back numberと清水依与吏、異色の“対バン”で示したそれぞれのアイデンティティ 『anti sleeps tour 2024』を振り返る
back numberにとって初の対バン形式によるアリーナツアー『anti sleeps tour 2024』が8月3日から12月22日にかけて開催された。15カ所32公演の規模で行われたこのツアーのゲストはLACCO TOWER、秀吉、Vaundy、ストレイテナー、SHISHAMO、ハンブレッダーズ、ゴールデンボンバー、優里、ねぐせ。、My Hair is Bad、清水依与吏、マカロニえんぴつ、TOMOO、Perfume、BE:FIRST、Saucy Dog、クリープハイプ。インディーズ時代からの仲間、メジャーデビュー後に切磋琢磨してきた同志、後輩のバンドからソロアーティスト、ダンスボーカルグループまでを網羅した“対バン相手”は、back numberのキャリアの軌跡と現在のポジションが反映されている。言うまでもなく、こんな対バンツアーが組めるのは彼らだけだろう。
本稿では10月26日に行われたさいたまスーパーアリーナ公演をレポート。清水依与吏とback numberの対バンという超レアなステージが示していたのは、ソングライター/ロックバンドとしての本質そのものだった。
まずは清水依与吏。少し照れくさそうに登場した清水は、大きな歓声を浴びながら「曲、やったほうがいいんだよね。何を求められているのかわかんない(笑)」とつぶやいた後、アコギを手にして歌い始める。最初の曲は「恋」。思春期の純粋で切ないラブソングを丁寧に描き出し、一瞬にして歌の世界に観衆を誘う。
続いては「東京の夕焼け」。軽快なギターのストロークに合わせて手拍子が聞こえてきた……ところで演奏を止める清水。「手拍子どうしようか? いったん、やるパターンにする」と話しかけ、どこか緊張感のあった会場の空気を和らげる(結局、手拍子はナシになりました)。
「(back numberを)出づらくしてやりたいんだよね。殻を破ってほしいんだよね、back numberってバンドに。俺を呼んだからには(笑)」というMCのあとは、「助演女優症」。アルペジオとストロークを交えたアコギのアレンジ、個性的なコード進行、ドラマティックなメロディラインが響き合い、ソングライターとしての彼の魅力が真っ直ぐに伝わってくる。
フォーキーな手触りの「君はいらないだろうな」では、〈少しずつ少しずつ/君のいらない僕になろう〉と痛みにも似た切なさを滲ませる。この曲もそうだが、コード構成、メロディ、歌詞を含め、すべてが丁寧に作られていることが感じられる。自分の曲を愛し、もっと良くなるはずだと時間をかける。その誠実さも清水依与吏の魅力であり、ソングライターとしての特長なのだと思う。「今の曲、どう? (拍手を聞いて)ああ、よかった。別の曲をやる予定だったんだけど、信じてみようかなって」とホッとした表情も印象的だった。
恋人と一緒に過ごす休日の何気なくて大切な風景を描いた「日曜日」、親から子どもに対する思いを映し出す歌詞に心を打たれる「ささえる人の歌」は、最近のback numberのライブではほとんど演奏されないレアな楽曲。アコギの弾き語りによって、清水の歌の力ーー楽曲に込められた感情や風景、物語を生々しく立ち上げるーーをたっぷりと体感することができた。
「ありがとうね、マジで。この日を狙ってきたのかな?」「楽曲を含めて“丸裸”を見てもらえてる気がして、いいなって思います」という言葉を挟み、「弾き語りで一緒に歌うとどうなるんだろうな?ってやってみたくて」とサビのコーラスを練習して「ベルベットの詩」へ。〈La-la-la-la〉という美しいメロディと〈代わりはいないと/自分の声で歌おう〉というフレーズが共鳴し、豊かな感動へと結びついた。
「聴く人が主役なんだけど、作品を重ねるなかで“ここにいていいよ”と言ってもらえてる気がしている。自分のことは常に疑ってきたけど、やってきてよかったなと思ってます」ーーそんなふうに観客に話しかけ、ラストは「チェックのワンピース」。別れてしまった“君”への未練と強がりをじんわりと響かせるこの曲もまた、清水依与吏の真骨頂だ。