パク・ジュニョン「文化交流の架け橋になりたい」 大ヒット曲のカバーで目指す“日本と韓国を繋ぐ”という夢
2012年に日本デビューして以来、新曲リリースのたびに演歌/歌謡曲チャートの上位にランクイン。揺るぎない人気を確立しながら着々と活躍の場を広げているパク・ジュニョン。最新シングルのタイトル曲「チャオガ~愛しい人よ~」は、韓国を代表するトロット歌手 パク・サンチョルが2001年にリリースして大ヒットした曲を日本語でカバーしている。訳詩を手掛けたのは、ジュニョン自身。韓国で幅広い世代から愛されているジャンルのひとつ“トロット”と日本のポップスの相通ずるものを味わえる点にも、ぜひ注目していただきたい。豊かな物語性と美しいメロディを堪能できるカップリング曲も収録された今作について、本人に語ってもらった。(田中大)
大ヒット曲をカバーするにあたっての工夫
――パク・サンチョルさんの大ヒット曲を日本語で歌うことになった経緯からお聞かせください。
パク・ジュニョン(以下、ジュニョン):僕のふるさとは韓国で、第2のふるさとである日本で歌手デビューしたので、日本と韓国を結ぶ文化交流の架け橋になりたいという気持ちがずっとあったんです。そして、“演歌/歌謡曲”というジャンルのなかで日本の昔からの名曲をたくさん歌わせていただきながら、「いつか韓国の歌も日本のみなさんに紹介できたらいいなあ」と思って。一昨年に日本の演歌を韓国のテレビ番組で歌う機会がありまして、五木ひろしさんの「夜明けのブルース」を歌ったんです。すると「すごくよかったです。ほかの演歌も紹介してください」という声を韓国のみなさんからたくさんいただいて、とても嬉しくて。
――歌手活動の励みになる反応ですね。
ジュニョン:自分の夢に少し近づいた気がしました。そのときに番組の出演者の方々と仲よくなって、「いつか日本のみなさんにトロットを紹介したい」というお話をして、それが形になったのが今回の曲です。「チャオガ」は韓国で大ヒットした曲で、「カバーさせてください」とお願いして実現しました。日本の演歌と同じようなジャンルであるトロットをこういう形でみなさんに紹介できるのが、とても嬉しいです。リズミカルで、同じメロディが繰り返されて、すごく印象に残る曲がトロットには多いんです。この曲も1回聴いたらみなさんの記憶に残るんじゃないかなと思います。
――トロットを知っている日本人は、結構いると思います。90年代に李博士さんのポンチャックテクノを電気グルーヴというテクノユニットが紹介して、リミックスアルバムもリリースされたんですよ。
ジュニョン:李博士さんが日本でも頑張っているのが、当時の韓国でも話題になっていました。トロットに興味を持ってくださっているみなさんに、僕の曲もぜひ聴いていただきたいです。
――「チャオガ~愛しい人よ~」は、コンサートで歌ったことがあるんですよね?
ジュニョン:何回か歌ったことがあります。同じくパク・サンチョルさんの「無条件」も、デビューして以来、ずっと歌っています。
――ジュニョンさんは、「チャオガ~愛しい人よ~」を手掛けたパク・ヒョンジンさんと親交があるとお聞きしています。
ジュニョン:韓国でトロットの大ヒット曲をたくさん手掛けてきた先生なんです。僕が韓国のテレビ番組に出演したとき、その先生の息子さんも出演していたので、お父様にお願いをしていただくようにお伝えしました(笑)。今回のレコーディングのとき、パク・ヒョンジンさんが日本に来てくださったので、いろいろレクチャーをいただきました。「自分の個性を乗せて歌いなさい」という言葉が印象に残っています。韓国と日本のレコーディングの違いを知って、先生も「勉強になった」とおっしゃっていましたね。楽器の編成を決めたり、キャスティングをしたりとか、日本ではディレクターがやることを、韓国では作曲家がほとんどやるんです。「分業で進める日本のシステムはいいなあ」とおっしゃっていました。
――パク・サンチョルさんにも聴いていただきたいですね。
ジュニョン:はい。パク・サンチョルさんとは、過去にご縁がありました。パク・サンチョルさんが「チャオガ」のエレクトロニカルなダンスバージョンを作ったとき、僕がガイドボーカルをさせていただいたんです。「チャオガ」は、僕が韓国のカラオケ大会で歌った曲でもあるんですよね。そのとき、2位になった思い出があります。
――パク・サンチョルさんの「チャオガ」と比べると、ジュニョンさんの「チャオガ~愛しい人よ~」は爽やかな印象がしました。
ジュニョン:トロットの濃い歌い方をするよりは、マイルドに歌った方が日本のみなさんに伝わりやすいだろうなと思ったんです。サウンドに関しては、ディレクターと作曲家の先生が「できるだけ原曲の感じを残しつつ、現代のサウンドを取り入れたい」とおっしゃっていました。それがそのような印象に繋がったんだと思います。
――コンサートで聴いたお客さんは、どのような反応をしていらっしゃいますか?
ジュニョン:とてもノってくださいます。席から立ち上がって踊ってくださったりするので、とても盛り上がりますね。
「若いみなさんに向けて届けていくことも頑張りたい」
――訳詞を手掛けたのはジュニョンさんですが、日本語に翻訳するなかで、どのようなことを大切にしましたか?
