三枝明那、『UniVerse』に凝縮されたライバーとしての信念 “歌”と共にあった5年間の集大成を語る

 三枝明那が1stミニアルバム『UniVerse』を9月25日にリリース。さらに、12月7日には初のソロライブとなる『Unity』が武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナで開催される。

 2020年からRain Dropsのメンバーとして活動し、2021年からはソロにおいてもオリジナル曲にチャレンジしてきた三枝明那。本ミニアルバムにはChinozo、くじら、堀江晶太ら名だたるクリエイターが楽曲提供しているほか、自身でも作詞に挑戦するなど、シンガーとしてさらなるステップアップを見せている。

 三枝は、2019年のデビュー当時から強い想いで“歌”に取り組み、「妥協せず、満足いくものを届ける」という意識のもとで音楽活動に臨んできたという。本インタビューでは、彼の音楽遍歴や歌への向き合い方を辿りながら、『UniVerse』の制作秘話、そこに込められた信念を聞いた。(編集部)

VTuber/ライバーを志たきっかけは、歌い手への憧れ

三枝明那

ーー三枝さんはVTuber/ライバーとして幅広く活躍していますが、そのなかで音楽活動にはどんな意識で取り組んでいますか?

三枝明那(以下、三枝):僕自身は、にじさんじからVTuberとしてデビューしたときに、最初は歌や音楽で目立てるように頑張りたいと思っていたんですけど、VTuberの文化に触れていくなかで、この活動はいろんな幅を持たせられるおもしろさがあると感じて。YouTube的には何かひとつ、特化したものや専門性があったほうがアルゴリズム的にも旨味があるなかで、にじさんじやVTuberは、基本的に何をやってもOKだし、おもしろければ観てもらえる。なので、今は音楽に限らずいろんなことをしたいと思っているのですが、そんななかでも歌は得意だと自分でも思っているし、視聴者さんもそこに光るものを見つけてくれていると感じることが多くて。なので作品を届けるときは妥協せず、満足いくものを届けるように意識しています。

ーーデビュー当初は音楽や歌を中心にやっていきたい気持ちが強かったのでしょうか。

三枝:そうですね。僕がデビューした2019年当時は、そもそも男性VTuberが少なかったですし、なおかつそのなかで音楽を売りにしている人はほんの一握りしかいなくて。そのなかで、にじさんじはオーディションですから、やっぱり今空いている席は何かを考えるわけですよ(笑)。そこで自分の持っているものとして、歌なら勝負できるなと思ったのがきっかけではあります。

ーーその頃から「日本武道館でライブをする」という夢を掲げていますが、その夢を抱くようになったきっかけは?

三枝:まず、活動を始めるにあたって、自分ひとりだけではなくみんなで目指せる目標を設定したいと思って、浮かんだのが武道館でした。当時はVTuberで武道館のステージに立ったことのある人はいなかったと思いますし、僕としてもいろんな音楽を聴いて育ってきた中で、武道館に立つことを目標にしているアーティストさんをたくさん見てきたことも大きくて。やっぱり音楽を志す人にとっては神聖な場所だと思うんですよ。きっとこのステージに立つことで、ひとつ大きな成長ができると思うし、数々のアーティストが立ってきたステージに自分も名を連ねられたら、活動として大きな足跡を残せるんじゃないか。それで目標に掲げるようになりました。

ーー三枝さんは歌配信も含めていろんなジャンルの楽曲をカバーしていますが、どんな音楽に触れて育ってきたのですか?

三枝:子供の頃はテレビっ子だったのでドラマの曲ばかり聴いていましたね。あまり自分から音楽をディグることはなくて、平成を彩るヒット曲をたくさん聴いて育ってきました。ただ、中学生の頃に、自分専用のパソコンを買ってもらってインターネット文化に触れていくなかで、ボーカロイドに出会って。そこからはボカロしか聴いていなかったくらいでした。

ーーボカロにもいろんなタイプの楽曲がありますが、どんな部分に惹かれたのでしょうか。

三枝:最初はオタクの音楽とか、「人間が歌った方がいいだろ」みたいな偏見を持っていたのですが、衝撃的だったのが、bakerさんの「celluloid」(2008年)という楽曲で。当時は“ボカロ=電波ソング”のイメージが強かったなかで、重厚なバラードかつ調声も人間に限りなく寄せたもので、そこからボーカロイドが持つ自由度の高さに惹かれるようになりました。それからは本当に多種多様な曲を聴いたし、歌いましたね。それと自分がVTuberを志すきっかけのひとつとして、インターネットで自由に自分を表現する人を見て育ったことが大きくて。「歌ってみた」や歌い手さんにも憧れがありましたし、自分もそういう人になりたいと思っていましたね。

ーー歌や音楽に関して、学んだ経験は?

