Sound Horizon、20年の年月をかけた物語音楽による人間礼賛 『Revo’s Halloween Party 2024』2日目完全レポ

 ここからは「浅間でハロウィン」の第二部にあたるセクション。ハイハットを刻む音、バイオリンソロ、始まりの曲は「風の行方 [Vocalized Version]」だ。『BRAVELY DEFAULT』のアニエス・オブリージュの装いをまとったCeuiがひざまずき、まずは軽やかに、徐々に祈りが届くように力強く、歌声を捧げた。バイオリンソロが踊り、ドラムが3拍子を叩き、ドローンはシンクロライトリストバンドがグリーンを灯したフロアを広くスクリーンに映し出す。そんな一曲が終わると水中を浮かび上がる気泡のような音が。その瞬間、大きな反応を見せる会場。深見梨加が現れ、手には「黒い背表紙に黒い文字で記された物語」の書。舞台上には黄緑色のドレスを着たJoelle。細く張り詰められた銀糸のような美声で、美しき旋律を歌い、「キミが生まれてくる世界」の幻想的な世界観を表現していく。

 いつまでも余韻に浸りたいような至福の時間はすぐさま破られ、『リヴァイアサン/終末を告げし獣』から「少女曰く天使」へと突き進む。献身的な少女である飯田あかねを演じるは、石川由依。実はダンサーの一人には高杉あかねが招聘されており、振付師・紀元由有の策略(?)と主宰はのちのMCで驚きつつも感嘆していた。不穏なオルガンの音色を背に、石川は危うい少女性を感じさせる歌声を響かせ、雄々しいギターソロは恋焦がれる人への強い想いを呼び起こす。また、スクリーンに映る鳥の巣とあいまって、当該曲が表現した鳥葬のシーン+αのイメージを聴き手の脳内で膨らませてもいた。ここは、悲しい境遇に追い落とされても懸命に生きる少女のターンか、続いては南里侑香による「Lui si chiama...」。南里の手には銃、階段上に設置された天体望遠鏡、オリオン座が浮かぶ星空、聴く者を作品世界へと連れ去るために手厚い接遇を受け、客席は楽曲を心から愛でる時間を味わった。

 そして、一転の「Ark」。歌い出しの一節一節に込められた圧と感情が会場を魅了する。歌うは、歌唱力と表現力の進化が止まらない栗林みな実。その歌声は、Revoが生み出す世界の拡大解釈に不可欠なピースとなりつつある。西山がかき鳴らすギターを浴びながら嘲笑、苦悩、身体全体でも楽曲を表現、歌唱後には大きな喝采の拍手をもらっていた。続いて、この夜2度目のJIMANGによる「楽園パレードにようこそ」が聞こえてきた。「エルの楽園[→ side:A →]」だ。小鳥のさえずりと響く弦の音、すずかけ児童合唱団のコーラス、そして山崎杏によって楽園への扉は開かれる。山崎の愛らしい歌声、そこにすずかけ児童合唱団が純真さを重ねる。続けて突如かぶさる落雷、伊東えりの声。その強烈な歌声は「Elysion」と「ABYSS」の両世界を舞台上に出現させる。

 ここで一度MCを挟んだが、“ハロウィン関係者”はこのパーティについて「諸君も何となくわかってきたと思う。楽しいハロウィンの顔をした地獄のコンサートではないかと」と解説し、「今日の目的は、ハロウィンを楽しむことではない。20年分のあらゆる楽曲で君たちを全員殺しにいく!」と宣言。それを受けて上がる歓声! 追い打ちのように「詳しいことは言わない。ただ……、君たちは死ぬ! それを楽しんでくれたまえ」とまで言い放った。その後、石川由依を呼び寄せた“ハロウィン関係者”は、話が複雑になるので一旦Revoを憑依させ、「由依ちゃん、久しぶりー」とトークを続けていた。石川が歌った「少女曰く天使」の原曲は、台詞をゆかな、歌をRIKKIが務めていたことから、Revoは一人で表現してもらうオーダーを出していたが、その結果に対して“ハロウィン関係者”の口から「完璧だ」の言葉が。石川が去ったあと、ナレーションを担当するアイクを呼び寄せるとハイタッチ、闘病を経たアイクとまた同じ舞台に立てる喜びを分かち合った。“ハロウィン関係者”は、アイクの膝にかけられた「くそ生意気なメタルバンド」のボーカルが描かれたフード付きタオルに気づくと、それを頭にかぶってみせる。そして“ハロウィン関係者”はアイクと別れを告げ、ステージ中央に歩み出すと「変なところに迷い込んでしまったな」「知らない路地裏に迷い込んだような」「猫ちゃんがいっぱいいるような、いないような」とつぶやき、次曲が「西洋骨董💋屋根裏堂」であることを示す。胸元からバイブ音が響き、取り出したスマートフォンにかかった電話に出たあと、“ハロウィン関係者”は熱く、特徴的なロックボーカルを披露する。ステージに出現したカウンターには4人の店主、少女(山崎杏)と貴婦人(灰野優子)と老女(深見梨加)と若い女性(石川由依)が座り、ロックボーカリストが憑依した“ハロウィン関係者”の周りには路地裏の猫(耳をつけた)Joelle、栗林みな実、Ceui、南里侑香が担当する登場人物たちの衣装のままに群れる。豪華と混濁が一体を成すという状態が渦巻き、まるで意識を丸ごと持っていかれそうな時間だった。

