のわからないことが自分にとってもわからないことであるという共通点がないと、本当の意味で繋がれないので難しいんですね。その難しいことを一遍に超えられるのが、音楽なのかもしれないと思います。匂いと同じように「ん?」って振り向かせられるものが、やっぱり音楽の力なのではないかと。

田中:僕は基本的に嘘を書かないで、自分が見て思ったことを思ったまま書くようにしています。「他人がこう言うからこう思う」じゃなくて、「自分がこう思うからこう!」っていうことを書く。そういうことだって思っていますね。

いがらし:自分しかいない。「本当はこの世の中に、自分しかいないんだ」って思ったときがあります。そう考えると、出てくる表現であれ、悪口であれ、自分の中から出てくるものは本当のことじゃないかと思う。だから自分のために書く、自分のために作る。そうじゃないと、なんか嘘くさいですよね。人のために作る人に、「なぜ人のために作るの?」って聞きたくなるときがあります。「人のために作るって偉いじゃないですか」って答えるかもしれませんが、人のために作るってのが本当に偉いかなという疑問もあります。私は自分のために作るほうが誠実だなと思います。人のために作るというのは、誰かに褒められたいと思っている意識があるかもしれない。

「無意味さを愛せるかどうか。そこに先生が持っている人類愛を感じる」(田中)

田中:あざとさみたいなものがどうしてもありますよね。僕は、いがらし先生の『人は死ぬのを知りながら』という作品がすごく好きなんですがーー。

いがらし:あぁ、あれは仙台で『ココア共和国』という詩の雑誌を出している方に頼まれて描いたものです。まず死について考えて、その詩に合わせて絵を描きました。

田中:詩が先にあったんですね。

いがらし:死というのはどうしても動かしがたいものですよね。人間はみんな死ぬことをわかっているくせに、いつも忘れたふりして生きている。忘れたふりしてディズニーランドへ行ったり、酔っ払って叫んだり、その辺に倒れてゲロを吐いたりする。そういうのを見ていると、本当はみんな死ぬということが頭から離れないんじゃないかと思ったんです。

 私は小学校の頃、死に取り憑かれた時期があります。「自分が死ぬ」ということを思い返して、寝ているときに心臓が止まるんじゃないかと怖かった。そして心臓に手を当てて、祈りながら寝ました(笑)。でも寝てしまうと、祈っていないから死んでしまう気がして、そこから死が身近になりました。そのあとに祖母が死んだんです。当時は自宅で介護をして、自宅で葬式をやるパターンでしたから、死というものを最初から最後まで見ていました。そういうのが子供心に強く印象に残ったんでしょうね。田中さんは、死に取り憑かれたみたいなことはないですか?

田中:僕は、小学生のときに母親が亡くなりました。その経験からか、人がいつか死ぬということを、常に意識して生きてしまっています。友達と楽しく遊んでいるときも、「でもいつか死ぬんだよな」みたいなことを常に考えていて。きっとこの感覚は、誰しもが持っているものではないと思っていたんですけど、いがらし先生の作品を読んで、きっと先生も同じようなことを考えているのかなと思いました。

いがらし:死ぬということは不思議じゃないですか。全然違うステージにバーンと入っちゃう。それは生まれるということも同じですね。何も知らないのに、いきなり「君はこの世界で生きていくんだよ」って言われるわけですから。それで、この世界って一体何だろうと考えながら、ああいうものを描いている。それに田中さんが反応してくれたということは、私と同じことを考えていると思う。

田中:嬉しいです。自分の曲の話で恐縮ですが、「パジェロミニに乗って」という曲の歌詞で、〈割れることを知りながら/ガラスでお茶を飲んでる〉という歌詞を書きました。ここで、人は死ぬのを知りながら生きているということと近い感性を出せた気がしているんですよね。壊れることを知っているのに、人はなぜわざわざガラスでお茶を飲むというリスクのあることをするのかという。

