オーイシマサヨシ×三井律郎特別対談 二十年来の“同期”が語る当時のバンドシーン、アニソン業界での再会

オーイシが語る三井によるアレンジの“バンドマン感”

――お互いの現在の活動に対しての印象も聞いてみたいです。

三井:この間『アニサマ(Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-)』でオーイシくんと一緒になったんですけど(三井はAimerのサポートギタリストとして『アニサマ』に出演した)、オーイシくんは、サウスケ時代はイケメンで女の子にキャーキャー言われている存在だったのが、今はファンに呼び捨てにされるキャラに自らなっているところがすごいなと思って(笑)。自分で自分の悪口を言ったりしてるよね?

オーイシ:そう、自虐ギャグ。僕はデビュー当時、ファンの9割方が女の子だったんですよ。『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演した時も、ナレーションで「いま女子高生に大人気のバンド」って紹介されていたくらいで。それが、今や8割方が男性のファンですからね。しかも客席から「クソメガネ!」とか言われて(笑)。皆さんには音楽業界の闇を知ってほしいですね。「この23年間で、ここまで変わらないと生き残れなかったんだな」っていう(笑)。

三井:アハハ(笑)。でも男性に好かれるのはすごいなって素直に思う。それとオーイシくんがいいなと思うのは、今でもちゃんとサウスケをやっているところですね。一度解散したとはいえ(Sound Scheduleは2006年に解散、2011年に再結成した)、これはなかなかできないことだと思います。

オーイシ:たしかにね。毎年9月か10月に集まってやってるんですけど、同窓会みたいで楽しいんですよね。ライフワーク的な感じになっていて。バンドの活動に関しては、僕個人の活動のマネージャーも完全にノータッチで、全部をDo it Yourselfでやることに意味を見出しているんですよ。「こんなに大変なことを、普段は周りのスタッフの皆さんにやってもらっているんだ」という気持ちになれるので、褌を締め直す良い機会になっています。

三井:いいね。俺もTHE YOUTHはそういう感じだから。辞める理由がないし、みんなバンドが好きだからね。

オーイシ:僕の三井くんの最近の印象は、「上手いことハネやがって、この野郎!」です(笑)。Aimerさんのサポート辺りからアニソン界での存在感がどんどん出てきたところで、極めつけの『ぼっち・ざ・ろっく!』っていう。『ぼっち・ざ・ろっく!』自体がバンドに焦点を当てたアニメなので、ギターには否応なく興味が出るわけじゃないですか。そんな中でギターの弾いてみた動画を公式でたくさん上げて。もう、やらしい(笑)。

三井:あれはもともとやる予定じゃなかったんだよ(笑)。ライブも当初は「イベントで一回くらいあるかなあ」くらいに思っていたものが、今やTVアニメの放送から2年経っている作品なのに、新曲が出てツアーも行っているというのは、本当にすごいしありがたいなって思います。

オーイシ:結束バンドはロックフェスにも出まくっているしね。

TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」劇中曲「星座になれたら」を弾いてみた by 三井律郎

――オーイシさんは、バンドマンとして、あるいは職業作家として、三井さんが手掛ける結束バンドの楽曲のアレンジにどんな印象を持っていますか?

オーイシ:これは僕の中で三井くんというバイアスがかかっているからかもしれませんが、どこまでいっても“バンドマン”なんだなって思いました。僕もそうですが、アレンジの節々にバンドマン感が出ているんですよね。1本のギターで何とかしようとしている感じというか。

三井:無理やりね(笑)。

オーイシ:『ぼっち・ざ・ろっく!』のコンセプトにも合わせて、ライブでの再現性を意識したんだと思うんだけど、それに一番合っている編曲の答えを出してきたなと思いました。普通のアレンジャーであれば多分やらないであろう、バンドマンとしての深いところでアレンジしているように感じて。だからいろんな人に響いていると思うんですよね。個人的にも嬉しかったです。今は世界的にバンドはあまり元気がないので。

三井:それはそうだね。

オーイシ:あとはコピーして弾く楽しさがありますよね。ギタリストとしての編曲をしているから。例えば指の運びひとつとっても、ちゃんと無理がない作りになっている。

三井:いろんな人が弾いてくれていますからね。

オーイシ:それも良かったんだろうね。だってGO!GO!7188があそこまで人気になった理由は、やっぱりコピバンにあると思うし。

三井:たしかに。当時スコアがめちゃくちゃ売れてたみたいだもんね。

オーイシ:当時「こいのうた」をコピーしたことのない軽音楽部なんていなかったから。ブームの火付けになるのは結局、「真似したい」というのが大きいと思うんですよ。それこそ今もTikTokを含めて「踊ってみた」や「弾いてみた」動画が流行っていますけど、憧れとか流行りのものの真似をしたい気持ちは、人間に永遠にあるものだと思うので。GO!GO!7188の人気もそういう部分が大きかったと思うんですけど、『ぼっち・ざ・ろっく!』はそのフォーマットを令和にやっている感じがして、すごく納得がいきました。

