ミッツ・マングローブが語る、岩崎宏美の“世代を問わない魅力” 名曲を歌い継ぐ意義、本人との交流エピソードも
音楽番組ごとに異なる歌唱の見どころ
――他に思い入れの深い岩崎さんの作品はありますか?
ミッツ:「聖母たちのララバイ」は一時期、同期のドラァグクイーンのショーで使うために、ありとあらゆる映像や音源を集めていたこともあって、思い入れは強い曲です。リアルタイムで観ていた音楽番組、1990年代に入ってからの“懐かしの名曲スペシャル”的な番組、様々なコンサート音源、伝説のエジプト公演での歌唱など、いろいろある中で、2000年代だと思うのですが、交響楽団を従えて歌ったテレビでの音源が素晴らしかった。1990年代に宏美さんが直面していた困難からパコーンと解き放たれた、そんな印象を受けて、今でもあれは名パフォーマンスだったと思います。歌というのは、精神状態や生理がもろに出るものゆえ、常に“生物”で、大ヒット曲になればなるほど同じ歌唱なんてひとつもないわけですよ。観るたびに違う聴こえ方をするのが、テレビの歌番組の醍醐味であって、それがすべて順番通りにコンパイルされているDVD BOXなんていうのは、非常に嬉しい反面、次々と移り変わっていく歌手の歌唱や表情を前に、観る方もかなり体力がいるものだったりもします。
――そんな今回のDVD BOXでは『8時だョ!全員集合』や『日本有線大賞』『ザ・ベストテン』での1982年当時の「聖母たちのララバイ」の歌唱を聴けますが、1994年、2010年、2017年、2022年に歌った映像もあるので、そういった楽しみ方はありですね。6枚のDISC別だとどれが最も気になりますか?
ミッツ:番組別だとDISC2の『ザ・ベストテン』をまずチェックしたいですね。『ザ・ベストテン』のシリーズは、どの歌手の方のものも一通り購入しているくらい好きなので。
――『ザ・ベストテン』の魅力についてはどう感じていらっしゃいますか?
ミッツ:歌のセット、衣装、そして時折実現する中継先からの歌唱。あのアナログな時代に、どうやってオケを鳴らして、その場で歌って、映像と音楽がズレずにお茶の間に届いていたのか、いまだに不思議ですからね。それから『ザ・ベストテン』は基本、歌唱するのは1ハーフといって短いテレビサイズ尺なんですね。子供の頃はテレビサイズで覚えた曲をいざレコードで聴くと、全く知らない2番が出てくるのが面白かった。一方で『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)はフルサイズで歌える数少ない番組でした。あと、これは個人の好みですが、私は『夜ヒット』よりも『ザ・ベストテン』のバンドの方が好きでした。
――確かに『ザ・ベストテン』『夜ヒット』、それぞれの楽しみ方がありますよね。
ミッツ:本音を言えばレコード通りの音で聴きたいので、カラオケを使用することの多かった『ザ・トップテン』(日本テレビ系)の音が理想なのですが、あの時代はそれぞれの番組で演奏の個性がバラバラで、ロングヒット曲になると、まるでバージョン違いを毎日聴き比べているような面白さがありました。あと先ほどもお話しした通り、歌手それぞれの健康状態・精神状態が如実に伝わってくるのが『ザ・ベストテン』だったような気がします。特に若い歌手たちにとっては、程よい緊張感と学校のようなカジュアル感が混在していて、だからこそ素の部分だったり、胸の奥底に隠しているプライベートな心情などが歌に反映されやすかったのかもしれません。
岩崎宏美に「先頭に立ち続けてほしい」と願う理由
――ちなみに岩崎さんは『ザ・ベストテン』にて、「春おぼろ」(1979年)、「万華鏡」(1979年)、「すみれ色の涙」(1981年)、「聖母たちのララバイ」(1982年)、「家路」(1983年) の5曲がベストテン入り、また“スポットライト”のコーナーで「決心」を歌唱しています。いずれも20代の岩崎さんの歌が堪能できるものになっていて。
ミッツ:宏美さんは10代の時はトップアイドル、そして『ザ・ベストテン』が放送開始してからは徐々に大人の女性にシフトしていき、さらに1980年代に入ってからは、すでに貫禄すら携えて『聖母たちのララバイ』で1位を獲っているという。本格的なティーンアイドルから、こうも自然に大人のシンガー/アーティストへと成長した女性の歌い手というのは、当時はとても珍しいことだったのだと、今さらながら気づかされます。
――その6曲の中で特に気になるのは、どの曲になりますか?
