受け入れるのに必要な時間が10年ぐらいある

ーー「更衣室ディストピア」は直枝政広さんが編曲です。フレンチポップス風なのは、大森さんからオーダーしたんですか？

大森：これは詞曲を書いて送っただけです。

ーー「乙女」「女」「おばさん」「女の子」が登場して、終盤で〈みんな違ってみんなそれぞれ気持ち悪い〉と歌われる歌詞も容赦ないなと思いました。

大森：女という体に生まれたら、そういうものと向き合わざるをえないじゃないですか。「自分はこれが嫌」って向き合ってきたものを、羨ましいと思われたりすることが普通に理解できないっていうところから考えなきゃいけないのが多様性じゃないですか。それは「そうだね」ってすぐ思っちゃっていけない感じがして、うまく書かないと何かしらの差別になるし、でも人は生きてるだけで差別してるし。女の子社会で生きてきた男の子は自分よりも女の子だと思うし、私は男社会で生きてきた女だから、自分の女性性みたいなものを逆にすごく意識してしまうところがある。最近の多様性という言葉は一番狭い言葉になっちゃってるから、もっと面倒くさい感情をちゃんと描きたかった。だから、その間を縫いながら書いたって感じ。

ーー「幸内炎」はsugarbeansさんが編曲です。ポップで甘酸っぱくて、一般的なシンガーソングライターならこれを先行配信にすると思います。〈メロディはこない こーない えーん〉と〈ちょっと 痛かったかもね 幸内炎〉と、同じ音でかかっているんですね。

大森：そうですね。ちゃんと自分の技を使って、ポップミュージックを大森靖子としてやって、自分の声がいかされるキーで書いた曲って感じ。それも反骨精神でやってるかも。「シティポップとは？」とか「本当のかわいいとは？」とかに対して、「それはちゃんと技術と実力を持って書くとこうなります」っていうのを定義したくてやった気がします。

ーー「SickS ckS」はsugarbeansさんの編曲ですが、なんて読むんですか？

大森：「シックスサックス」です。

ーー「SickS ckS」も含め、今回歌詞に「トラウマ」の登場頻度が高くないですか？

大森：使っちゃいがちですね、「トラウマ」ってリズムを立てやすいんですよ。グルーヴが生まれやすい。

ーーみんなトラウマでグルーヴを立ててこうぜ、と。

大森：トラウマでグルーヴを立てていこうぜ、いいですね（笑）。「ト」が破裂音で頭を作りやすいし、「ラ」でグルーヴの流れを作りやすいし、「マ」で閉められるんですよ。トラウマは起承転結があるし、言葉に意味もあるし、最高。

ーー「さみしいおさんぽ」はミトさんが編曲です。シンセサイザー音がキラキラした90年代のアイドルポップスのようで、そこで〈さみしいままでいよう〉〈幸せは願うもの 触れないままイメージで〉と歌う大森さんの姿勢にしびれました。

大森：なんか幸せ原理主義みたいなのがあるじゃないですか。でも、何を幸せとして執行するかが楽しいだけであって、それを定義してしまったらもう何も楽しくないというか、それは商業主義的なところになっちゃうじゃないですか（笑）。幸せは自分の中で日によって変わるし、変わることを調整し続けようっていうことが幸福だと思うんです。「結婚して幸せだね」とか言われてたし、離婚して「俺たちの大森靖子が帰ってきた」みたいなことを言う人もいるし、クソくだらないじゃないですか。だから思考し続けようぜっていうことですよね。政治と一緒ですよ（笑）。

ーー「だれでも絶滅少女」はsugarbeansさんが編曲。こういう疾走感のある爽やかな曲に、複雑な大森さんの歩みが投影されている気がしました。〈キャンセル前提で呼ばれてもっと／欲張ればよかったな〉とか。

大森：これはMAPAの曲になるはずだった曲だけど、あんまりピンと来なかったみたいでキャンセルになったので（笑）、自分でもらった曲なんです。

ーーMAPAへの提供楽曲の「絶対運命ごっこ」がsugarbeansさんの編曲で追加収録されていますが、これはなぜでしょうか？

大森：自分で縁に始末を付ける曲なので、このタイミングで入れずにいられなかった、みたいな。エイベックスから出るのは、ラストのアルバムなので。

ーーえっ？

大森：ライナーノーツで匂わせてる（笑）。

ーーてっきり離婚したからかと思ってました。

大森：離婚は1ミリも関係ないんです。ZOCのこれまでの体制が終わったときに書いた曲なんで、それをMAPAに提供して。思ったよりいろんなことが終わっていきそうになるのを繋ぎ止めようとしていたけど、「自分でちゃんと始末をつけていったほうがいいんだ、そういうタイミングなんだな」と思って。だから、このタイミングで入れないとちょっとおかしいな、みたいな（笑）。離婚もその一種ではあるけど、別に離婚がつらくて書いたとかそういうことではない。（MAPAの）「怪獣GIGA」のほうが離婚かもしれない（笑）。

ーー「絶対運命ごっこ」は縁を終わらせていく曲だ、と。

大森：自分の中で縁って切っても切れないものだけど、別に運命じゃなくても運命として無理やり続けてきたものだったりするし、本当はこのまま続けていても自分の求めるものはないって思っていても、何となくやめられないものだらけじゃないですか、誰しも。しがらみとか仕事とか会社とか家庭とか。そういうものを自分で選んでいく人の曲です。