 ここで再び“ハロウィン関係者”によるMCの時間を迎えるが、舞台の内外でも混乱が生まれていたらしく、「Joelleを呼ぼうと思ったけど着替えてしまっているらしい」「ここで業務連絡。他に呼べる人いますか」「とんでもないパズルになってるんだよ」などという言葉が“ハロウィン関係者”の口から洩れた。“ハロウィン関係者”は「だから栗林みな実をたっぷり楽しむしかないんだよ」と言い切り、その身を確保された栗林みな実とマンツーマンのトークを始める。だが不思議な雰囲気はなかなか修正されず、Minamiに改名後、再び栗林みな実となった件に“ハロウィン関係者”は触れ、「20年もあるとそういうことも起こるんだね」「そうですね」という奇妙な時間が生み出されてもいた。栗林の「でも嬉しいです、ローランの皆様にも久しぶりにお会いできて」という温かい言葉に会場は笑顔がこぼれ散るが、活動から23年という栗林の言葉を受けて、“ハロウィン関係者”は「20年と23年でお送りしております」「なんやかんや言うてますけどね」と手もみしながら、体をゆすりながらトーク、栗林とのふわっとした時間が流れた。そうこうするうちに譜面台が用意され、すずかけ児童合唱団と伊東えりも登場すると、「この子たちがメインの曲をお送りしたいと思います」と言い残して“ハロウィン関係者”は去った。

 時計の針が刻む音、オルガンの音色、星夜を思い出すような軽やかな音楽で始まったのは「黄昏の楽園」。スクリーンにはアニメ『進撃の巨人』第1話で少年期のエレンがアルミンを助けに駆け寄るシーンが流れた。だが曲が終了すると雅楽が流れ、眼前に二つの選択肢が大きく現れる。喜びと驚きの混じった声を出したのも一瞬、畏み畏みな音楽に合わせて手拍子する会場は笑顔だ。「もしこの壁の中が一軒の家だとしたら」という問いの元、プレミアムシートに集った者たちに対して、壁の中で暮らす【楽園】か、自由に生きる【地獄】かの選択肢が与えられる。すずかけ児童合唱団が歌声を披露した後、大きく会場に響く赤子の声。続けて流れてきたのは吹きすさぶ風の音、カラスの鳴き声、遠雷。ステージに旧き神話の時代の衣装をまとった者たちが歩みを進めてくる。一行の中には栗林みな実演じるミーシャが。斬られ、階段上の高台から奥に落ちる。「死せる乙女その手には水月-Παρθενοs-」だ。栗林のボーカルに続き、女性詩人ソフィアのパートを担ったのは深見梨加。その「ミーシャ……、先刻訪れた若者はあなたとよく似た目をしていたわ……」の台詞は重みを感じずにはいられない。やがて、客席の間からエレフセウスが現れる。歓声を横目に階段を駆け上がり、ミーシャが落ちた先をのぞき込む。開放される慟哭。その声の主を鎮めるように、現れたミーシャはたおやかに歌い出す。対するエレフセウスは、絞り出すように負の感情をまとわせた歌詞を吐き出していく。対照的だが絡み合うように歌声を重ねるうち、やがて男声と女声は縫合されていく。水に沈むミーシャの姿がスクリーンに映り、エレフセウスは号泣から高らかな笑い声へと変化を見せる。「大切な人を殺した奴がいる、私が取るべきは……」、その決意を乗せた声にやはり表現力の進化を感じる。Linked Horizonなどの時間を重ねた今だから浮かび出せる表現、これも令和のSound Horizonだ。