ミッツ:「万華鏡」は特に(映像を観るのが)楽しみです。あのサビの部分のしなやかな指の動きは、“昭和オカマのたしなみ”ですからね。あと「万華鏡」ってイントロが短いじゃないですか。それで番組の司会の方のMCと被っちゃうのはお決まりでしたね。明菜さんがオーディションで歌った「夏に抱かれて」はベスト10内に入っていないんですね? それは意外!
――「夏に抱かれて」は、オリコン最高20位、『ザ・ベストテン』でも最高14位ですね。発売後1カ月足らずで3枚組のベストアルバム『宏美』にも収録されたことで、シングルが伸び悩んだかもしれないですね。
ミッツ:あと、ゲイの間では1980年の「女優」も大人気ですね。以前、『行列のできる相談所』(日本テレビ系)で、全国のドラァグクイーンが一同に集まる企画の際に、わざわざ宏美さんがサプライズで歌いにいらしてくださったこともありました。私らオカマ連中はもう、狂喜乱舞。他の男芸人たちはポカーンみたいな。セクシャリティの間に流れる三途の川のような曲ですね。
――これからの宏美さんにどんなことを期待なさっていますか?
ミッツ:これは音楽業界全体に言えることですが、今、演奏にかけるお金がないのか、電子音楽が便利になり過ぎてしまったからか、全体的に商業音楽の音質が、特にエバーグリーンな歌謡曲系や演歌系では確実に悪くなっています。デジタルで録る作業量は、アナログ時代に比べて、下手すれば100分の1くらいでできてしまうのが現実です。自作自演でやられているバンドやアーティストは日進月歩の進化を遂げている一方で、音楽番組の音質や、流行歌手たちのアレンジやアートディレクション、衣装やメイクなどは、正直1970年代、1980年代のそれとは比べ物にならないくらい、無機質で安っぽいものになりがちです。そこに関しては、業界全体が自分たちの将来にどれくらいの熱量と志を持っているかがひとつ。そして、圧倒的なセンスや直感を持っている人材が音楽業界を目指すかどうかにかかっていると思います。ただお金をかければいいというものではありませんが、少なくとも「無難に安く抑えておこう」という考えが最優先になっていては、エンタテインメントは衰退するのみだと思います。
そして何と言っても、ステージ/興行で魅せられる人が最終的に残ってきたという歴史を鑑みて、やはり宏美さんはその先頭に立って歌い続けていっていただきたいというのが私の切なる願いです。間近に迫っている『デビュー50周年記念コンサート』も、1回と言わず、何度もこすってほしい。“音楽”も“歌”も“CD”も国民的な消費物ではなくなってしまった現実の中で、世代を超えて愛される楽曲を持っているベテラン歌手の皆さんにとっては、今こそが歌う時だと思いますし、聴き手や消費者も、今一度自分たちが聴いてきた音楽をただ懐かしんでいるだけではなく、当時抱いていた熱量を死ぬまで責任持って抱いてもらいたいですね。少なくとも私はそのつもりでいますので、宏美さんにはますますその歌声で人々を圧倒して、そして歌とともに人生を重ねていく様を見せ続けてくださることを願っています。
■リリース情報
『HIROMI IWASAKI 50th TBS Special Collection』
2025年3月5日(水)リリース
6枚組DVDボックスセット(三方背豪華BOX/特製デジパック仕様/解説書付き)
価格:29,480円(税込)
製作著作:TBS
発売元:TBS・TBSグロウディア
販売元:ビクターエンタテインメント
<DISC内容> ※すべて初DVD化
DISC1「in 8時だヨ!全員集合」(約65分予定)
DISC2 「in ザ・ベストテン」(約85分予定)
※数々の名場面を久米宏&黒柳徹子とのトークも含め収録
DISC 3 in ロッテ歌のアルバム +」(約63分予定)
DISC 4 「in サウンド・イン“S”+」(約71分予定)
DISC 5 「in BS-TBS」(約69分予定)
DISC 6 「award 日本レコード大賞 +」(約62分予定)
詳細:https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A000295/VIBL-1158.html
<収録内容>
DISC1.「in 8時だヨ!全員集合」
01. センチメンタル(1975/11/22)
02. ファンタジー(1976/2/14)
03. 想い出の樹の下で(1977/2/5)
04. 悲恋白書(1977/6/4)
05. 熱帯魚(1977/7/30)
06. 二十才前~はたちまえ~(1978/2/4)
07. シンデレラ・ハネムーン(1978/9/9)
08. さよならの挽歌(1978/12/2)
09. 春おぼろ(1979/3/10)
10. 夏に抱かれて(1979/6/23)
11. 万華鏡(1979/9/22)