三枝:いや、歌うこと自体は好きですが、特別習っていた感じではなかったですね。ただ、昔、進研ゼミの英語版みたいなPCで学習する教材(Challenge English)があったんですけど、そのスターターキットにヘッドセットがついてきて。その安っぽいマイクとフリーソフトを使って自分で歌を録音したり、CDコンポにマイクをLINE接続で繋いで、謎のオリジナルソングをカセットテープに録音して遊んでいました(笑)。

ーーちなみに三枝さんは「邦ロックリレー配信」などで、サカナクションやGalileo Galileiといったバンドの楽曲のカバーも結構歌っていますが、そういう音楽も自分のルーツにあるのですか?

三枝:いわゆるバンド系の音楽に関しては、姉の影響が大きいと思います。姉が好きで聴いていたCDを借りていいなあと思うことが多くて。サカナクションを聴くようになったのも姉の影響で。音楽は好き嫌いなくなんでも聴くタイプです、今もなお。

ーー最近聴いているお気に入りのものは?

三枝:最近だとラッパーのSKRYUさんの曲と、クリープハイプのトリビュートアルバム(『もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって』)をよく聴いていますね。

ーーラッパーの曲も聴くんですね。

三枝:はい。高校生の頃からMCバトルの動画を観るのが好きで、それこそ『フリースタイルダンジョン』が放送されていたときは毎週観ていました。SKRYUさんはその後のコロナ禍以降に有名になってきたと思うんですけど、バトルの動画を観て、すごくお洒落な歌い方をする人だなと思っていたので、音源をリリースし始めた頃からチェックしていて。最近、特にハマっています。かっこいいです。

ーーそういえば今回のミニアルバム『UniVerse』の収録曲「あさが来る!」にも、2番にラップパートが入っていました。

三枝:そうなんですよ。でも自分でラップをやるのは苦手ですね。何が正解かよくわからなくて。

(Music Video) はんぶんこ / 三枝明那

ーー活動の話に戻しまして、三枝さんは2020年よりRain Dropsのメンバーとして活躍するなか、2021年に初のソロオリジナル曲「はんぶんこ」を発表されました。

三枝:あれは友達のいゔどっとくんが作ってくれた曲なんです。僕のライバー活動の命題として、“表裏一体”や“鏡合わせ”という部分があるなと思っていて。VTuber自体そういう要素があるし、僕も人には「表裏がないね」と言われるんですけど、配信やプライベート関係なく、人には誰しも他人に見せていない裏面があるはずで。他にもライバーの活動において「視聴者はライバーの鏡」という論調があるなかで、であれば「自分にとっての鏡である視聴者は自分をどういう風に見ているんだろう?」という話をしたうえで、生まれたのがこの曲です。

ーーなるほど。歌詞は“僕”と“君”についての楽曲になっていますが、それは三枝さんと視聴者の関係性や、自分の中の表と裏の二面性、いろんな意味が込められているわけですね。

三枝:そうです。いろんなものの“表裏一体”をまとめて、自分としてそれを愛せるように、という曲ですね。もうひとつの裏テーマとして“次元を挿(はさ)んだ鏡合わせ”というのもあって。自分は今ライバーとして華々しく見える活動をしているなかで、例えば「ライバーにならない選択肢をした自分が鏡の反対側にいるとしたら?」っていう。これは他ではあまり話していないことですけど。

ーーもしかしてあったかもしれない世界線の自分に向けて、ということですね。もし、自分がライバーになる道を選ばなかったら、どうなっていたか想像できますか?

三枝:どうなっていたんだろう? でも、何かしらの形で自己表現する活動はしていたんじゃないかなあ。それしかできないというか、一般社会に溶け込んで生活する自分というのがあまり想像できなくて。

ーー自己表現に対する欲求が強いんですか?

三枝:いや、承認欲求みたいなものは他の活動者さんよりは少ないと思います。あまり目立ちたいとか注目を浴びたい気持ちがなくて。でも、何をしたらおもしろく見られるかがわかるタイプで、ざっくり言うと、効率良くバズれる力があるんですよ(笑)。「この人、こういうことをしたらいいのにな」みたいなプロデュース力とか、何が流行るかを的中させることが、活動を始める前からよくあって。だから自分は活動者が向いてるんだろうなって思います。

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