千葉"naotyu-"直樹、作家と経営者の独自メソッド 双葉湊音プロジェクトと劇伴制作で貫く“面白さ”の探究

 20数年に及ぶキャリアの中で、常に「面白いこと」を追求し続けてきたクリエイター・千葉"naotyu-"直樹。オリジナルアニメ『プリズム輪舞曲』(Netflix)で挑んだ全編フィルムスコアリングの緻密な制作と、自身のルーツであるクラブミュージックを劇伴に落とし込んだ『DARK MOON -黒の月:月の祭壇-』(TOKYO MXほか/以下、『DARK MOON』)。そして今、彼が情熱を注いでいるのが、音声合成ソフト「双葉湊音」のプロジェクトだ。「わざとピッチを外して歌う」という驚きの新機能まで搭載したソフトの開発背景には、作家と経営者の双方の視点を持つ千葉ならではのシナジーがあった。音楽の伝統とテクノロジーの遊び心をクロスオーバーさせる、千葉流のクリエイティビティを紐解く。(編集部)

作家と経営者の二枚看板ーー同人音楽の原点、DTM黎明期から続く探究心

――千葉さんは現在、作曲家と会社の経営者という二枚看板で活動されていますが、ご自身の肩書きについて、どのように自認しているのでしょうか。

千葉"naotyu-"直樹(以下、千葉):もちろん、メインは間違いなく音楽作家です。ただ、仕事量の割合で言うと、タイミングにはよりますが、2026年に入ってからは、業務の6~7割が会社の事務作業ですね(笑)。3月末に次の新しい音声合成ソフトを発売する予定がある関係で、その準備にかなりの労力を割いています。ただ、今放送しているアニメの劇伴制作をやっていたちょうど1年前ぐらいの時期は、反対に音楽制作が7~8割を占めていて、残りの時間で事務作業をひたすらバーってやる、みたいな感じでした。その時々ではあるんですけど。

――音楽作家として、千葉さんご自身はどんな強みがある作家だと思ってますか?

千葉:もともとアニメ・ゲーム関係の音楽が中心で、特にアニソンの作編曲を多くさせていただいていましたし、その一方で劇伴やBGMのお仕事も並行してやってきたなかで、ジャンルもいわゆるアニソンから『バンドやろうぜ!』(バンドを題材にしたリズムゲーム)のようなバンドサウンド系、あとはアンティック-珈琲店-さんや分島花音さんのようなアーティストのアレンジ仕事まで、とにかく色んなことをやらせてもらえているのが、自分の特徴であり強みだと感じています。

――それは、お仕事をしていくうちに幅が広がっていったのか、あるいはそもそもいろんな音楽を作りたい気持ちがあったのでしょうか。

千葉:遡ると、僕は音楽を仕事にする前、いわゆる同人音楽の活動を行っていたんです。その当時、自分で好きな音楽を作っている頃から、好きなジャンルはありつつも、ただそれだけをひたすら追求するよりは「いろんなものを作りたい」という志向が強かった記憶があります。それこそ僕がDTMを始めた二十数年前は、まだVOCALOIDすら生まれる前で、MIDIの打ち込みの時代でした。その頃から「ちょっと歌ものを作ってみたいな」と思って、ネット黎明期に歌ってくれるボーカリストを探して作ってみたりとかしていて。探究心というか「何か面白いことをしてみたい」という気持ちはずっとあったので、いろいろやってみたいという思いがあった結果、今に至っているんだと思います。

――その意味では、いろんなタイプの音楽制作に携われる音楽作家は、千葉さんにとって天職なのかもしれませんね。

千葉:そうですね。音楽が好きで、仕事にするかどうかも考えずに始めたのですが、ある時に「あなたはアーティストになりたいのか、作家なりたいのか」と聞かれたことがあったんです。でもその時は正直、自分でもわからなくて、「ただ好きで作っているだけだし」という感じだったんですよね。その後、結果的に作家という活動に落ち着いたのは、今思えばやっぱりそちらが向いていたんだろうなと感じています。

――もしアーティストの道を選んでいたら、今どうなっていたと思いますか?

千葉:とはいえ自分は口下手で、表に出るのは苦手ですからね(笑)。今はネットも含めて顔を出さない活動の形もあるとは思いますけど、やっぱり「この人すごいな」と思うアーティストの方たちを見ると、自分が同じ土俵に立つのは厳しかっただろうなと思ったりはします。ただ、その代わりではないですけど、作家活動とは別に趣味で音楽を作ることは今も続けていて。そちらは良い意味で何にも縛られないというか、リラックスして作れる場所なので、自分の中で良いバランスで落ち着いているのかなと思います。こんな話をすると、事務所からは「仕事しろよ」「コンペの曲も作りなさい」って言われると思うんですけど(笑)。

――アハハ。ちなみに自分で好きで作る音楽というのは、どんなジャンルなんですか?