12. スローな愛がいいわ(1980/2/9)
13. 女優(1980/5/17)
14. 銀河伝説(1980/8/9)
15. 摩天楼(1980/10/25)
16. 胸さわぎ(1981/1/17)
17. 恋待草(1981/5/16)
18. すみれ色の涙(1981/6/13)
19. れんげ草の恋(1982/1/2)
20. 檸檬(1982/2/13)
21. 聖母たちのララバイ(1982/8/7)
22. 素敵な気持ち(1983/2/26)
23. 真珠のピリオド(1983/7/9)
24. 20の恋(1984/2/18)
25. 未完の肖像(1984/6/23)
DISC2.「in ザ・ベストテン」
01. 春おぼろ(1979/3/22)
02. 春おぼろ(1979/4/12)
03. 万華鏡(1979/11/1)
04. 万華鏡(1979/11/8)
05. 万華鏡(1979/11/15)
06. 万華鏡(1979/12/13)
07. すみれ色の涙(1981/7/2)
08. すみれ色の涙(1981/7/16)
09. すみれ色の涙(1981/7/23)
10. すみれ色の涙(1981/8/6)
11. すみれ色の涙(1981/8/20)
12. すみれ色の涙(1981/8/27)
13. 聖母たちのララバイ(1982/6/24)
14. 聖母たちのララバイ(1982/7/1)
15. 聖母たちのララバイ(1982/7/8)
16. 聖母たちのララバイ(1982/7/15)
17. 聖母たちのララバイ(1982/7/22)
18. 聖母たちのララバイ(1982/9/9)
19. 聖母たちのララバイ(1982/12/30 さよなら1982 ザ・ベストテン豪華版)
20. 家路(1983/9/15)
21. 家路(1983/9/29)
22. 家路(1983/10/6)
23. 決心(1985/5/30)
DISC3.「in ロッテ歌のアルバム+」
01. ロマンス(1975/9/9 歌のグランプリ)
02. 愛の讃歌(1976/7/28 ゆかいな音楽会)
03. 霧のめぐり逢い(1976/10/10 ロッテ歌のアルバム)
04. 想い出の樹の下で(1977/2/20 ロッテ歌のアルバム)
05. 悲恋白書(1977/4/24 ロッテ歌のアルバム)
06. 熱帯魚(1977/8/31 みどころガンガン大放送)
07. 思秋期(1977/12/4 ロッテ歌のアルバム「千と一慶生放送」)
08. 二十才前~はたちまえ~(1978/2/22 たまりまセブン大放送!)
09. あざやかな場面(1978/5/14 ロッテ歌のアルバム78)
10. シンデレラ・ハネムーン(1978/7/16 ロッテ歌のアルバム78)
11. 春おぼろ(1979/2/15 マジカル7大冒険!)
12. 夏に抱かれて(1979/5/17 少女探偵スーパーW)
13. スローな愛がいいわ(1980/1/17 ミラクルTV大出動!)
14. 摩天楼(1980/11/27 たのきん全力投球!)
15. すみれ色の涙(1981/7/16 たのきん全力投球!)
16. れんげ草の恋(1981/12/3 たのきん全力投球!)
17. 思い出さないで(1982/11/7 たのきん全力投球!)
18. 素敵な気持ち(1983/3/1 アップルシティ500)
19. 真珠のピリオド(1983/7/13 笑ってポン!)
20. 家路(1983/12/25 ザ・ヒットステージ)
21. 20の恋(1984/2/19 ザ・ヒットステージ)
22. 月光(1985/12/22 ロッテ歌のアルバム)
23. 好きにならずにいられない(1986/2/1 合言葉は音楽気分♪)
24. 小さな旅(1986/7/20 ロッテ歌のアルバムNOW)
DISC4.「in サウンド・イン“S”+」
01. TUXEDO JUNCTION
02. CHANSON D'AMOUR
03. MY LOVE
(1977/7/24 サウンド・インS)
04. EVER GREEN スター誕生・愛のテーマ
05. THE STRANGER
06. I REMEMBER YESTERDAY
07. LAST DANCE
(1978/11/5 サウンド・インS)
08. オープニング~雨
09. 雨降りお月
10. 城ヶ島の雨
11. MY BLUE HEAVEN
(1979/6/10 サウンド・インS)
12. ホワイトクリスマス(1985/12/22 ロッテ歌のアルバム)
13. 好きにならずにいられない
14. SAVING ALL MY LOVE FOR YOU
(1988/5/13 金曜気分で!)
15. ロマンス(1993/7/2 あなたも歌わずにはいられない!!青春時代の名曲70年代90分!)
