『Project CO-MUSIX』対談:うたたね游&三阪咲、「マンガ×音楽」だからこそ実現した“感覚”の補完
人気アーティストを多数抱える総合エンターテインメント企業・アミューズと、コミック配信サービス・まんが王国を運営するビーグリーが共同で立ち上げた「マンガ×音楽」のクロスメディアプロジェクト『Project CO-MUSIX』が始動した。
その第1弾として、4組の漫画家とミュージシャンがコラボレーション。“叶わぬ恋”をテーマとした4篇のオムニバス作品「すべてがサヨナラになる」が展開されている。漫画家とミュージシャンが互いにインスパイアを受け合いながら、どのようにして4つのオムニバスストーリーが完成し、そして「マンガ×音楽」はどのように共鳴し合ったのか、リアルサウンドでは4組の漫画家とアーティストの対談を通して、このプロジェクトの真髄に迫る。
この記事では、『30年後のはじめまして』を手がけた漫画家 うたたね游と、マンガを読み、楽曲「ソレゾレ」を書き下ろした三阪咲、ふたりの対談をお届けする。(編集部)
「マンガ×音楽」ならではの発想が生んだ『30年後のはじめまして』と「ソレゾレ」
――マンガと音楽とのコラボレーションと聞いた時、どう思われましたか?
うたたね游(以下、うたたね):今までにあまりない企画だったので、純粋に「いいな」って思いました。InstagramとかTikTokもそうですけど、今って音楽付きで楽しむコンテンツが増えていて。なので、マンガも音楽と一緒に楽しんでもらえる企画があるといいなと感じましたね。
三阪咲(以下、三阪):私は、マンガを読むのが好きというのもあって、お話をいただいてすぐに「やりたい!」と思いました。でも正直、自分がその作品のことを知って読み込まないと、曲に落とし込むのは大変なので、ちょっと心配だったんですけど。でも、『30年後のはじめまして』を読んで大好きになって。読めば読むほど、やってよかったなって思いますね。
――おふたりは、一度打ち合わせで顔を合わせていらっしゃるそうですが、そこではどんなお話をされたんでしょうか。
うたたね:どのような曲を作っていただくかっていうお話を聞かせていただきました。
――では、すでに三阪さんのほうにマンガが渡ったあとだったんですね。
三阪:はい。
――時系列に沿って伺えればと思いますが、今回の企画は音楽とのコラボレーションということに加えて、マンガの原案や「すべてがサヨナラになる」というテーマが先にあったうえで『30年後のはじめまして』ができあがったということですが、うたたね先生はどのようなストーリーを膨らませていったんでしょうか。
うたたね:原案をいただいて、それを元にアレンジしていきました。こういったプロジェクトのお仕事をあまりやったことがなかったので、どうしようかなって最初は悩みました(笑)。でも、「すべてがサヨナラになる」というテーマがあったので、それがしっかり意味を持つ作品になったらいいなと思い、特にエンディングを自分なりにいろいろと考えました。
――時代を越えて惹かれ合う女の子と男の子のストーリーですが、こういった設定も原案からあったんですか?
うたたね:そうですね。30年前に生きる男の子と、今の時代を生きる女の子が出会うっていうのは決まっていました。
――では、三阪さんはマンガをお読みになって、どう思いましたか?
三阪:最初にタイトルを見た時に、「どんなお話なんだろう?」って。
――“30年後”なのに“はじめまして”って、たしかに不思議ですもんね。
三阪:そうなんです。でも読み始めたら、現実にはきっと起こらないシチュエーションなんですけど、登場人物の感情の動き方や会話は現実的で親近感があって。私も2年前まで学生だったので「こういう会話したなあ」とか「恋するとこういう気持ちになるよなあ」とか、とてもリアルに感じて。ファンタジーなんだけど自分のことのように捉える感じ。エンディングの「こんな終わり方になるんだ……」という印象も曲に落とし込みたいと思って、歌詞に〈それぞれのエンディング〉と入れたんです。
――おふたりで楽曲の打ち合わせをされた際に、うたたね先生から「こういう楽曲にしてほしい」というようなリクエストもされたんですか?
