「Nintendo Music」で叶うBGMの新しい楽しみ方 『ヨッシーアイランド』『あつ森』の名曲と共に解説

Wii/「似顔絵チャンネル」

 今回のリリースで一番驚くべきなのはやはり「Wiiチャンネル」も解禁されたことだろう。「Wiiチャンネル」はWiiのシステムBGMであり、本来ならば記憶に残ることもない位置付けとも言える。それがなぜ今回の収録に至ったのかーーその理由には、Wiiに対する根強い人気がある。

 Wiiは2006年に発売され、瞬く間に大人気となった据え置き型ゲーム機だ。テレビのリモコンのような縦長のWiiリモコンとその直感的な操作感によって、普段ゲームをしないファミリー層にも幅広くリーチした。

 さらにWiiにはゲームを遊ぶ機能だけでなく、さまざまな機能がテレビのチャンネルのように搭載されていた。似顔絵キャラクターとしてアイコニックな「Mii」を利用したソーシャル機能や各国のニュースをチェックできるニュースチャンネルなど、ゲームの域にとどまらない、テレビの延長のような、家族で利用しやすいサービスを多く実装していた。Wiiは単なるゲームハードという枠を超えて、生活のそばにある“インテリア”としても機能していたのだ。

 だからこそ、WiiのBGMには今なお強い影響力がある。WiiのBGMはすなわち“場のBGM”だったのだ。しかしそれは、面白みがないということでは決してない。生活のリズムを形作るような、ユーモアに溢れた音像で構成されている。

 その最たる例が「似顔絵チャンネル」のBGMだろう。この楽曲はWiiのBGMの中でも特に根強い人気を誇っている。誰でも口ずさめるようなキャッチーなメロディと、どこか気の抜けたストリングスが魅力的な1曲だ。一聴するととてもシンプルなように聴こえるが、そこかしこにプレイヤーを飽きさせない、リズム的な工夫が凝らされている。

 まず注目したいのが音色選び。使われているのは先述したストリングスと、エレクトリックピアノのみ。それぞれ異なったテクスチャーの音色だが、両方に共通しているのがディケイの柔らかさと、そのリリースがほとんどないことだ。

 音の立ち上がりから継続において減衰が緩やかなことで音がペラっとした印象になり、さらに音の終わりがぷっつり切れることによってデッドな印象を与えているのだ。つまり、現実空間では鳴らせないような“人工的”なパキッとした音色になっているということ。こうしたテクスチャーの面白みは、前述した『ヨッシーアイランド』とも共通する感覚だろう。

 次に、印象的なフレージング。スタッカートの多い弾むようなメロディで音像がデッドであるため、休符の空白が強く印象付けられる。さらに、メロディとオブリガートが入れ替わるような構成をしており、ピアノとストリングスがリズミカルに合いの手を入れているような印象を与える。その上ストリングスは左右にパンを振っており、パーカッシブな印象をコミカルに強化している。

 こうして聴いてみると、感じていた以上にリズム的要素がふんだんに散りばめられていることがわかる。Boiler RoomでDJ/プロデューサーであるYeajiがこの曲を流し、フロアが大熱狂した様子がXでも話題となったが、確かにリズムミュージックとしての「うま味」がこの曲に秘められているのは間違いない。それはこのBGMのアレンジバージョンでも確認することができる。


 まずはMii作成時のBGMである「Miiを作る」。基調となるメロディにリズムボックスがパーカッションとして重なっている。単純なリズムが入り込むだけでも、メロディのリズム解釈に補助線を引いてもらえるようで面白い。次に「似顔絵パレード 歩く」。作られたMiiを歩かせる時に流れるBGMだが、16分で刻むダンサブルなシェイカーがリズムに新しい解釈を加えてくれる。裏拍で「ボヨン」と鳴るタムもいい味を出していて、Miiの歩きにコミカルさを与えている。

 こうした再解釈での面白さは、元となるメロディーにリズム的な「うま味」が秘められているからこそだ。さらにその構成のシンプルさによって、広い懐でリズム解釈の余地を与えてくれる。

 シンプルながらもユーモラスな遊び”のあるBGMによって、Wiiはお茶の間の主役となった。生産終了から10年以上が経ち、Wiiが遊ばれることは少なくなってしまったが、このBGMを流すことによって団らんの場を作り出すことができるかもしれない。

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