千葉:どちらかというとハウスミュージック、クラブ寄りの音楽ですね。今も趣味程度で稀にDJをすることもあります。ハウスが好きで、そういう活動をしていた時期もありますし、あとは歌ものも好きでたまに作ったりしています。好き勝手にいろいろと寄り道しながらやってきました。

ENHYPENをモチーフとした『DARK MOON』劇伴:耳に残るメロディへのこだわり

――そういった幅広い音楽性を活かせるのが劇伴のお仕事ですよね。千葉さんは今年1月より放送・配信されているアニメ『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』と『プリズム輪舞曲』の劇伴を担当していますが、この2作品はまったくテイストが違いますよね。

千葉:そうなんです。作品の内容も作っている音楽の方向性も全然違っていますね。ストリングスが入っていて上品な雰囲気という点は若干似ているかもしれないですが、世界観がまったく違うので、使っている脳みそも全然違う2作品でした。

――まずは『DARK MOON』に参加することになった経緯を教えてください。

千葉:僕が所属しているSMP(ソニー・ミュージックパブリッシング)のディレクターさんから「こういう企画があるんだけど、劇伴をやってみないか」とお話をいただいたのがきっかけでした。面白かったのは、この作品がENHYPENというK-POPグループをモチーフにした漫画が原作ということで、当初、SMP側には「普通の劇伴よりはポップスのテイストを入れて欲しい」というお話があったみたいなんです。それで、劇伴から歌ものまでやっている幅広くやっている僕にお話をいただけたのかなと。なのでスタンダードな劇伴というよりは、ポップスや打ち込みのテイストも含めて、という形でのご依頼でした。

――作品の印象を踏まえてどんな音楽にしようと思いましたか?

千葉:原作のLINEマンガを読みながら、どういう音楽を付けようか考えていたんですけど、登場する7人の男の子たちがヴァンパイアという設定なので、ちょっとゴシック感のある感じや、ダークファンタジー的な世界観を交えようと思いました。ただ、モチーフがK-POPアーティストなので、やっぱりそういうリズムや打ち込みのテイストを入れたら面白いだろうなと。

 実際にBGMを40~50曲作る中で、かなりの曲数を打ち込み寄りの音楽としてこちらから提案させてもらいました。メニューリストに細かい楽器指定はなかったので、4つ打ちや2ステップのような曲を作って提出したら、そのまま採用になった曲も結構ありましたし、オーソドックスな劇伴制作だとなかなか許してもらえないような楽曲も使っていただけていて。特に後半のバトルシーンではもっとデジタルな音も増えていくので、面白い作品になったなと思っています。

「DARK MOON -黒の月: 月の祭壇- Original By DARK MOON : THE BLOOD ALTAR WITH ENHYPEN」本PV

――ご自身の趣味であるクラブミュージック的な要素を、上手く劇伴に落とし込めたわけですね。資料で聴かせていただいた曲のうち、日常シーン向けの楽曲に2ステップの要素が入っていて新鮮でした。

千葉:ありがとうございます。とはいえあまり本格的に作り込みすぎると浮いてしまうので、ドラムを重たくしすぎないようになどの微調整はしました。ゲームのBGMの場合は、基本ループになるのでクラブテイストな曲も合うのですが、アニメの劇伴ではなかなかない機会だったので、作っていて楽しかったですね。今は2ステップのリバイバルというか、K-POPでもここ数年、2ステップやハウスの曲がすごく多いですしね。

――個人的には、2000年前後のUKガラージ/2ステップが流行った頃のテイスト、特に2ステップの代表格だったMJ Coleを思い出しました。

千葉:自分も当時から聴いていました! もともと『beatmania』というゲームが好きで音楽を作り始めたんですけど、当時『beatmania IIDX』にハウスや2ステップといったジャンルの曲が入っていたんですよね。それが好きで打ち込みを始めた人間なので、ある種のルーツが出たというか。まさか2025年になってまた2ステップを作ることになるとは思わなかったですけどね(笑)。

――テーマ曲は、先ほどお話ししていたダークファンタジー感もありつつ、優雅さを感じました。

千葉:ストリングスはしっかり生で録らせていただきました。打ち込みではありますが、パイプオルガンもガツンと使っていますね。今回、『DARK MOON』も『プリズム輪舞曲』も、テーマのメロディをしっかり作ることができたと感じていて。テーマのメロディを他の曲にも散りばめることはかなり意識したので、納得のいく、自信を持って作れた劇伴になりました。

――テーマ曲のメロディ作りで意識したことはありますか? たとえば『DARK MOON』の作品世界からインスパイアを受けたことがあれば聞いてみたいです。

千葉:そこまで具体的に『DARK MOON』のどの部分を意識した、ということはないのですが、テーマメロディに関しては、ちょっと“ずる賢い”というか……タブーかもしれないのですが、若干くどめにメロディを作らせてもらっています。本来、劇伴はもっと耳馴染みよく作るものかもしれませんが、自分は歌ものやポップスの仕事をしていたこともありますし、何よりメロディがしっかりあるBGMが好きになることが多いので。可能であればそういう方向で作らせてもらうことが多くて。そういった意味では『DARK MOON』も『プリズム輪舞曲』もテーマメロディがしっかりあるので、そこは意図的に意識しました。

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