ーー「ムゲン来世」はsugarbeansさん編曲で、2022年の「ムゲンライセ」の再録バージョンですね。歌い直すにあたって意識したのはどんなところでしたか？

大森：けっこう前の曲で、しかもドラマ（『来世ではちゃんとします3』）のノリに合わせたボーカルテイクで録ったものだったし、声の手術をしたし。この前のツアー（『大森靖子アルティメット自由字架ツアー 2024』）で自分のボーカルのギアが一個上がって、もう別次元のことをやってる認識があるので、もう録り直さないとどうしようもできなかったみたいな。

ーー7分以上ある「最幸♡きゅん」は直枝政広さんが編曲です。直枝さんがアレンジに半年かかったとコメントしていましたが、最後の最後にポップかつアヴァンギャルドで、視点がどんどん地球単位までなるのに慄きました。

大森：でも、最初に書けました。

ーーここからアルバムが始まってるんですか。

大森：ここから始まってます（笑）。

ーー1分ぐらいのところは誰が歌っているんですか？

大森：あれはちょっとSPEEDっぽくしたくて。

ーー別人かと思ったら、大森さんなんですか。『THIS IS JAPANESE GIRL』は発表からリリースまで1年かけてリリースされますが、大森さんとしてはどう聴いてほしいですか？

大森：本当に読み解かれていくのって、またどうせ10年後になるっていう気持ちで作ってます。

ーー2014年の『洗脳』に収録されていた「子供じゃないもん17」が、10年経って流行ったみたいに？

大森：そうだと思います。

ーー10年かけて読み解かれることにも価値があるっていう考え方なんですね。

大森：受け入れるのに必要な時間が10年ぐらいあるんじゃないですかね。それで10年かかっていろんなものにパクられて広がって。「これはもともと私だよ」と言わないようにしてたんですけどね、ダサいじゃないですか。でも、SNSでも、はやってるものにもパクられてるんで。パクるんだったら仕事くれればいいのにって（笑）。私の曲の世界観で作ったな、っていうキャラクターもいっぱいいて。そういうことがこれから10年またあって、でも、そういうものを作れたことを自分の中だけで誇って生きていければいいかなって（笑）。

ーーアルバムを通して、この1年の大森さんを読み解くことにも力を注いでみたいです。

大森：いろいろ見て何か思ってる人は、「でも、こんな歌詞書けたんだから良かったね」って思ってもらえたらいいなって思います。やっぱり曲が一番偉いんで。楽しいと思います、情報量が多いから。

■アルバム情報
大森靖子フルアルバム『THIS IS JAPANESE GIRL』
2024年9月18日（水）リリース

Streaming & Download
https://seikooomori.lnk.to/THISISJAPANESEGIRL

CDの購入はこちら
https://seikooomori.lnk.to/THIS_IS_JAPANESE_GIRL

初回生産限定盤【CD+Blu-ray】[スマプラ対応]
価格：13,000円（税込）
セルフライナーノーツブックレット付属

DVD盤【CD+DVD】[スマプラ対応]
価格：6,000円（税込）

CD盤【CD Only】[スマプラ対応]
価格：3,500円（税込）

＜収録内容＞
[CD] ※3形態共通
01 THIS IS JAPANESE GIRL
02 大森神社
03 小悪魔的ッ☆相当キレてる feat. の子(神聖かまってちゃん)
04 ミス・フォーチュン ラブ
05 桃色団地
06 田中愛愛愛子
07 更衣室ディストピア
08 幸内炎
09 SickS ckS
10 さみしいおさんぽ
11 だれでも絶滅少女
12 絶対運命ごっこ
13 ムゲン来世
14 最幸♡きゅん

[Blu-ray]
・大森靖子 KILL MY DREAM TOUR 2023 at 人見記念講堂（2023.10.01）＋副音声収録
・大森靖子 超天獄 ZEPP TOUR at Zepp Nagoya（2023.03.16）
・大森靖子 超自由字架ツアー 2022 at 関内ホール（2022.09.22）

[DVD]
・大森靖子 KILL MY DREAM TOUR 2023 総集編
・大森靖子 アルティメット自由字架ツアー2024 at Yogibo META VALLEY（2024.06.07）

■ツアー情報
『THIS IS JAPANESE GIRL TOUR 2024』
＜ツアースケジュール＞
11月9日（土）新潟GOLDEN PIGS RED
11月10日（日）金沢EIGHT HALL
11月24日（日）GORILLA HALL OSAKA
11月30日（土）福岡BEAT STATION
12月1日（日）福岡BEAT STATION
12月14日（土）豊洲PIT
12月18日（水）名古屋DIAMOND HALL
12月22日（日） 仙台RENSA

＜チケット券種＞
■FC限定：アルティメットVIPチケット：¥30,000
＊オールスタンディング / 1コーラスリクエスト曲スマホ動画撮影＆チェキ会 / サイン入り写ルンです1枚付 / 最優先入場
■FC限定：VIP：￥10,000 ＊宛名入りチェキ付き(後日発送) / 優先入場
■一般チケット：¥5,000
■学割チケット：¥3,000 ＊要学生証提示
※全券種オールスタンディング / 税込 / ドリンク代別

＜チケット販売スケジュール＞
■一般発売 [ 販売券種：一般 / 学割 ]
イープラス：https://eplus.jp/oomoriseiko/
ぴあ：https://w.pia.jp/t/oomoriseiko-hs/

■関連リンク
大森靖子ホームページ：https://oomoriseiko.info/
大森靖子YouTube：https://www.youtube.com/user/oomoriseiko
大森靖子X（旧名Twitter）：https://twitter.com/oomoriseiko
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