千葉"naotyu-"直樹、作家と経営者の独自メソッド 双葉湊音プロジェクトと劇伴制作で貫く“面白さ”の探究

『プリズム輪舞曲』劇伴:全20話フィルムスコアリングの極致 

――自分がリサーチした限り、千葉さんが劇伴の仕事を始めたのは、2012年のOVA『アラタなるセカイ』からだと思うのですが……。

千葉:そうですね。ゲームを含めると、それ以前にもゲームのBGMとかは多分やっていたと思うのですが、アニメの劇伴を一作品すべて任せてもらったのは『アラタなるセカイ』が最初の作品です。

――その頃はまだ手探りの部分もあったと思いますが、当時と比べて、劇伴作家として身に付いたものはありますか?

千葉:それこそ『アラタなるセカイ』はSMPに所属して間もないタイミングで……アニメに音を付ける経験がなくて右も左もわからないなかで、今もお世話になっているディレクターさんに、劇伴についての手ほどきをしていただきながら制作したんですよね。『アラタなるセカイ』もメインとなるピアノのテーマのメロディをひとつ作って、それを30分のアニメの中に散りばめる手法を取ったのですが、その時の記憶と経験が自分の中に強く残っています。もしかしたら、それが巡り巡って今も続いているような気がしますね。これは今、『アラタなるセカイ』の名前を出していただいて感じたことですけど。

――その劇伴制作の原体験が、今回の制作にも息づいていると。

千葉:それこそ『アラタなるセカイ』以降も、アニメの劇伴のお仕事をいろいろやらせていただきましたが、複数人で担当することが多くて、ひとりでアニメ一本の劇伴をすべて制作するという意味では、この『DARK MOON』と『プリズム輪舞曲』がほぼ『アラタなるセカイ』ぶりだったんですよね。なので『アラタなるセカイ』で経験したこと、その後の十数年のアニメやゲームで得た経験値を還元できたのが今回の2作品だと思いますし、自分のキャリアにとっても大きな意味のある仕事になりました。

――では、もう一方の『プリズム輪舞曲』についても詳しくお伺いします。本作はNetflixオリジナル作品ですが、こちらはどのような経緯で?

千葉:2022年の末ごろにお話をいただきました。当時、劇伴作家がまだ決まっていない状況で、事務所から少人数でのコンペに誘われたんです。自分のこれまでのアニメ劇伴の実績で言えば、Netflixのオリジナル作品をひとりで任せてもらえるような身ではないのですが、ディレクターさんから「ぜひ挑戦してほしい」とお話をいただきまして。で、その時点で第1話の冒頭10分くらいのラフ映像が出来上がっていたんです。

「プリズム輪舞曲」予告編 - Netflix

――そんなに早い段階から映像があったんですね。

千葉:そうなんです。「この映像を観たうえでイメージして曲を作ってください」と。これなら、自分が劇伴をやる中でいつかやってみたかった“フィルムスコアリング(映像に合わせて音を当てていく手法)”ができるんじゃないかと思ったんですよね。それで、デモを数曲作るというよりは、その十数分の映像に対して、自分なりに音を当てて「こういう世界観はどうですか」と提示したんです。結果的にその後「決まったよ」と連絡をいただいて、正直「マジっすか!?」ってなりました(笑)。精一杯作ったものが認めてもらえたのは本当に嬉しかったですね。

――そのコンペ用のデモはどんなイメージで制作したのですか?

千葉:結果的には、実際に第1話で使われているものからほとんど変えていません。もちろん楽器は録り直しましたが、大枠の曲やテーマメロディはその時点ですでに入れていたものそのままです。

――『プリズム輪舞曲』の舞台は1900年頃のロンドン、主人公は画家を目指して留学してきた日本人の女の子ですが、そういった作品の設定や大枠を踏まえて意識したことはありますか?

千葉:その時点では監督と詳しくお話ししていたわけではないので、限られた資料の中で自分なりに作品のイメージと合うものを提示したのですが、それにプラスして自分がやってみたかったのは、「ピアノをしっかり使う」ということでした。劇伴と言うと、ストリングスがメインでピアノはあまり入っていないことが多いのですが、自分はどちらかというと鍵盤で音楽を作る人間で、なおかつピアノの入っている劇伴が好きなので、そういう楽曲を最初のデモの時点で提示していました。その後、監督や音響監督さんたちとお話しした際に、リファレンスで挙げていただいたイギリスのドラマの劇伴が、ピアノとストリングスで構成されたウェットな質感のもので、テーマメロディがしっかりあったんです。それも含めて自分のやりたかった方向性と近かったので、「ああ間違ってなかったんだ」と思いました。

――監督からは他にリクエストはありましたか?

千葉:監督は「リテイクを出すつもりはありません」とおっしゃっていて、実際作り始めてから一回もリテイクがなかったんです。ただ、決まってから実際に作り始めるまで、結局1年半くらい空いたんですよ。「本当に自分で決まったのかな?」と不安になる瞬間もありつつ(笑)、いざ始まると、全20話分の映像がラフ段階とはいえ出来上がっていたので、全編フィルムスコアリングでいくことにしました。メニュー表に対して1曲ずつ制作するのではなく、アニメの映像に音を当ててお返しする。なので、自分が音楽を制作する際に使っているDAWソフト・Logicにアニメのラフの映像を貼り付けて、それに合わせて音を付ける作業を全話分やりました。本当に丁寧に作ることができましたし、素晴らしい経験でした。

――フィルムスコアリングをやってみて、発見はありましたか?

千葉:映像に合わせてやるのはとにかく楽しかったですね。ただ物理的な量が多くて、単純にメニュー数で言うと100曲近く作っていて、それを全20話に当てていくのは大変でした。あと、これは作業しながら感じたことですが、以前、スマホゲームの『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』で、キャラクターの変身シーンのジングルの音当てを何年もほぼ一人でやっていた時期があって、毎回シャフトさんが制作したラフ映像に合わせて15秒とか30秒、長いものだと1分くらいの楽曲を制作していたんです。それが結果的にフィルムスコアリングと同じような作業だったので、その経験を今回の制作に活かすことができました。

『プリズム輪舞曲』世界独占配信中 - Netflix Japan

――面白いですね。サウンドとしては生楽器主体のクラシック路線ですが、その辺りの方向性については?

千葉:『DARK MOON』は打ち込みを多用しましたが、『プリズム輪舞曲』に関してはデジタルな音はほぼ一切使わず、生楽器でひたすら丁寧に作っていきました。ストリングスに加えてフルートやクラリネットといった木管楽器、ハープも生で録らせていただきました。ストリングスもしっかり考えて作ることができたので、しっかりといいものが作れたと思います。それこそ『アラタなるセカイ』の時からお世話になっているディレクターさんからも「千葉くんの代表作になるいいものが作れたね」と言っていただけました。

――海外からの反響も大きいそうですね。

千葉:Netflixの作品なので、あらゆる言語に翻訳されて世界中で配信されているのですが、SNSで海外の方からたくさんリプライをいただくんですよね。「テーマメロディを散りばめる作風がとても良かった」とか、「サントラに入っていない19話のあの曲が聴きたい」とか(笑)。100曲近く作ったので、どうしてもサントラに収録しきれない楽曲がたくさんあったんですよね。でも、それくらい熱心に世界中の方が作品を観て、音楽もいいと言ってくれるのは、丁寧に作ってきて本当に良かったなと思います。自分でも、もったいなくて一気には観られなかったんですけど、今日はインタビューを受けるということで、ここに来る前にようやく最終回を観終えたんですよ。本当に幸せな作品に携われたな、と改めて感じました。

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