三井:結束バンドの楽曲は弾くのが難しいんだけどね。まあ、あえて難しく作ったんだけど。主人公の後藤ひとりが「ギターヒーロー」と呼ばれる実力の持ち主という設定だから、難しいフレーズを入れまくったら、後に自分がライブで弾かなくてはいけないことになって自分で苦しめられるっていう(笑)。「後藤、これは弾けねえよ……!」って。まあ楽しんでやっていますけど。

アニソンシーンにおけるバンドサウンドの2つの文脈

――そういったアニメ作品の世界観やキャラクターの設定を踏まえた作り込み、作品に対するリスペクトを感じさせる制作という意味では、オーイシさんも三井さんも共通している部分があるように感じます。

オーイシ:そうですね。僕も解像度が高いものを作らないと作品に失礼だなと思いながら、いろんなアニメの主題歌を書かせてもらっているので。やっぱりウソをつくとバレてしまうんですよね。「オーイシはこの作品、そんなに好きじゃないのかな?」みたいな(笑)。絶対にそう思われたくはないし、その作品を大好きな人に対して本当に失礼なことになってしまう。だから原作が好きになるまで読みますし、「どうにかして作品の役に立ちたい!」という気持ちでいつもやっています。でも、たしかにそういう「役に立ちたい精神」は似てるのかもね。

三井:僕も結束バンドの楽曲は「キャラクターのことを知ったうえで制作してください」とは言われていなくて、「下北系のギターロックを作ってください」としか言われていなかったんですよ。ただ、「自分に何ができるだろう?」というのをすごく考えた結果、キャラのことも考えたうえでアレンジして。それってファンの人に伝わらない可能性もあるわけですけど、僕はもともと編曲家でもないので、そういうところで愛を示すしかないのかなとは思っていました。

オーイシ:でも、三井くんはスキルがあるから器用なんですよ。オーダーがあればすぐにできてしまうっていう。腹立ちますよね(笑)。

三井:いや、あなたのほうが器用でしょうよ(笑)。

――(笑)。もう1つ個人的に聞いてみたかったことがありまして。これは仮説なのですが、今のアニメ音楽にせよ、J-POPにせよ、お二人が当時活動していた2000年代のバンドシーンからの影響は少なからずあると思うんです。江口さんの編曲仕事にも、ステファブのエモコア精神を感じる瞬間がよくありますし。

三井:どうなんでしょうね。僕のイメージでは、ギターのかっこよさというのは、昔も今もあまり変わっていない気がするんですよね。多分、僕らの下の世代にボカロ文化があって、その中にはバンドサウンドを基調としている人もいて。いろんなツリーの枝分かれがある中で、バンドサウンドのかっこよさが残っているからこそ、今でもそういう音楽になるのかなっていう。

オーイシ:バンドサウンドで言うと、僕は今のアニソン界の中で2つの文脈を感じていて。1つは、トムくんが作った『けいおん!』やUNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)くんが作った流れのバンド感。ベースがうねうね動いて展開が早いけどすごくキャッチーな感じですね。もう1つ、最近また流行り始めたと感じているのが、ボカロPが作るバンドサウンド。

三井:そう! あるよね、そういう流れ。

オーイシ:僕は今この2つが二大巨頭だと思っていて。逆に言うと僕らが2000年代頭にやっていたバンドサウンドというのは、今アニソン界で流行っているか流行っていないかで言うと、流行っていないと思っています。ただ、その流れを作っているボカロPの人たち、田淵くんやトムくんは、その時代のバンドサウンドに影響を受けていると思うんです。僕はこれまでたくさんのボカロPの方々に「サウスケ聴いてました!」と言われてきたんですよ。

三井:そうそう、江口くんもステファブのことをよく言われるって話してました。

オーイシ:その意味では、僕らのやっていた音楽を聴いていた世代の作る音楽が今流行っているので、第2世代感というのはあると思います。で、僕は今、その流れを一生懸命読み取りながら「おじさんにならないぞ!」という気持ちで楽曲を作っているっていう(笑)。だから循環しているんですよね。

三井:なるほどね。僕もオーイシくんの言うことは当たっていると思います。僕は基本的にずーっと同じことをやっているんですけど、周りが違うものの中に僕を入れてくれるから新しくなっている、という図式が多い気がするので。

――それこそ三井さんは、ボカロPのバルーンとしても知られる須田景凪さんの楽曲制作のサポートもしていますよね。

三井:それも僕としては、やっていることはあまり変わっていなくて、ギターを弾くくらいのことなので。いつも須田くんのデモが素晴らしすぎるので、僕はちょっと変えるくらいですね。良い経験をさせてもらっています。

オーイシ:須田くんの「メロウ」は俺も番組でカバーしたことがあるけど、すごくいい曲だよね。でもボカロ感はあまり感じないなあと思って。

三井:あの曲はJazzin'parkの久保田(真悟)さんとのコラボなので、須田くんのなかでも特殊な取り組みなんだと思う。「メロウ」は本当にいい曲。俺も大好き。というか(「メロウ」がOPテーマのTVアニメ)『スキップとローファー』(TOKYO MXほか)がいいよね。

【スキップとローファー】須田景凪の「メロウ」をオーイシマサヨシがフル尺カバー!【アニソン神曲カバーでしょdeショー‼︎】

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