堀江由衣『文学少女の歌集Ⅲ』を紐解く1万字インタビュー 今自覚する“好きなもの”と“やりたいこと”

“推し活”モチーフからお馴染み清 竜人楽曲…バラエティに富んだ『文学少女の歌集Ⅲ』

――1曲目の「夏は短し、恋せよ乙女」は新鮮な楽曲になったとのことですが、たしかに今までの『文学少女の歌集』シリーズにはない弾けた曲調ですし、歌詞の少しくすぶっている感じもおもしろいです。

堀江:ちょっとだらっとしている女の子というか。切ないことがあって力が抜けちゃった女の子の話なんですけど、〈借りた漫画も読んでないし〉とか〈ただぼーっとしてるだけ〉という歌詞は、こういう夏休みもあったなあと思いました。宿題をやるのがめんどくさくて、別に何をするでもなくダラダラしているっていう。その歌詞の抜け感と、サビの夏の感じがすごくいいなあと思って。

――1曲目らしい幕開け感もありますよね。

堀江:実はヨシダさんの書いてくださった「Love me Wonder」とどちらを1曲目にするかすごく迷ったんですよ。どちらもすごくオープニング感のある楽曲だったので。

――その「Love me Wonder」はヨシダさんらしい爽快なギターロックに仕上がっています。前作では「月とカエル」「25:00」「ラブアテンション」の3曲を書いていただいていたわけですが、今回はどのようにお伝えして作ってもらったのですか?

堀江:前回は3曲とも雰囲気の違う楽曲を作っていただいて、どれもよかったのですが、sajiさんの楽曲はもともと青春どストライクなところがあると思っていたので、「ザ・夏の青春っぽい曲」ということをお伝えしたら、まさにそういう楽曲になりました。きっとヨシダさんが歌ったらかっこいいんだろうなと思って。

――いやいや(笑)。

堀江:ヨシダさんの楽曲は全部難しいんですけど、この曲は(音程の)高低差がすごくて歌うのが本当に大変なんですよ。でも、突き抜けていくような爽快感や景色が広がっていく感じが、「夏、青空の下! 私、走ります!」みたいな気持ちで歌えて(笑)。私が思う「文学少女」の世界観にもすごく合うので、2作目で出会えて本当によかったなと思います。もともとは私のラジオ番組(文化放送『堀江由衣の天使のたまご』)にヨシダさんがゲストに来てくださった時に、sajiさんの楽曲がすごく素敵だったので、番組中に「楽曲、書いてくれないんですか?」とお話をしたのがきっかけで。今回もお願いできてよかったです。

――そしてもう1曲、今までにない雰囲気の楽曲として挙げていただいた「まじめにムリ、すきっ」は、堀江さんが最近ハマっている“推し活”をテーマにした曲です。

堀江:アルバムの収録曲のラインナップが出揃ってきて、あと何曲か必要だなと思った時に、私は毎回アルバムで1曲くらい作詞をしているので、自分で作詞しやすいように“推し活”をテーマにした楽曲を作ろうと思って。最初はもっと(ライブで)お客さんと掛け合いできるような曲にしようと思っていたのですが、この曲のデモを聴いた時に、ワードセンスや楽曲の雰囲気がすごく“推し活”っぽいと思ったので、「これはもう私の出る幕はない」と(笑)。そのまま少し調整していただいてできたのがこの楽曲です。

――堀江さんが思う“推し活”の要素が詰まっていたわけですね。

堀江:テンポが速くて頭のなかをいろいろ巡っていく感じもそうですし、歌もあえて行やワードごとに少しずつかぶる形になっているところが、推し活をしている人のずっと前のめりな雰囲気が出ていて。レコーディングでも、1行や2行ずつとかワードごとに細かく録っていったのですが、歌えども歌えどもなかなか進まないので、すごくフラストレーションが溜まるんですよ(笑)。たとえば〈I want you〉のところも、そのワードだけで録ったのですが、逆に歌いづらいんですよね。でも、完成したら「こういうことだったんだな!」と思いました。

――余談ですが、推し活にハマってから生活も変わりましたか?