 続いて、ライブだけで聴くことのできる、アコースティックギターによる前奏が流れる。「美しきもの」だ。黒髪のCeuiが現れて、愛しくも癒される歌声と、ベンドやビブラートを駆使してハーモニカをスタンドマイクに吹き込んでいく。最後には、さらなる20年を思い起こさせるように「これからも詠い続けよう」という台詞で締めくくった。次には、「やがて訪れる朝日」のナレーションから始まったロックナンバー「輪廻の砂時計」が。エレキギターの効いたリフから始まり、一転してアコギのターンで観客を惹きつける。南里が「Lui si chiama...」のままの姿で、愛に生きた少女を歌う。JIMANGが務めるダンスの相手役が「愛した」人であろうか……。続いて聴こえてきた台詞は「7番目の記憶」。灰野が、双子(すでに死した)を抱く眼鏡の女性に扮して登場する。ここでもアコースティックギターが登場し、3曲連続での活躍に胸撃ち抜かれる。魅惑のBossaな旋律は徐々に熱砂の如く情熱をまとわせ、細かな拍がビートを作りつつも、ゆるやかな2拍子がうねりとなるメロディの中、会場を魅了する。

 そして、ここまでバイプレイヤーに徹していたJIMANGの真骨頂とも言える「黄昏の賢者」に。曲のスタートから七色の声は会場を惑わせ、手にしたステッキ、軽やかに踏むステップでさらに観客を熱狂させていく。サビ前の「行くぞーっ!!」には、客席から興奮を抑えきれない歓声が。その小気味のいい歌声に合わせ、YUKIと長谷川淳がそれぞれ愛器のネックを振り、パートナーに祭り上げられたミーシャ姿の栗林は本を回し、JIMANGを盛り立てた。Dメロにあたる部分ではねっとりと語り上げ、7分以上にわたる怪演が終わると、ステージには光の剣を持ったダンサーが集結する。『進撃の巨人』楽曲、調査兵団楽曲と気づく会場。階段に白い花束を置き、下りてくるRevo……のふりをしている“ハロウィン関係者”。それは誰に手向けた祈りの花か、演奏されたのは TVアニメ『進撃の巨人』Season 3 Part 1のエンディング主題歌「暁の鎮魂歌」。コーラスに参加したすずかけ児童合唱団も調査兵団のジャケットを羽織っており、スクリーンにはユミルを失ったヒストリア、ウーリ・レイスとケニー・アッカーマン、二つの友情が映し出されていた。決して歴史の表舞台ではないところで散っていく命に向けて送られる鎮魂歌(レクイエム)。その厚みを増した魂の歌声を前に、熱い血潮のなせる業かもしれないが、Revo(のふりをした“ハロウィン関係者”)の進化を感じる(と書くと、「20周年だからね。頑張りました」と面映ゆく話すRevoの顔が浮かぶ)。

 「君のこと、褒めてあげないといけない。ハーモニカ、めっちゃ上達してない?」「今までいろんな歌姫がこの曲歌ってきたけど、君が一番ハーモニカ上手い」と、Ceuiに対する称賛がこぼれたのは、最後のMC。Joelleには「にゃんにゃん(=「西洋骨董💋屋根裏堂」に参加)してもらいたかったんだけどね」と声をかけると、サービス精神に満ちたJoelleが猫の見事な鳴き声を披露してくれた。そのJoelleがシスター姿で登場して歌ったのが「忘れな月夜」だ。かりそめのダンスの相手役はやはりJIMANG。曲の後半、同じダンスを一人で踊ってみせるシーンは光景としてももの悲しさを演出する。また、曲中に登場する不遇の子は松岡夏輝と本屋碧美が演じ、両親を失った皐月を演じた山﨑杏は信仰の薄い修道女を演じた。

 石川由依が『進撃の巨人』の映像(ミカサが望む、山小屋でのエレンとの安らかなる生活)を背に「13の冬」を歌うと、莫大なエナジーを持つJIMANGがボリュームある「人生は入れ子人形-Матрёшка-」を歌い上げる。ハロウィンだが黄金を掘らずに遺跡を掘ったJIMANGを最後に、Revoによるハロウィンパーティは終演へ。

 公式FC(Salon de Horizon)限定配信『Revo陛下の部屋』での姿と同じ、ドラキュラに扮して登場するRevo。動くたびに肩の上でコウモリが揺れていた。そして「Halloween ジャパネスク '24」のインストゥルメンタルをバックに、Revoのコンサートでは恒例の全出演者紹介に突入する。労働基準法というシンデレラタイムのリミットが迫っているため、進行は「巻きで」進んでいく。最後に紹介されたのは「JIMANGー!」「ありがとね、帰ってきてくれて」の言葉をかけると、そのJIMANGが「Sound Horizon King! Revoー!!」と返す。最後には会場全体で「ハロウィン×5、ジャパネスク! 24!!」と歌声を合わせ、楽し気にフィニッシュを決めた。すずかけ児童合唱団の子供たちをステージ最前面に押し出し、会場からの礼賛の拍手を与えたあと、これも恒例の国歌「栄光の移動王国 -The Glory Kingdom-」の斉唱を、バンド演奏でキャスト全員と共に、会場が一体となって歌った。

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