16. 万華鏡
17. ~未来
18. ~センチメンタル
19. ~シンデレラ・ハネムーン
20. ~聖母たちのララバイ
(1994/9/9 あなたも歌わずにはいられない!青春時代の名曲70年代120分特別編)
21. すみれ色の涙(2000/12/1 20世紀!名曲黄金時代スペシャル~井上忠夫音楽葬~)
22. インタビュー(BGM:二重唱)~ロマンス
(2005/12/29 超豪華!!歌謡史決定版~ザ・ヒットメーカー作詞家・阿久悠40周年記念特別企画)
23. 時代
24. 聖母たちのララバイ
(2010/4/1 あなたが聴きたい歌の4時間スペシャル)※安住紳一郎インタビュー
25. ロマンス
26. 思秋期
(2017/7/31 あなたが聴きたい歌の4時間スペシャル)※安住紳一郎インタビュー
DISC5.「in BS-TBS」
01. 聖母たちのララバイ
02. シェルブールの雨傘
(2017/10/14 祝80歳!服部克久卒寿メモリアルライブ)
03. 卒業写真(2021/12/17 特別コンサート・サウンドメーカー服部克久の世界)
04. リメンバー・ミー(2019/12/21 Sound Inn S)
05. 思秋期
06. 残したい花について
(2018/9/15 Sound Inn S)
07. すみれ色の涙(2017/3/6 由紀さおりの素敵な音楽館)
08. 聖母たちのララバイ
09. にがい涙
10. 好きだなんて言えなかった
11. 夜明けのMEW
12. エンドレス・ラブ
(2022/8/5 うた恋!音楽会)
13. シンデレラ・ハネムーン
14. 女優
15. 太陽が笑ってる
(2023/12/26 名曲をあなたに うた恋!音楽会)
16. ファンタジー
17. 生きがい
(2024/6/30 名曲をあなたに うた恋!音楽会)
18. 夢で逢えたら(2024/7/14 名曲をあなたに うた恋!音楽会)
DISC6.「awarded 日本レコード大賞 +」
01. ロマンス(1975/11/19 速報!!日本レコード大賞)
02. ロマンス(1975/12/31 1975年度 輝く日本レコード大賞)
03. 思秋期(1977/11/22 速報!「日本レコード大賞」)
04. 思秋期(1977/12/31 第19回 輝く日本レコード大賞)
05. シンデレラ・ハネムーン(1978/11/22 速報!!日本レコード大賞今夜決定!!金賞・10曲)
06. シンデレラ・ハネムーン(1978/12/31 第20回 輝く日本レコード大賞)
07. 万華鏡(1979/11/21 第21回 速報!日本レコード大賞)
08. 万華鏡(1979/12/31 第21回 輝く日本レコード大賞)
09. 銀河伝説(1980/11/26 第22回 速報!日本レコード大賞)
10. 銀河伝説(1980/12/31 第22回 輝く日本レコード大賞)
11. 恋待草(1981/3/21 第10回 東京音楽祭国内大会)
12. 恋待草(1981/3/29 第10回 東京音楽祭世界大会)
13. すみれ色の涙(1981/11/25 第23回 速報!日本レコード大賞~部門賞発表授賞音楽会~)
14. すみれ色の涙(1981/12/31 第23回 輝く日本レコード大賞)
15. すみれ色の涙(1981/12/31 第23回 輝く日本レコード大賞)
16. 聖母たちのララバイ(1982/12/5 第15回 日本有線大賞)
17. 家路(1983/11/23 第25回 速報!レコード大賞 ~部門賞発表受賞音楽会~)
18. 家路(1983/12/31 第25回 輝く日本レコード大賞)
19. 思秋期(2009/12/30 第51回 輝く!日本レコード大賞)
20. 聖母たちのララバイ
21. 見上げてごらん夜の星を
(2010/12/29 レコード大賞前夜祭 あの頃あのメロディー 日本の歌謡史50年SP)
22. 虹~Singer~(2010/12/30 第52回 輝く!日本レコード大賞)
<先着予約・購入特典>
※各チェーン特典ともに数量限定。
Amazon.co.jp:ビジュアルシート
ビクターオンラインストア、セブンネットショッピング、楽天ブックス:オリジナル特典あり(内容未定)
TBSショッピング:アクリルスタンド
■ライブ情報
『岩崎宏美 デビュー50周年記念コンサート 〜永遠のありがとう〜』
4月25日(金)東京:昭和女子大学人見記念講堂 17:00開場/18:00開演
4月27日(日)大阪:オリックス劇場 16:30開場/17:30開演
チケット一般発売中:全席指定:8,000円(税込)