ジュニョン:「チャオガ」というタイトルの意味がわからない方がたくさんいらっしゃると感じたので、歌詞のなかにすごくわかりやすく入れるようにしました。“韓国の女性の名前”ということが伝わるように、〈チャオク チャオク 君の名前〉というフレーズにしたんです。
――チャオクという韓国の女性の名前の愛称が、チャオガですよね?
ジュニョン:そうなんです。ファンのみなさんには、「〈チャオク〉を日本の名前に変えて聴いてください」というお話もしています。
――サチコとか?
ジュニョン:そうです(笑)。
――(笑)。〈モルリ モルリ 飛んで行ったよ〉〈カンパッ カンパッ 思い出すよ〉という部分は、韓国語も少し残していますね。
ジュニョン:韓国語の方が「どういう意味なんだろう?」というインパクトを生む効果もあるのかなと思ったんです。
――〈モルリ モルリ〉は「遠く 遠く」、〈カンパッ カンパッ〉は「チカチカ」という意味ですね。「目がカンパッ カンパッする」という使い方は合っていますか?
ジュニョン:合っています!
――日本語と韓国語の音の響きは異なる雰囲気があって、韓国語にはあっても日本語にはない音もいろいろありますから、それも訳詞をする際の難しさだったのでは?
ジュニョン:おっしゃる通りです。韓国語には“パッチム”というのがありまして、1文字に発音が何個か入ることがあるんです。それを日本語にすると“パッチム”がなくなるので、字余りにならないように気をつけました。特に2番は原曲の韓国語から置き換えられる日本語がなかなか見つからなくて難しかったので、自分の解釈も入れながら訳詞をしています。たとえば〈遠く 瞬く 星に重ね〉は、その後の韓国語の〈カンパッ カンパッ 思い出すよ〉に合わせて出てきた言葉です。記憶がチカチカと瞬くように思い出される感じになっています。
――当てはまる表現が必ずしもあるとは限らないのが難しさですよね。
ジュニョン:本当にその通りです。直訳はできても、それをちゃんと翻訳するのは難しいんですよね。韓国語にはあっても、日本語にはないような表現もありますので。僕、韓国ドラマを、いつも字幕をつけて観ているんですよ。「どういう解釈で日本語に翻訳されているんだろう?」と興味があるので。韓国語と日本語の両方をわかって観ているので、「こういう風に翻訳するんだ」というのは勉強になります。
――言葉の意味だけでなく、文化的な背景もわかっていないと難しいのが翻訳です。
ジュニョン:そうですね。まだまだわからないことがいっぱいあるので、もっと勉強したいです。あと、歌い方に関しても、韓国語で歌うのと日本語で歌うのとでは違いがあるようにも感じます。たとえば韓国語でバラードを歌うときは出だしからブレスを使うことが多いんですけど、日本ではもっとはっきりと声を前に出す感じなんです。それは言葉の違いによる部分も大きいのかもしれないです。日本語は韓国語と較べると母音が強いですから、母音を前に出して発声するのが大事だと思います。
――言葉の響きは異なりますが、メロディの切ない響き、抒情性に関しては、韓国のトロットと日本の演歌や歌謡曲は似ているように思います。
ジュニョン:そう思います。僕はもともと韓国でK-POPグループをやっていて、その後に演歌/歌謡曲を歌うことになって、たくさん聴かせていただいたんですけど、「韓国の音楽と似ているなあ」と感じました。日本で活動された時期があるチョー・ヨンピルさんは、父が大ファンで、僕も子どもの頃から聴いていたんです。日本で演歌/歌謡曲を歌うことになったときに自然に歌うことができたのも、どこか繋がるものがあるからなんだと思います。
――演歌には“こぶし”というビブラートの一種がありますが、トロットにもそういう感じのものはあるんですか?
ジュニョン:あります。そういうところも似ているんですよね。共通点がいろいろあるので、韓国にも日本の演歌が好きな方がたくさんいるんです。
――トロットは、韓国の若者も聴くんですか?
ジュニョン:トロットが好きな若者もいます。5、6年前からすごくトロットブームで、国民的なジャンルになっています。どの音楽番組にも出られるジャンルとして人気になっているんです。
――今、R&Bやヒップホップのサウンドの曲を歌うK-POPのアーティストが世界中で聴かれるようになっていますが、トロットも韓国のみなさんにとても愛されているんですね。
ジュニョン:そうなんです。韓国のトロットのように日本でもまた演歌/歌謡曲のブームがきて、新人のみなさんもたくさんデビューして、盛り上がっていくようになったらいいなと思っています。韓国では若い人もトロットを聴きますし、普通にいろんなところで流れるんです。演歌は日本のソウルミュージックなので、これからもずっと残っていくはずですし、もっともっとたくさんのみなさんに楽しんでいただけると思います。聴く機会がなくてよさを知らないというのもある気がするので、聴いていただける機会があれば、よさが伝わっていくんじゃないかなと。僕は演歌/歌謡曲の世界では少し若いほうなので(笑)。微力ながら、若いみなさんに向けて届けていくことも頑張りたいです。