戌亥とこ（Nornis）

　にじさんじのバーチャルライバーの中でも高い歌唱力を持つことで知られ、それぞれがソロでも活動する町田ちまと戌亥とこがメンバーを務める音楽ユニット・Nornisは、テクニカルでクオリティの高い楽曲を多数リリース。変拍子やストリングスなどが交錯する複雑な展開の楽曲をなめらかに歌いこなす2人の歌によって、VTuberの音楽に魅力的な振り幅を加えてくれている。

　戌亥とこは、どこか夜の雰囲気をまとったようなスモーキーな歌声の持ち主として、今回紹介したいひとり。激しいだけではない、静かな歌声の中にこそ感じるエッジが魅力的に映る。5月にリリースされた「傾奇浄瑠璃」では、抑揚の効いたボーカルで和テイストの楽曲を妖艶に歌いこなす。一方、9月にアップしたSUPER BEAVER「らしさ」のカバーで見せる切なさを孕んだ力強いボーカルは、エモーショナルな楽曲の世界観を見事に表現している。2024年はNornisとして1stミニアルバム『Tensegrity』を発表し、この9月は全国3カ所を回るツアーの真っただ中。緻密に構成されたガラス細工のような楽曲や世界観でVTuberの音楽シーンの中でも魅力的な異彩を放っている。

Ibuki

　最後に紹介するのは、今年5月にデビューしたばかりのバーチャルシンガー・Ibuki。彼女は新しく立ち上がったバーチャルシンガーのプロダクション・Revival Productionの第一弾アーティスト。幼少期から音楽に親しみ、いつしかアーティストとして活動をはじめたものの一度は夢を諦めた少女が、ふたたび自分の夢を叶えるためのプロジェクトとなっている。

　デビュー以降はMori Calliope「Go-Getters」を含む様々なカバー曲を精力的に発表する一方で、すでに100万再生を突破しているデビュー曲「藍嵐」や2ndシングル「FRAMES」などオリジナル曲もハイペースでリリースしている。

　彼女の最大の魅力と言えるのは、パワフルでどっしりとした歌声の存在感。DUSTCELLのMisumiが手掛けたクラブテイスト全開のデジタルポップチューン「藍嵐」、トラップの要素を加えて歌とラップを行き来するyowanecityによるEDM曲「FRAMES」とこれまで発表してきた曲はそれぞれに多彩な音楽性ながら、芯の強さを感じる歌声には一貫して何にも染まらないような魅力がある。

　9月18日には、3rdシングル「Live or Sing」をリリース。この楽曲は作詞作曲をPurukichiが担当し、これまでの曲でも印象的だったクラブテイストを引き継ぎつつサウンドを一新。ガラージ系のハーフステップや極端に歌声を切り貼りしたボーカルエディットを加えたキャッチーなドロップなどで、フューチャーベースとハードコアが融合して生まれたインターネット発のクラブミュージック・フューチャーコア的な雰囲気を全開に。そのうえで、性急なビートに乗ってめまぐるしく音が飛び交うエッジの効いた音楽性に負けない、Ibuki自身の力強い歌声が楽曲の主役になっている。また、歌詞では「Live or Sing」というタイトルそのままに、歌への熱い思いを描写。「歌うことこそが人生だ」という、音楽や活動にかける気持ちを歌い上げている。ストリート感のあるエッジの効いたクラブミュージックの魅力を伝えてくれるシンガーとして、ますます活躍の場を広げてくれそうだ。

　デビュー間もないこともあり、Ibukiは現時点でライブを行ったことはない。しかし、これまでリリースされた3曲はいずれもフロアの熱狂がイメージできるアップチューンであり、早く彼女の歌声を生で聴きたいというファンの期待も日々高まっているはず。これらの楽曲を生パフォーマンスでどのように魅せるのか、ライブが彼女の真価が問われるタイミングになるのかもしれない。

■リリース情報
Ibuki「Live or Sing」
デジタル配信：https://nex-tone.link/A00161498

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