うたたね:私は、音楽に関する知識は全然ないんですけど(笑)。でも、昔と今を繋ぐ話なので、少年がいる80~90年代の流行の音楽と、少女がいる今の時代の流行の音楽がミックスされていると合うかもしれないというアイデアをお伝えさせていただきました。
三阪:私も、現代と過去がうまく融合したような楽曲を作りたいと最初から思っていたんです。ちょうどその時期に、昭和のイメージに寄せた楽曲(「tamerai」)を作っていたこともあって、今の自分の方向性ともリンクしていたので、いただいた意見を元に作っていきました。完全に書き下ろしだったので、曲も歌詞もすべて打ち合わせのあとに作っていきました。
曲のデモ段階で、昔っぽさと言いますか、(登場人物の)和也くんが生きていた時代の楽曲を取り入れたいとチームで話をしていて。そうしたら、作曲してくださった方が『E.T.』のテーマ曲のエッセンスをサンプリングのような形で落とし込んでくださったんです。
うたたね:すごい! 気づかなかった(笑)。マンガのなかに『E.T.』をもじった映画が出てくるんです。それがヒロインの莉子と和也のふたりを繋いでいた映画でもあって。
三阪:サウンドを振り切ったからこそ、私はマンガを読んだまま、ヒロインの莉子ちゃんと和也くんが好きな映画をモチーフにして、ファンタジーと現実を組み合わせて歌詞を書こうと思いました。マンガのなかに、歌詞に書きたい場面が多すぎて、どこをメインにするかすごく悩んだんですけど……。「彼女がいるから僕の心が動かされた」という和也くん目線で曲を書きたいとは思いつつ、ふたりを繋ぐのが映画なので、そういった物語らしさは歌詞でも表現したいと考えていました。
――女の子目線ではなく男の子目線で歌詞を書こうと思ったのは、なぜだったんでしょうか。
三阪:私、男の子目線で歌詞を書くのが好きなんですよね。それに、今回ふたりとも主人公ではありつつ、莉子ちゃんの感情が動くことが多かった気がして。莉子ちゃんの感情の揺れはマンガを読んでもらえば受け取ってもらえるからこそ、和也くん目線で歌詞を書いていこうと思いました。
――まさに、コラボレーションならではの発想ですよね。マンガを読むだけでも100%楽しめるけれど、楽曲を聴けば200%楽しめるように考えられる。
三阪:そうですね。ドラマや映画、アニメの主題歌とはまた違う形でのコラボレーションなので、うまく融合して化学反応を起こせればいいなあという気持ちはありました。
――ご自身のなかで、特にお気に入りのフレーズなんかはありますか?
三阪:何十回も書き直して、本当に厳選した言葉ばかりなんですよ。私は、先に曲があって、そこに一文字一文字当てはめていくので、10文字だったらきっちり10文字入れないとメロディが変わってしまう。でも、その枠があるからこそ、繊細な言葉たちが並ぶと思うんですよね。今回も、いろいろなワードのなかから、自分が好きなワードや感じたことを厳選して書きました。〈(君の正体を)夢見てる 願ってる〉は、特に好きかもしれないですね。
――なるほど。でも、そんなに書き直されたんですね。
三阪:そうですね。このマンガが大好きなので、すべてを書こうとしすぎて、結局何が言いたいかわからなくなってしまったり。もっとフォーカスしないといけないと思いながら、いろいろ書き直しましたね。
――「ソレゾレ」を聴いて、うたたね先生はどんな感想を持たれましたか?
うたたね:まずデモの音源をいただいたんですけど、イントロだけですごく惹き込まれて。実は、配信日まで毎日デモを聴いていたんです(笑)。
三阪:嬉しい(笑)!
うたたね:ちょっと懐かしさがあるメロディと、今っぽさのあるメロディが上手に織り込まれていて。歌詞も、さっき三阪さんがお話しされていたのを聞いて、本当にマンガを読み込んで書いてくださったんだなあっていうのが伝わってきました。私からは出てこないような、「こういう言い換えがあったのか!」というワードがたくさん出てくるし、設定やキーワードも上手に拾ってくださって。本当に嬉しかったですね。
楽曲単体で聴いても本当にいい曲なんですけど、もしマンガを読んでもらえる機会があるなら、絶対に「ソレゾレ」を合わせて聴いてほしいなと思います。読んだ後に聴くと、すごく世界観が広がる。本当にとってもいい曲を書いていただきました。
三阪:嬉しいです。今日こうやってうたたね先生から感想を伺えて、今回のコラボレーションをやらせていただいて、あらためてすごくよかったなあと思いました。