いがらし:この曲はすごく気に入りました。

パジェロ(ミニ)に乗って / 田中ヤコブ

田中:ありがとうございます。『ぼのぼの』で「俺たちはもそもそ飯を食うしかない」と言うシーンがあって、本当にもそもそ飯を食っているんですよね。自分はそのシーンがすごく好きです。自分もライブが終わって家に帰ると、もそもそ飯を食って寝るみたいな生活をしていますし。

いがらし:祭りが終わったあとみたいなものですよね。スコーンと抜けているというか、バカバカしいぐらいの虚無感がある。

田中:そういった無意味さみたいなものを愛せるかどうか。そこに、先生が持っている人類愛みたいなものを、どうしても感じてしまうんです。

いがらし:死ぬのをわかっているくせに、今はゲラゲラ笑ったり、どこかへ行ったりする。人間の偉いところはそこですよね。だって、自分が死ぬってわかっているのは、生き物の中でおそらく人間だけじゃないですか。物語の中で生きているのに、物語なんかどうでもいいやと思っているところがある。死なんてどうでもいいから、今はゲラゲラ笑うんですよね。そこが人間の面白いところです。

田中:自分はゲラゲラ笑っているときに、急に死のことを考えることがあります。でもそれは全然ネガティブなことだとは思っていなくて、なんか面白いんですよね。「なんで今こんなことを考えているんだろう?」みたいな。

いがらし:そんなことを考えてしまう自分が面白いですよね。自分が死ぬとわかっているのに、わざわざ考えて怖くなってしまう。でも、そのうち結局また忘れちゃう。死というものの捉え方がわからないから、みんな黙っているし、語らないようにしている。私も「死はこういうものです」とか言おうと思ったけど、そんなことは言えないから、それに近いことを漫画として描いているのだと思います。

田中:僕が漫画を通じてそういう表現を見たのは、いがらし先生だけだったなと思うんです。

いがらし:ありがとうございます。今日お話ししてみて、田中さんは、ぼのぼのみたいに誠実な人だなってとても思いましたよ。今度ライブも観に行かせてください。

田中:それは光栄です……。1つお願いなんですけど、ギターにサインしていただいてもいいでしょうか。

いがらし:本当にこのギターにサインしていいんですか(笑)。

◾️ツアー情報
『YANUSHI LIVE TOUR 2026』
-広島公演-
会場:HIROSHIMA CLUB QUATTRO
日時:2026年7月20日(月祝)
15:15 OPEN / 16:00 START

-東京公演-
会場:SHIBUYA CLUB QUATTRO
日時:2026年8月9日(日)
17:00 OPEN / 18:00 START

-宮城公演-
会場:SENDAI MACANA
日時:2026年8月15日(土)
17:15 OPEN / 18:00 START

-大阪公演-
会場:UMEDA CLUB QUATTRO
日時:2026年8月30日(日)
16:30 OPEN / 17:30 START

-愛知公演-
会場:NAGOYA CLUB QUATTRO
日時:2026年9月5日(土)
17:00 OPEN / 18:00 START

<チケット情報>
一般 ¥4,500 / 学生 ¥3,500(共にドリンク代別)
※オフィシャル先行(抽選):2026年4月3日(金)19:00〜4月13日(月)23:59
※一般発売(先着):2026年5月30日(土)10:00〜開始
チケット詳細:https://eplus.jp/yanushi/

◾️新曲情報
家主「らせんだよ、人生は」
FM802『SATURDAY AMUSIC ISLAND MORNING EDITION ~ソフト99 CAR LIFE WITH YOU~』4月11日より隔週土曜日午前11:00~11:20 番組内にてオンエア
番組サイト:https://funky802.com/saiam/

◾️作品情報
・田中ヤコブ 5th Album『にほひがそこに』
Download/Streaming:https://linkco.re/FbmP9SCm
CD購入:https://newfolkjp.stores.jp/items/68f6cce7dfdb475c3199c1e9

・家主 EP『NORM』
Download/Streaming:https://orcd.co/norm
CD購入(初回限定盤):https://newfolkjp.stores.jp/items/689c720f916d26d930150f69
CD購入(通常盤):https://newfolkjp.stores.jp/items/689c72f2a932bf691ff99a66

◾️関連リンク
家主 公式X:https://x.com/YANUSHI_BAND
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