堀江:いやあ、変わりました。すごく楽しいです(笑)。私はそれまで友達と遊ぶことがあまりなくて、仲のいい声優さんと約束してご飯を食べに行くくらいだったのですが、推し活の友人は「私は○時にはいるので、由衣さんももし時間が合えば!」みたいな感じで約束がとてもラフなことにびっくりして。推し活は、メインが推しのグッズを購入したりコラボカフェに行くことなので、友達と会うことは二の次というわけではないですけど、そういう遊び方があることがすごく新鮮でした。しかも推し活の友達の場合、プライベートの話をすることはあまりなくて、ずっと推しの話をしているんですよね。

――おもしろいですね。

堀江:そうなんです! 私は自分が推しているキャラクターのいるアプリゲームの界隈のことしか知らなかったのですが、推し活をしていると、他の界隈で推し活をしている人の話も結構聞くんですよ。グッズを購入するために7時間半並んだけど買えなかったという話を聞いたり、ライブのチケットが当たりやすくするためのチケットがあるという話を聞いたり、知らないことばかりなのでおもしろいなあと思って。そういう話や私が経験した推し活のエピソードをお伝えしたうえで、この楽曲の歌詞を書いていただいたので、私の推し活に対する気持ちがギュッと詰まった楽曲になりました。

――清さんが提供された「名前を呼んでくれたなら...♡」についてもお聞かせください。先ほどのお話ぶりだと、清さんには完全にお任せで楽曲を作ってもらうんですね。

堀江:はい。その時の清さんが「いい!」と思うものもあるだろうし、きっと清さんもその時々の私に合うものを考えてくれている気がしていて。そもそも「こういう曲がいいんです」とお伝えしても、大体その通りの楽曲はこないんです、もちろんいい意味で(笑)。「僕はこれがいいと思います」という感じで作ってくださったものが毎回素敵なので、今回もアルバムのトータルのコンセプトだけお伝えして、あとはお任せで作っていただきました。どんな楽曲が来るかわからないので、少しヒヤヒヤだったんですけど(笑)。

――前作ではバラード曲の「瑠璃色の傘を差して」を書き下ろしで提供されていました。

堀江:あの曲は本当に意外で、まさかピアノだけの“どバラード”が来るとは思っていませんでした。初めてご一緒した「インモラリスト」(12thシングル)の時も、1番の時点で今までにない曲調だと思っていたら、それ以降の展開もすごくトリッキーで壮大でしたし、「CHILDISH♥LOVE♥WORLD」(8thアルバム『秘密』収録)も楽曲のなかで私が応援されるのはすごいなと思って(笑)。でも、あれがあることで、ライブで歌うとみんなが応援してくれてすごく楽しいんですよね。もちろんあのパートをなくすこともできたのですが、絶対にあるべきだったし、「清さんがやることは間違いない」というのはスタッフも含め、一致した意見なのでお任せしています。結局、私たち凡人が言えることは何もないんです(笑)。

――今回の「名前を呼んでくれたなら...♡」はガーリーな楽曲になりましたね。

堀江:ストレートな楽曲をいただけたのでちょっと安心しました。なぜこういう曲になったのかはまったくわからないのですが(笑)。でも、楽曲がお洒落ですし、ヒロイン像もいつもすごくかわいいんですよね。ちょっとわがままな感じもあって。今回も「今の私にはこれがいいんですね、わかりました!」という気持ちで歌いました。

――清さんはレコーディングにも立ち会われたのですか?

堀江:はい、毎回来てくださいます。あれだけ歌がお上手な方なのでアドバイスをいただけたらと思うのですが、いつもあまり何もおっしゃらなくて、いつも「いいと思います」「今のも素敵だと思います」とたくさん褒めてくださるんですよ(笑)。

――以前、清さんに取材させていただいた時に、一時期、自分の活動に集中するために楽曲提供の仕事をストップしていたときも、堀江さんの依頼だけは必ず引き受けていたとお話されていて(※2)。清さんにとって堀江さんは特別な存在なんだなと思いました。

堀江:本当にありがたいお話です。先日の『キンスパ』(『KING SUPER LIVE 2024』/2024年5月11日・12日にKアリーナ横浜で開催)でも、「インモラリスト」を歌うことをお伝えしたら、会場まで観に来てくださったんですよ。私の他にも上坂すみれちゃんや田村ゆかりちゃんもいて、清さんが楽曲提供をしていらっしゃるアーティストも多く出演していましたし。結果、やまとなでしこ(堀江と田村によるユニット、『KING SUPER LIVE 2024』にサプライズ出演して話題となった)をすごく喜んでくださって、ライブ後にメールで「堀江さんのためなら何でもします」というメッセージをいただいたので、今後もまた清さんに何かしてもらおうと思っています(笑)。

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